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ルース・エドガー (2019):映画短評

ルース・エドガー (2019)

2020年6月5日公開 110分

ルース・エドガー
(C) 2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.9

山縣みどり

アメリカに蔓延る人種問題の複雑さを感じる

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

裕福な白人夫婦と養子の黒人少年ルース、彼らを取り巻く人々の深層心理がある出来事をきっかけに暴き出され、人間の多面性を感じさせる。黒人の立ち位置や心構えから生まれるねじれ、裕福なインテリ白人の特権意識やポリティカル・コレクトの弱点は、現代アメリカの縮図でもある。さらに子を成せない母親の罪悪感も絡み、事態が複雑化していく展開にしびれる。元少年兵ルースの心のひだには誰も触れることはできないの? 疑問が苦い後味となる。ルース役のK・ハリソンJr.はじめ役者陣が熱演し、物語の奥行きをさらに深くする。
Black Lives Matter運動拡大中の今、多くの人に見て欲しい。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

被差別者にのしかかるステレオタイプという呪縛

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 奇しくも非常にタイムリーな映画と言えよう。ストーリーの焦点となるのは、学業成績優秀で周囲からの期待が高い黒人高校生ルースと、生徒たちの生活態度に厳しい目を向ける黒人女教師ウィルソンの緊迫した思想的な対立だ。有色人種で女性というハンデを持つウィルソン先生は、マイノリティが社会で生きていくためにはマジョリティよりも模範的な市民であるべきと考える。彼女が人生経験から学んだ処世術であり、差別からの自己防衛策だ。しかし、白人のリベラルな養父母に育てられ、自由というアメリカの建国精神を信じる若いルースはそれが理解できず強く反発する。今現在アメリカで過熱しているデモを理解するうえでも必見だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

身近な問題を重ねて大きな問いを描く脚本に唸る

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 一人の男子高校生、その家族と学校という狭い世界に、現在社会の抱えるさまざまな問題を自然に重ね合わせた脚本が上手い。嘘をつくのが巧みな者が利益を得るという世界は、どこに向かうのか。そうした大きなテーマに、移民や養子という社会問題、親と子の関係、教師と生徒の関係という普遍的な問題が絡む。そして、オクタヴィア・スペンサー演じる歴史教師が主人公に言うように、これらの問題は、主人公が今いる狭い場所だけではなく、アメリカだけでもなく、世界全体に蔓延しているのだ。原作戯曲と本作の共同脚本を手掛けたJ・C・リーは、TV「ザ・モーニングショー」やTV「殺人を無罪にする方法」の製作と脚本も手掛けている。

この短評にはネタバレを含んでいます
村松 健太郎

ケルヴィン・ハリソン・Jrという発見

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

『WAVES/ウェイブス』では物語の中に飲み込まれた感のあったケルヴィン・ハリソン・Jrが本作ではしっかりと物語を支配していて、目が覚めるような感覚に襲われる。ナオミ・ワッツ、オクタヴィア・スペンサー、ティム・ロスを相手に回して、これだけの存在感を見せつけるとは思いませんでした。
ウィル・スミスとバラク・オバマを基に創出されたルースと言うキャラクターは複雑さとシンプルさが同居した存在で、現在のアメリカのある部分体現していると言っていいでしょう。ケルヴィン・ハリソン・Jrの存在感で☆一つプラスです。

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くれい響

ジェフ・バーロウの劇伴が不穏さを増長

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

さすがは、あの問題作『クローバーフィールド・パラドックス』のジュリアス・オナー監督作。今度も豪華キャストなどにつられると、終始「これでいいんか?」な空気感に包まれる。とはいえ、「オバマ政権時に書かれた戯曲(会話劇)」として観ると、(ラスト含む)匂わせつつ、観客に投げっぱなし展開も、イヤミスとしてジワる。またも“あぶない少年”を演じ、「聖人でなければ怪物」と嘆くケルヴィン・ハリソン・Jr.らの芝居もみどころだが、特に印象的なのが、ポーティスヘッドのジェフ・バーロウによる不穏さを増長させる劇伴。そのためか、彼が手掛けた『エクスマキナ』など、アレックス・ガーランド監督作に通じるところも!

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森 直人

「優等生」の多層的な迷宮

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

面白くて驚いた。イメージと内実の落差は『テッド・バンディ』に通じ、思春期の観念的な危うさは『その手に触れるまで』とも接続可能だが、特異な少年ルース(『WAVES』と真逆の温度感で好演するケルヴィン・ハリソン・Jr.)と共にもっと闇の奥まで歩みを進めて人間と世界を内観する。

O・スペンサー扮する米国黒人教師との対決/対話が白眉だ。アフリカ紛争地から拾われた「養子」(象徴的な設定)が、オバマ(+ウィル・スミス)的な理想のテンプレを巧く演じる中でせり上がる葛藤。脱植民地主義を説くフランツ・ファノンへの傾倒は原作戯曲になくオナー監督の選択らしい。根幹はまさに「アメリカ的物語」への批評だと言える。

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猿渡 由紀

ケルヴィン・ハリソン・Jr.にますます注目

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

「少年は残酷な弓を射る」を思い出させるが、もっと微妙な怖さをもち、さらに人種というアメリカが抱える大きなテーマをはらむのが今作。一生懸命育てたのになぜ、という親の葛藤が、観る側を切なくする。「少年は〜」と違い、主人公ルースは養子なので、特別養子縁組にあまり積極的でない日本の観客は、この制度にさらに悪い印象をもちそうなのがやや心配。キャストは全員すばらしく、演技で見せる映画でもある。とくに光るのは主演のケルヴィン・ハリソン・Jr.。「WAVES/ウェイブス」でも最高だったが、インディペンデント・スピリット賞にはこちらの映画で候補入りした。今、一番注目したい若手のひとりだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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