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カセットテープ・ダイアリーズ (2019):映画短評

カセットテープ・ダイアリーズ (2019)

2020年7月3日公開 117分

カセットテープ・ダイアリーズ
(C) BIF Bruce Limited 2019

ライター8人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.4

なかざわひでゆき

『マイ・ビューティフル・ランドレット』と併せて見て欲しい

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 シンセポップやハイエナジーの全盛期だった’80年代イギリス、移民の少ない田舎町で居場所をなくしたパキスタン系の高校生が、アメリカンロックの王者ブルース・スプリングスティーンの音楽に救われ、人生に希望と目標を見出す。弱者を切り捨てるサッチャー首相の経済政策で失業者が急増し、移民への風当たりが厳しかった当時の英国社会。少年も外へ出れば差別と偏見に晒され、家の中では母国パキスタンの古い因習に縛られる。21世紀の今にも続く移民社会の根源的な問題を浮き彫りにしつつ、ポップで瑞々しい青春映画として仕上げている点が好感度大。『マイ・ビューティフル・ランドレット』と併せて見ると、より味わいが深くなるはずだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

青春時代の悩みに共感しまくり

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

エネルギーとハートがたっぷり。見終わった後、思わず微笑んでいる自分に気づく。主人公は80年代のイギリスに住むパキスタン移民。しかし、アイデンティティの葛藤、親の望むことと自分の夢のギャップ、その夢をつかめるのかという不安、「この小さな街を出ていきたい!」という思いなど、彼が抱えることに思いきり共感できる人は多いだろう。そんな時にドンピシャな音楽に出会えて元気付けられたという経験も、きっとあるはず。強烈な人種差別に怯えながら、オープンマインドな人々たちにもちゃんと出会えるのも素敵。そこには悲しいかなタイムリーさもあり、一方でウォークマンなど80年代のディテールがノスタルジアも与えてくれる。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

アートのパワーを感じる、痛快で温かい青春ドラマ

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

抑圧されたインド人女性の視点で描く物語に定評あるG・チャーダ監督の新作は、パキスタン移民少年の視点で進む。80年代のイギリスに生きるロックと詩をこよなく愛する少年ジャベドが感じる閉塞感と、それを打破する鍵となるB・スプリングスティーン音楽を巧みに組み合わせ、時代感を見事に再現。保守的な父親の無理解や白人の蔑視で疲弊した心を癒し、さらには世界に飛び出したいと願わせるボスの音楽の使い方もナイス! 人間をインスパイアするアートのパワーを感じる。街中で歌い踊るミュージカル的なシーンが印象的だし、偏屈な隣人とジャベドのちょっとした会話やなどで人間の温かさも演出。チャーミングな快作だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

止まらない初期衝動

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

さすがグリンダ・チャーダ監督作。放送室占拠からミュージカルと化す「明日なき暴走」のシーンを始め、人種・社会問題や音楽と青春ドラマの絡め方が見事。渡米しての聖地巡礼シーンなど、『ワイルド・ローズ』と観比べるのも一興だ。とはいえ、本作の面白いところは、初期衝動を描きながらも、“ボス”の音楽という“光で目もくらんだ”パキスタン移民の主人公がバンドを組むわけでもなく、物書きという夢を突き進むところ。一方、すべてをハッピーエンドで終わらせないチャーダ監督らしいビターさも健在。MTV世代が懐かしさにどっぷり浸る一方、主人公と同じ“ボス”を知らなかった世代の方がガツンと来るかもしれない。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

俺たちの”ボス”は自国ではなく、アメリカにいた!

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ティーンエイジャーの音楽愛を描いた近年の快作に80年代アイルランドを舞台にした『シング・ストリート 未来へのうた』があるが、その情熱に負けず劣らずの、同年代英国を舞台にした本作。

 主人公は人種差別を体感するパキスタン移民の少年。背景の社会性は『白い暴動』を連想させるが、彼の得た武器はパンクではなくブルース・スプリングスティーン。その歌詞に真摯に惚れ込む十代の熱量にグッとくる。

 自伝小説の映画化だけに等身大のユーモアはもちろんリアリティもしっかり宿る。『ベッカムに恋して』のインド系英国人監督G・チャーダのイイ仕事。スプリングスティーンなんてダサい……と思うパンクな人にも見てほしい。

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平沢 薫

その歌が自分の歌だと気づいた瞬間の映像がいい

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 主人公が、突然、聞いている歌の歌詞が、自分の気持ちを歌っているのに気づく。その瞬間、言葉が実体を持つ。この映像がいい。
 彼はその発見に驚き、いてもたってもいられずにイヤホンを耳に挿したまま夜の通りに出て走り回る。この時、湧き上がってくる興奮、昂る気持ちは、スプリングスティーンとは関係なく、音楽が好きになったことがある者なら誰でも身に覚えがあるはず。初めて音楽にハマった頃のやみくもな高揚感、陶酔感が鮮やかに甦る。この喚起力が凄い。
 そして、実は87年英国の社会情勢を描く映画でもある。英国ポップファンには「マンチェスター大学に行きたい」「スミス?」という会話のような小ネタの数々も楽しい。

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斉藤 博昭

ヘビロテで観続けたい。イギリス映画のひとつの真髄

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

移民やナショナリズムなど現在も増幅する社会派テーマを通底させつつ、基本は主人公が才能に気づき、夢を追うというシンプル、かつ共感確実ストーリーに徹する。B・スプリングスティーンの歌詞のメッセージが迷いを消し、力強く後押しし、ミュージカルのようなノリの良さが深刻さを抑える。主人公に怒り、あるいは応援する大人たちの役割も含め、ここまで全体のバランスがいい作品は珍しい。

恋と友情で『小さな恋のメロディ』、なりたい自分と周囲との葛藤で『リトル・ダンサー』、そこに音楽もポイントで加えた『ボヘミアン・ラプソディ』と、英国舞台の傑作のエッセンスが凝縮され、ラスト嗚咽必至→その後、爽快と、これこそ映画の奇跡!

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森 直人

見た目は元気な青春映画、奥はブレグジットに繋がる政治映画

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

英国はサッチャー、米国はレーガン(スプリングスティーンと因縁アリ)の1987年。85年のダブリンを舞台にした『シング・ストリート』が素直な同時代音楽への憧れを基盤にしていたのに対し、ルートン(ロンドンが東京なら北関東的)に暮らすパキスタン系の鬱屈した10代男子には、なぜボスの音楽が響いたのか――という疎外と抑圧の多層性が本作の肝となる。

作りは全く平易な音楽青春映画だが、さりげなく背景に込められた政治/社会的情報は濃厚。移民問題は『マイ・ビューティフル・ランドレット』や『ぼくの国、パパの国』、国民戦線は『THIS IS ENGLAND』、GM問題は『ロジャー&ミー』等に補助線が引けるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
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