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ブラインドスポッティング (2018):映画短評

ブラインドスポッティング (2018)

2019年8月30日公開 95分

ブラインドスポッティング
(C) 2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

ライター8人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.5

ミルクマン斉藤

「こうしなけりゃ誰も俺の声なんて聴いてくれないからだ」

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

はっきり言って現在のスパイク・リーなどよりもずっと聡明で知的、リズム感抜群の演出・編集センスも斬新な傑作。人種的垣根の低い土地で幼馴染として育ち、今も一緒に働くふたりの主人公。ふたりの見聞きするものはずっと同じであるはずなのに、ある事件をきっかけに人種的格差と偏見からくる溝が明らかとなってくる。しかし、それに気づいたとき、ふたりにはじめて真の関係性と互いへの理解が生まれるのだ。そんなテーマは極めて同時代的で深いけれども、台詞がラップ…というよりストリート・ポエトリーの形を取っているのが本作最大のスタイルの発明である。軽快ではあるが、見出しに掲げた言葉がヒップホップの原点を示して震える。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

人種を超えたバディ関係は一服の清涼剤

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

生かした音楽に乗って、かつて住んだオークランドの風景や映像が次々に流れる冒頭から前のめり。パロール中の元バウンサーの黒人青年が主人公で、白人警官による黒人青年射殺事件が絡む社会派ドラマだが、作品のトーンはバディもの。しかも人種差別や銃規制、ジェントリフィケーションの弊害といった深刻な問題を描きながらも随所にユーモアを交えるC・L・エストラーダ監督のセンスはとても好み。主演のD・ディグス&R・カザルが書いた脚本のセリフも心に響くものが多く、何度も見返したくなった。『ピッチ・パーフェクト』でもいい味出していたU・アンブドゥカルの一人芝居には爆笑! 分断が進むアメリカにとっても一服の清涼剤のはず。

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森 直人

ファイト・ザ・パワーの向こう側とこちら側

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

いま最も難しいのは「変化」を生々しく正しい位相で捉えることだと思う。本作はジェントリフィケーションの象徴としてよく語られるオークランドの現在を舞台に「地元の不良 vs.新参のヒップスター」との図式が敷かれる。だがその奥のレイヤーに居座るのは“古くて新しい問題”の人種差別。コリン(ダヴィード・ディクス)&マイルズ(ラファエル・カザル)の友情には無数の亀裂=「小さな分断」が走っている。

一筋縄ではいかぬ融和への道。ローカルの日常の徹底密着から世界の本質を撃つ視座にグッと来た。そしてひび割れた街の隙間からラップが聞こえる。これは現場から直送された“声を張らない”ストリート・ミュージカルだ。傑作!

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斉藤 博昭

シンプルな友情ストーリーとして、痛みが熱い感動に変わる

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

あと3日間を何もなく過ごせば、完全な自由を取り戻すことができる主人公。その設定は、じつに映画にふさわしく、当然のごとく事件や不本意な出来事が重なって、観ているこちらは主人公の真綿で首を絞められるような焦りを、無意識レベルで共有していく。もちろん底流には人種問題が漂っているのだが、そんな社会派テーマを乗り越えて、友情とその葛藤にも鋭く切り込んでいくので、主人公が育った環境に縁のない観客の心も鷲掴みにするのだろう。ダメな親友との、やるせなくも熱いドラマとして純粋に感動できるのだ。音楽とセリフのリズム、キャストの心得た演技、タイトルの意味がもたらす余韻と、映画的要素がどれもうまく機能した珠玉作。

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なかざわひでゆき

都市再編に取り残されていく人々の複雑な心情

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 新興富裕層の流入によって都市再編の進むカリフォルニアのオークランドを舞台に、その変化に戸惑う地元育ちの親友コンビの悲喜交々な日常を通じて、地域の発展から置き去りにされてしまう貧しい人々の複雑な心情を浮き彫りにする。そのうえで、黒人と白人という2人の人種的な立場の違いによって、見える風景にも微妙な差の生まれるところがまた興味深い。脚本を兼ねる主演のダヴィード・ディグスとラファエル・カザルは、実際にオークランド育ちで幼馴染みの親友同士。アメリカ社会の一面をリアルに切り取り、庶民の素顔を鮮やかに活写した作品。明日への希望を感じさせる爽やかな後味の良さも魅力だ。

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くれい響

ネオ・オークランド系映画

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

黒人の主人公が自由の身になるまで3日間というタイムリミットと、白人の相方とのEXITの漫才にも通じる軽妙ながらも、ちょいとムカつく会話。そんなサスペンスとお笑い要素が際立ちながら、骨太な社会派ドラマや強烈なメッセージなども絶妙なバランスで盛り込まれた“現代の『ドゥ・ザ・ライト・シング』”だ。しかも、舞台がブラックパンサー党が結成されたカリフォルニア州・オークランドというのが、さらにフックとなっており、『ブラック・クランズマン』にモノ足りなさを感じた人こそ観るべき熱量の高さといえる。同様のテーマを扱いながら、劇場未公開に終わった『ヘイト・ユー・ギブ』と観くらべるのも一興だ。

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平沢 薫

映画がラップのリズムで動く

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ただの社会派映画ではない。貧しい黒人たちが住む地域で育った、幼なじみの黒人とヒスパニック系白人が、片方の指導監督期間の残りを無事に乗り切れるのか。そのわずか3日間の出来事の中に、地域の変化や人種差別などの社会問題だけでなく、人間は変わるのか、友情とは何かなどの普遍的なテーマも盛り込み、それでいてスリルたっぷりのエンターテインメントになってるのだ。
 さらにラップ映画でもある。主人公2人の普通の生活の中で、会話に自然にリズムが発生する。そのリズムで身体が動いて、ドアが開閉し、映画全体が動く。「俺たちがラップするのは、そうしないと聞いてもらえないからだ」という主人公の言葉が強烈だ。

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猿渡 由紀

今のアメリカのリアルが詰まった大傑作

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

警察による人種への偏見(racial profiling)、罪のない一般黒人が警察に銃殺されること(#BlackLivesMatter)、見捨てられていた地域がおしゃれに変革していく様子(neighborhood gentrification)など、今のアメリカのリアルが95分にぎゅっと詰まっている。時にセリフがラップのリズムを持ちはじめたりするのも、ユニークで効果的。主人公の幼なじみは黒人と白人。そこから複雑さが生まれるが、ふたりの友情は本物。軽いタッチとユーモアを保ちつつ、重要な事柄について考えさせることはできるのだと証明する大傑作。心からお勧め!

この短評にはネタバレを含んでいます
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