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白い暴動 (2019):映画短評

白い暴動 (2019)

2020年4月3日公開 84分

白い暴動
photograph by Syd Shelton

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.7

森 直人

立ち位置を決めること

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

音楽と政治。両者はいつも複雑な緊張関係にある。抽象性や情動性が強いぶん、スプリングスティーンにレーガンが、ストーンズにトランプが、星野源に安倍晋三が誤読やミスリードの文脈で乗っかってしまう。皮肉やダブルミーニングらも全て単純化される形で。

それでも社会を動かすことのできる音楽の力は、やはり希望であり大きな可能性だ。ナショナル・フロントの勢力が増す状況下で、RARは少人数のインディ組織ながら雑誌を自費出版し、10万人参加の大規模なデモや野外フェスを催した。そんな中、ファンには右派が多かったシャム69のヴォーカリスト、ジミー・パーシーがRARに関わることで態度決定していく辺りがとりわけ興味深い。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

社会を動かす強い意志が、存分に伝わってくる

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

現代も消えることがなく、増長するレイシズム、ナショナリズムに対し、40年前、反発に立ち上がった人→ミュージシャンへの伝播が、草の根的な逞しさとともに真摯に伝わる作り。ちらりと紹介されるデヴィッド・ボウイの立ち位置など細かいネタも貴重。

コンサートシーンは、わずかに残されたフッテージや写真をつないで何とか当時の盛り上がりを再現しようとした作り手の苦心に拍手。

移民の家の郵便受けから玄関内へ放尿するという証言は、この後に公開される『カセットテープ・ダイアリーズ』でしっかり描かれるし、『ボヘミアン・ラプソディ』でもサラリと言及された英国レイシズム。その根深さを今こそ訴えるという気運を痛感する。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

『ルード・ボーイ』世代はマスト!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

クラッシュのファン目線で描かれた『ルード・ボーイ』に登場した抗議運動「ロック・アゲインスト・レイシズム(RAR)」について、いろいろお勉強できる有難さ。きっかけとなるエリック・クラプトンの人種差別発言に、パンクが誕生するに至った背景のほか、RAR運営が極右団体・ナショナルフロントのファンが多かったシャム69をライブに招聘した理由といった、これまでモヤモヤしてたものまで、貴重な映像資料やコラージュを使ったポップなアニメなどで徹底解説。10万人規模のデモ活動~野外ライブの光景は、やはり鳥肌モノだ。本作後に『ルード・ボーイ』を観返すと、新たな発見ができるのは間違いない!

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

分断に反対しないのは容認と同じことと猛省!

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

タイトルからザ・クラッシュのドキュメンタリーと思い込んでいたら、正しい志のカルチャー・ムーブメントの実録。経済不安から生まれる移民排斥機運にノーを突きつけた芸術家と仲間たちのRAR(差別反対)活動や功績が当時の映像や当事者の証言で蘇り、まさに胸アツ! 雑誌記事やフッテージ映像、アニメーションなどを織り混ぜた映像は、同人誌やパンフレットの配布という草の根運動で拡大したRARの活動を彷彿させ、活動に対するR・シャーの敬意を感じる。まさに今、世界中で起きている分断に反対する勇気を与えてくれる快作だ。SNS時代の今なら炎上必至のE・クラプトンやR・スチュワートの発言に驚愕。ファンが減るな。

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相馬 学

40年前の記録にして“今”の闘争ドキュメント

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 1970年代の英国を描いたドキュメンタリーだが、そのスピリットは現代にも通じる。スピリットとは、すなわち人種差別はクソ……ということ。

 右翼政党が台頭する当時のイギリスで、若者たちは移民排斥の動きノーを突き付ける。彼らの原動力はパンクロックと、それが訴えていたDIY精神。時代の波に抵抗し、時代を動かしたこの記録は、理想の追求が無にならないことを伝える。そのメッセージはアジアの片隅で生きる者にも無縁ではない。

 音楽好きとしては『ルード・ボーイ』にも収められていた、クライマックスのザ・クラッシュのライブ・パフォーマンスにもアツくなる。ノスタルジーではない。闘いはまだ続いているのだから。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

70年代ロンドンの熱い息吹が現在に直結する

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 有名なライブイベントの楽屋裏ものかと思ったらそれだけではなく、このライブが実現する背景となった公民権運動、ロック・アゲインスト・レイシズムとは何かが正面から描かれる。この運動がどのようにして生まれたのか、当時の社会がどんな状況だったのか、参加した人々は何を考えていたのか。それらが、人気ミュージシャンだけでなく、その運動に関わった普通の人々の発言や行動によって映し出されて、熱い熱気を放つ。そして、彼らが抱いた問題意識が現在に直結する。
 加えてこの運動が手作り冊子やチラシによる"グラフィック表現"と密接に結びついていたことも見えてくる。映画という視覚表現だからこそ明確になるこの側面も興味深い。

この短評にはネタバレを含んでいます
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