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シリアにて (2017):映画短評

シリアにて (2017)

2020年8月22日公開 86分

シリアにて
(C) Altitude100 - Liaison Cinematographique - Minds Meet - Ne a Beyrouth Films

ライター8人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

中山 治美

ドキュメンタリーでは描けない戦争の現実

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

シリア内戦のドキュメンタリーは多数公開され、爆撃の惨状はもちろん、『アレッポ 最後の男たち』のように登場人物たちがその後犠牲になり、重石のように心にずっと引っかかっている作品もある。これ以上の悲劇はあるのか? ”今”を伝えるには視覚に訴えるドキュメンタリーがベストじゃないか? だが、実写でしか伝えられない現実があることを気づかされた。それが性的暴力。連綿と続くも、なかなか表沙汰にならない戦争のもう一つの側面だ。本作でその蛮行は、扉を一枚隔てた空間で起きる。仲間を守るために。被害者の哀しみと怒りに満ちた目は、扉の内側で秘していた仲間たちだけでなく、間違いなく傍観者である我々にも向けられている。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

戦時下における一般庶民の生き地獄を生々しく描いた傑作

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 紛争地帯と化したシリアの首都ダマスカス。とあるアパートの一室を舞台に、肩を寄せ合いながら息を殺すようにして暮らす人々の1日を通して、戦時下において一般庶民が直面する恐怖を生々しく描く。窓の外は激しく砲弾が飛び交い、アサド政権軍のスパイナーが動く人間を常時狙う荒れ果てた戦場。一方で家の中が安全かといえば勿論そんなことはなく、いつ何時、ケダモノと化した過激派や強盗が襲い来るか分からない。武器を持たない女性や子供、老人はあまりにも無力。24時間常に命の危険と隣り合わせで、いざとなれば我が身を守るため隣人を見殺しにせねばならぬ生き地獄。断固として戦争に反対せねばならぬ理由の全てがここに詰まっている。

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轟 夕起夫

戦争映画でも反戦映画でもなく、戦争についての映画

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

ファーストシーンを観たら……いやその前の、まだ黒みにクレジットとタイトルが浮かび上がるまでの早朝の気配、どこか不穏な状況音を耳にしたらもう最後、画面から目が離せなくなる。今も続くシリア内戦。我々は舞台のアパートの一室に“拉致”され、そこで「戦場下の日常」をある一家や隣人たちと共に味わうことなる。

それは、外で爆発があっても赤子が泣かない狂った日常だ。改めてタイトルに注目しよう。『シリアにて』。ヒア&ゼア、こことよそ。なぜ我々は閉じ込められ、恐れ慄く人々を安全地帯から眺めているのか? タイトルが「東京にて」「大阪にて」……等に変わってもおかしくはない、そんなパラレルワールドを思わず想像する。

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相馬 学

内戦下では巣ごもりも命がけ

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 これが内戦下の日常であると思うと、かなりヘビー。そんなシリアの庶民生活を体感させる点で、本作は意義がある。

 外に出ればスナイパーに狙われるので水や食料の調達は命がけ。家にこもっても火事場泥棒的な強盗が押し入ってくることもあり、ドアの厳重ロックは欠かせない。そんな緊張感が物語をサスペンスフルに動かしている。

 子どもの嬌声や、いたずらをした彼を叱る親の声など日常的な場面もあるが、それも砲弾の音と揺れで遮断され、瞬時に緊張が走る。そんな一日が明日もあさっても続くことを示唆する結末。製作は2017年だが、紛争は現在も続いている。それを踏まえると、本作はさらにヘビーなものになる。

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山縣みどり

内戦下に生きる人間の悲惨さを伝える異色の戦争映画

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

国民が独裁政権にNOを突きつけたシリア内戦は泥沼化し、終わりが見えない。本作は首都のアパートに残った二家族とメイドの視点で国民が直面する恐怖を描く異色の戦争映画だ。人々を脅かすのは街角に潜むスナイパーや飛び交う砲弾はもちろん、物資不足や金目のものを狙う強盗も! 戦争は人間性やモラルも崩壊させ、豹変した隣人が女子どもしかいない家を狙って狼藉し放題。その状況をサバイバルするために心を鬼にする母親オームもまた良心を1片ずつ失っていくしかない。若く美しい主婦ハリマが悲惨な目にあう状況に目を覆いたくなるが、これが現実なのだ。メディアの関心が薄れた内戦のリアルな状況を私たちは知らなくてはならない。

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猿渡 由紀

このアパートはシリアそのものの象徴

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

とても恐ろしくて、残酷で、時には「もう見られない」と思うほど。しかし、これは見なくてはいけない映画。シリアのアパートに住む普通の人々の視点で語る今作は、紛争のまっただ中に住むというのがどういうことなのかを見せる。そこにあるのは、人間の姿。苦悩、苛立ち、怒り、罪悪感。同時に、思いやり、自己犠牲、勇気、わずかながらも持ち続ける希望もある。そして、この小さなアパートは、シリアの象徴そのものでもあるのだ。ニュースで聞いてもなんとなく流しがちな遠いところの話題に、人命の重さを与えてくれる秀作。1日に焦点を当てた、無駄のない、緊張感あふれるスリラーとしてもよく出来ている。

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くれい響

戦争ドラマでありながら、密室サスペンス

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

シェルターと化したアパートの一室を舞台に、非武装市民の視点から見えてくるシリア内戦。とはいえ、状況設定が説明されるわけでもなく、家族の何気ない朝のスケッチから幕を開けるため、かなり異色の戦争ドラマといえるだろう。スナイパーの手により、隣人の夫が撃たれるオープニングを除けば、爆撃やサイレンなどの聴覚で想像させる音響効果が重大な役割を果たしており、それにより密室劇としての緊迫感が高まっていく。そして、「あなたなら、どうする?」を叩きつけられるクライマックスに突入。『娘は戦場で生まれた』の衝撃にかなわないものの、肝っ玉母さんを演じるヒアム・アッバスの芝居は、とにかく圧巻だ。

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森 直人

「現実の搾取」を誠実に回避した紛争の劇映画化

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

2017年制作で、いまだ終結せぬシリア内戦を描いた“市街戦の中の密室”劇。現在進行形の紛争を扱う早さには感嘆するが、一方で距離感が非常に難しいと思う。生々しい政治問題、社会問題を劇映画にする際、極限状況の疑似体験=アトラクション化は、現実を徒に「エンタメ消費」してしまうような危険を含んでいる。

その点本作は慎重にバランスを取って、真摯に作っている印象を持った。スリラーでありつつ固有の社会状況を手放していない。ワンシチュエーション物だが舞台劇調に陥らず、過酷な現実の広がりを伝える。おそらく後年シリアについての映画はハリウッドでも作られるだろう。だからこそリアルタイムで産まれた一本として貴重。

この短評にはネタバレを含んでいます
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