不可解な動機と奇妙な家族の16年

2013年7月18日 清水 節 真夏の方程式 ★★★★★ ★★★★★

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真夏の方程式

 海辺で過ごす少年のひと夏の物語という事件への導入は、郷愁をそそる。騒々しい新人刑事・吉高由里子が登場する必然性は薄いが、福山雅治が所構わず数式を書きまくって事件を解明するようなあざとい演出はない。TVシリーズ『ガリレオ』番外篇である本作は『容疑者Xの献身』同様、無表情の物理学者の天才よりも人間性に光を当て、「映画」を志向してみせる。しかしディテールの詰めはあまりにも甘く、不可解で歪なミステリーに成り果てた。▼さて、ここから先はネタバレを含むことを、ご了承いただこう。▼まず、16年前に起きた殺人事件を解明しようと田舎町に訪れた元刑事・塩見三省の殺し方が問題だ。家族の過去を暴かれたくない父・前田吟による偽装殺人。最初のトリックも致死の確実性は弱いと言わざるを得ないが、2つめの偽装は検死解剖されることを想定しておらず、「おいおい…」とつぶやくしかない。▼最大の難点は、前田吟の娘役・杏が、中学生の時に犯してしまった殺人の動機である。衝動殺人というものは存在するだろう。しかしなぜ殺すに至ったのか。このイメージ処理の回想に対しては、「さっぱり分からない」という主人公の決めゼリフを進呈しよう。そして、罪を被って懲役となる人物がいる。深い罪悪感を抱えて育ったはずの杏と、忌わしき過去をひた隠しにしてきたはずの家族の描写に、陰りがなさすぎる。さらに前田吟は、何のためらいもなく、事件とは全く関係のない親戚の少年に、無意識のうちに殺人を手伝わせるという異常さ。▼愛ゆえに殺し、愛ゆえに守り抜き、愛のために赦す。全編を覆う、そんなトーンに騙されてしまう観客もいるのだろうか。犬神家よりも業深きクレイジーな家族としてこの一家を描くのなら、まだ納得できたのかもしれない。

清水 節

清水 節

略歴:映画評論家・クリエイティブディレクター●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書に「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞、ギャラクシー賞、民放連最優秀賞 受賞

近況:●円谷プロ「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「シド・ミード展」未来会議ブレーン、図録寄稿●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」

サイト: http://eiga.com/extra/shimizu/

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