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『力道山』ソル・ギョング単独インタビュー

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『力道山』ソル・ギョング単独インタビュー

取材・文:鴇田崇 写真:FLIXムービーサイト

プロレスを通じて戦後の日本人に勇気を与えた力道山。その波乱に満ちた生涯を描いた日韓合作の伝記ドラマ『力道山』。力道山を演じた主演のソル・ギョングは、短期間で体重を28キロ増やし、日本語のセリフをマスター。プロレスのシーンも代役なしで挑戦するなど、徹底した演技も話題の的だ。そんな韓国映画界きっての実力派が、来日。戦後日本の最大のヒーローを演じた感想や映画に対する考え方などを語った。

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最初は力道山を知らなかった

ソル・ギョング

Q:力道山はそもそもソル・ギョングさんにとってどんな存在だったんでしょうか?

撮影前は考えてもみなかったですし、そもそも知らなかったんです。力道山の送った人生や彼の存在が私の人生の役に立っていたわけでもないですし、教訓を残してくれたわけでもなかったんです。脚本を読んだ時も「こんな人がいるのか」と思ったぐらいで、ただ単に私欲の強い人だったんじゃないかなっていう印象でした。とにかくやれるところまで最善を尽くしてやってみようという気持ちでした。

Q:あれだけの熱演から察するに撮影中に印象もずいぶん変わったのでは?

撮影をしていくうちに力道山の激しい人生を理解していったような気がするんです。例えば、映画の後半で刃物に刺された後の病院のシーンがありますよね。ここでのセリフを練習するために脚本を読んでいた時、涙があふれて止まらなくなってしまったんです。映画を撮っていくうちに力道山の男としての熾烈(せんれつ)な人生、そして孤独な姿を少し理解できたのかなと思います。

Q:最終的に力道山のどのあたりに惹かれましたか?

彼の男としての夢は「笑いたい」ってことだったわけですよね。力道山の夢を考えると、とても心が痛くなりました。ただ、映画を1本撮ったぐらいでは、その人のことを完璧に理解できるとは思えないんです。そもそもその時代を知らないですし、映画を1本撮ったからと言って「理解できた」なんて言うのは生意気なこと。実感として胸に迫ってくるものは、その時代を過ごしたことがある方とは違ってくると思うんです。想像が及ばない部分もあるだろうし、理解できることがあるとしたらほんのわずか。すべての中の1とか2パーセントぐらいで、やっと理解できたっていうぐらいだと思います。

“実は辛い”は実はアドリブ?

ソル・ギョング

Q:撮影中に思い出に残るエピソードなどありましたか?

わたしが財布を盗んだかどうかっていうシーンがありますよね。そのシーンで自分のセリフが残っているのに途中で監督がカットと言ったんです。次のセリフを言わなければならなかったのに、なんでだろう? って思っていたんですけど、2日後になって監督がその真相を告白してくれました。その場で言うのが恥ずかしくて言えなかったそうですが、セリフが終ったと勘違いしてカットと言ってしまったらしいです(笑)。

Q:夫婦役で共演した中谷美紀さんとの思い出はありますか?

わたしが中谷さんと大根を半分に切って食べるシーンがありますよね。あの大根は本当に辛かったんです(笑)。今度は監督がなかなかカットって言わないものだから、もともとなかったセリフの「実は辛い」を、あまりにも辛くて言ってしまったんです。中谷さんはとても笑ってましたよ(笑)。

Q:代役なしで挑戦された試合のシーンも圧倒的な迫力に満ちていました。

船木さんと私が試合をするシーンは、メイクで血が出ている処理をしたんです。それで撮影後に船木さんがメイクを一生懸命落としている時に、いくら落としても落ちない。それを見ていた萩原さんが笑いながら、それはメイクでなはく本当の傷です、って(笑)当の本人は知らないで落としていたんですけど、実際にアザになっていました。次の日、目がとても腫れていましたよ。

韓国の俳優はみんな頑張っている!

ソル・ギョング

Q:撮影は過酷を極めたと思うのですが、完成した作品を観てどんな感想をお持ちになりましたか?

自分の出演作はいつも1回だけしか観ないんです。今回は技術的な部分を確認する試写で1回観たっきりなんですが、自分の姿しか観えなかったので、映画全体を観ることができませんでした。実は、恥ずかしいというのもあるんです。家でたまたまテレビをつけて自分が出演している映画を放送しているときがありますが、そういう時は自分の存在が世の中にバレてしまった人のように慌ててチャンネルを変えるぐらいですから(笑)。自分の姿を自分で観る時にとても窮屈な感じがするんです。

Q:“アジアのデ・ニーロ”と言われてますが、彼の影響は大きいのでしょうか?

特別ファンということではないですね。ハリウッドの俳優は嫌いなので(笑)。彼らは大きな国に生まれたというだけで、得している部分がある気がするんです。それに比べたら韓国の俳優と言うのは、本当に小さな国に生まれて、がむしゃらに生きているわけです。そういうふうに頑張っている俳優の方が偉大だと思うし、生命力も長いように思えるんです。

Q:環境が俳優を育てるということですね。

アメリカは環境も条件も整っていて、映画の市場も大きいわけです。そういう恵まれた環境でやっている人よりも、韓国の俳優の方が能力もあると思うし、器用な部分もあると思う。もちろんその中で頂点を極めるのは大変なことだとは思いますけど、アメリカはもともと俳優になりやすい国だとは思います。

映画は完成すれば観客のモノ!

ソル・ギョング

Q:そのハングリー精神は力道山にも通じますね。今回の映画はご自身にとってどんな映画になりましたか?

今回の『力道山』だけでなく、出演した映画に努めて大きな意味をおかないようにしています。1本出たら「いい作品に出られたな」っていう程度で、気持ちを新たに切り替えます。『力道山』の場合はとても長くて足掛け2年ぐらいになるんですけど、公開日になればこれで『力道山』とはさよならできるっていう感じなんです。

Q:なぜ意味を持たせようとしないんでしょうか?

次々と作品に移らないといけないという理由もあります。1回やったものはすべてカラにしないと次にいけないんです。意味を持たせ続けることは難しいです。夢の中にずっと浸って生きていけるわけでもないですからね。

Q:そんなドライとも言えるところがソル・ギョングさんの魅力でもあります。

映画における意味というのは観客が見つけるものだと思っています。だから観客が映画を観た時にそれぞれ違った意味を見つけてくれればいい。好きなセリフは? って聞かれたときにみんなそれぞれ違うように、受け止める意味もみんなそれぞれ違うはずです。映画が完成すれば監督や俳優の手から離れるわけで、後は観客のものになるのだから意味も観客が見つけるものになるんです。


撮影から時間が経っているため、スリムな元の体型に戻っていたソル・ギョング。取材後にグッズの力道山シールを「ワタシノ名刺デス!」と日本語で配るなど、スクリーンで観る彼とは違ったおちゃめな素顔も見せてくれたが、質問を聞いている最中に時おり見え隠れする心の中をのぞくような鋭い眼差しが印象的だった。“俳優たるもの黙って演技力で勝負!”そんな並々ならぬ熱意を発していたような男気あふれるインタビューとなった。

『力道山』は3月4日よりワーナーマイカルほかで公開中。

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