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黒沢清監督『地獄の警備員』上映で振り返るディレカン末期「活気がありましたね」

第35回東京国際映画祭

『太陽を盗んだ男』のエピソードも語った黒沢清監督
『太陽を盗んだ男』のエピソードも語った黒沢清監督

 黒沢清監督が28日、TOHOシネマズシャンテで行われた東京国際映画祭の日本映画クラシックス部門作品『地獄の警備員』デジタルリマスター版の上映に出席し、製作会社ディレクターズ・カンパニーの思い出と共に当時の裏話を明かした。

 黒沢清監督も所属していた、映画の企画・製作会社ディレクターズ・カンパニー(通称ディレカン)は、長谷川和彦相米慎二高橋伴明井筒和幸大森一樹ら、日活撮影所・ピンク映画・自主映画出身の監督たちが集合した製作者集団。この日、上映された『地獄の警備員』は、国立映画アーカイブと東京国際映画祭と共同で開催する企画上映「長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー」の一環として上映された。

 上映後に登壇した黒沢監督は、両端がアクリル板で囲まれた、まるで個室のような状況に「なんだかレクター博士みたいですね」と笑いつつも、「今日は変な映画を観ていただいてありがとうございます。昔、ディレカン末期に作った映画で、低予算で時間もなくやったんですけど、今の方がこれを観てどう思うか」とコメント。さらに「この時期はいわゆるJホラーというものはなかったですし、アメリカ映画ではシリアルキラーものというのはけっこうあったんですけど、日本では全くない。こういうものなら日本でも低予算でできるのではないかと意気込んで作ったものです」と付け加えた。

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 ディレカン設立当初は大学生で、自主映画しか撮っていなかった黒沢監督は、『青春の殺人者』『太陽を盗んだ男』で知られる長谷川和彦監督に誘われて参加。「最初は会社専属の助監督として参加するのかなと思っていたんですが、『お前も8ミリ映画を撮っているから監督だから、お前も入れる』と言われて。それで入ることになりました」と述懐する。

 その後は「今なら笑い話ですけどね」と前置きしたうえで、黒沢監督が制作進行として参加した『太陽を盗んだ男』の破天荒な製作エピソードの数々を披露。デパートの屋上からニセ札をまくシーンや、指名手配犯の写真が若き日の黒沢監督である、といった話が次々と飛び出し、観客は興味津々な様子で耳を傾けていた。

 そんな中、本作が製作されたディレカン末期の雰囲気を「僕の記憶では、メインの長谷川さん含め、相米さん、根岸(吉太郎)さん、大森さんら第一線の人たちは、他で仕事をしていたのか、会社にはあまりいなかった」と振り返った黒沢監督は、「だから、むしろ若い人たちが出入りしていて。それこそ高橋洋とか万田邦敏とか、それからこの映画の助監督をやった青山(真治)もいたし、佐々木浩久もいましたね。むしろ僕が一番年上なくらいで、若い人たちが、予算はないけど、なんでもやれるぞという環境。けっこうテレビの深夜ドラマなどを作っていました。活気がありましたね」と述懐した。

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 『地獄の警備員』の配給は、長年にわたり外国語教育を行ってきたアテネ・フランセが担当。黒沢監督は「実はこの作品を作っている途中から、ディレカンが危ないという話になっていて。その後、倒産するわけですが、この作品は作ったけど、どうしようということになった時に、アテネ・フランセ文化センターのディレクターの松本正道さんがこの映画を気に入ってくれて。配給がどこもないならうちでやりましょうかと言ってくれた。それで細々と公開されたということです」とその経緯を説明した。

 さらに、この日の聞き手である東京国際映画祭の市山尚三ディレクターが、「実はその年に初めて東京国際映画祭のセレクションに加わったんですが、この映画をどさくさにまぎれて当時の映画祭のセレクションに混ぜたのは僕なんです。今、初めて言いますが」と明かすと、黒沢監督は「あれはやはり市山さんでしたか」と感嘆の様子。市山ディレクターは「ちょうど1本、上映できない作品が出てきて。それでこの作品をやりましょうということになった」と振り返る。

 その際に、英語字幕を入れた上映プリントが映画祭側の費用で制作され、海外で黒沢清特集が組まれる際には、そのプリントが大活躍。海外における黒沢作品の認知度アップに役に立ったという。「当時はフィルムに英語字幕をつけるとすごくお金がかかるので、低予算映画でそんなことはできないんです。映画祭に出品するという形でそれができれば、海外にも持っていけるということですね」と黒沢監督が語ると、市山ディレクターも「これは本当にやって良かったですね」と笑顔。黒沢監督も「ディレカンは倒産したとはいえ、いろんな人の善意でなんとか。今日も含めて、なんだか日の目を見る映画になりましたね」としみじみと語っていた。(取材・文:壬生智裕)

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