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マイク・ミルズ
『サムサッカー』
『サムサッカー』マイク・ミルズ監督 単独インタビュー

取材・文・写真: シネマトゥデイ

GAPやNIKEなど有名ブランドのCMや、スケボーデッキのデザインなど、アメリカのグラフィックシーンでカリスマ的存在を誇るマイク・ミルズ。多方面から注目を集めているミルズ監督の長編映画『サムサッカー』が公開される。子どものころからの親指しゃぶり(サムサック)が、高校生になっても治らない主人公ジャスティンを、繊細に描いた本作は、サンダンス映画祭などで高い評価を得た。「人と違っても大丈夫」そんなメッセージを込めて作ったという、マイク・ミルズ監督に、映画のこと、青春時代のこと、そして未来を担う若者たちへの思いを聞いた。

■ジャスティンは僕の中にいる

Q:どのように、このプロジェクトがスタートしたか教えていただけますか?

1999年に、初めてこの作品の原作に出会ったんだ。読んですぐにとても好きになったよ。面白かったし、それと同時に、この年ごろの男の子が持つ感情をかなりリアルに描いていると感じたからね。それから、すぐに映像化しようと考えたんだけど、この作品に関わっていくうちに「ああ、僕もジャスティンだったな。それに、ジャスティンの母親はまさに、僕のママじゃないか」ってことに気付いたんだ。この作品を作ることは、僕にとってひとつのセラピーみたいなものになっていったんだ。過去の自分と対峙(たいじ)するようなね。それから、自分の中に思い浮かぶ映像もますますクリエイティブになったよ。今まで、脚本なんて書いたこともなかったけど、そういう経過もあってすごく書きたくなったんだよね。簡単なことではなかったけど、書く必要があると強く思ったんだ。

Q:CMディレクターやミュージッククリップ出身の監督の中には、長編に失敗した人も多くいます。プレッシャーを感じることはありませんでしたか?

みんなに「やるな」って反対されたよ(笑)。だから、今回はお金を集めるのがすごく大変だった。誰も出資してくれなかったんだよ! どこの会社も、この企画に対して出した答えは「NO(ノー)」だったから。結局お金が集まるまで、2年半もかかってしまったんだ。でも、1番の問題点は『サムサッカー』っていうこの映画のタイトルさ。「親指しゃぶり」なんて、なんか奇妙すぎるだろ? だからまず、タイトルから気に入ってもらえなかったんだよ。

Q:映画作りと、ミュージッククリップを監督するのではどんな違いがありました?

まさに、この資金集めだね。ミュージッククリップを監督していたころは、そんなことをする必要はまったくなかったからね。撮影するスタジオがあって、それからスタッフがいて、カメラがあって……という環境に違いはなかったんだけど、そのほかのめんどうくさい仕事がたくさんあった(笑)。それが、大きな違いだったかな。まるで政治家みたいな気分だったよ。それから、感情面では、緊張を長期間キープしていることが大変だったね。俳優との付きあい方も、ミュージッククリップを作っているときよりも、感情的にずっと深かったね。

■不安な高校時代

Q:先ほど、「自分が、ジャスティンそのもの」とおっしゃっていましたが、実際に作品の中にも、あなたの高校時代の経験が反映されているところはありましたか?

うん(笑)。女の子と小川でデートしたり、建設現場で待ち合わせしたり……、あれは僕の青春時代の思い出から抜き取った場面だね。それから、両親との関係性もそう。母親や、父親との言い争い、それにニューヨークに旅立つシーン。あれは、まさに僕が実家から巣立つときの空港でのワンシーンだったね。僕も、カリフォルニアの空港で18歳のとき、あんな風に親に「サヨナラ」と言ったんだ。家族で写真を撮ったりしてね。

Q:高校時代のあなたはどんな学生でしたか?

学生時代の位置付けって、どこの国でもあると思うんだ。いわゆる人気者タイプの子と、それから、ちょっとオタクで友達がいないタイプ。でも、その種類分けというか、そういうのってもっと早い時期に決まっちゃっていると思うんだよね。だいたい10歳くらいのときに、その子が持つキャラクターというか、性質は決まる。それで、その位置付けであったり、キャラクターを引きずりながら、その後の人生を送っている気がするんだよ。僕が10歳のころは、すごくナーバスだったし、人とかかわることも苦手だった。それで、その微妙な時期を過ぎても、常に影の自分と一緒にいるような気分なんだ。僕が、高校のときは常に自分に自信がなかった。それでも、パンクバンドを組んでいたし、彼女もいたから、すっごいオタクっていうわけではなかったんだけどね。ただ、高校という場所は、僕にとってちっとも居心地がいい場所ではなかったし、楽しんでもいなかった。女の子に対しても、彼女はいたけど、やっぱり不安だったよね。

Q:あなたが監督になった経緯は?

そうだね……大学は、アートスクールに通っていたんだけど、ちっとも勉強してなくてさ。授業にも出てなった。監督も、グラフィックも、すべて、現場で覚えたんだよ。これは、クリエイティブな仕事を目指している人みんなに言いたいことなんだけど、いつでも、どこでも、クリエイティブに生きるべきだと思う。とにかく、作り出す意欲を持ち続けるんだ。自分のために、なにかを作り続ける。たとえ、お金がないとしても、パソコンを買うお金がなくたって、カメラを買うお金がなくたってパラパラ漫画を作ったり、写真を撮ったり……。とにかくクリエイトし続けることが大切なんだ。もし、人が話し掛けてくれるのを待っているだけなら、チャンスはやってこない。自分で行動しないと、人は来てくれないんだ。

■キアヌ・リーヴスが演じるおとぼけキャラ

Q:キアヌの役は、どのようにして決まったのでしょうか?

あの役は、探究心の強い、いつも何かを探しつづけている人物なんだ。と同時に、とても正直なんだけど、ちょっとバカバカしいキャラクター。だから、ちょっと、とぼけた部分もなくてはいけない。それで、「キアヌなら、いけるんじゃないか……」って思うようになった。彼のことは、知り合いでもなかったし、よく知らなかったけど、そんな予感がしたんだよ。それで、初めて彼に会ったとき、「彼もこのキャラクターと同じように、いつも何かを探し求めているな」と感じた。僕のキャラクターの人生と、彼のキャラクターがぴったり重なったんだ。

Q:長編デビュー作で、大物の俳優と仕事するのは大変でしたか?

みんなすごい俳優ばっかりだったけど、それぞれがすごくナイスな人たちばかりだったんだ。この映画のキーワードのひとつとして「人に心を開く(オープンハート)」っていうのがあるんだけど、彼らはまさにオープンハートで、コミュニケーションすることにとても積極的な俳優だった。なかでもティルダ・スウィントンなしではこの映画を作ることは、絶対に無理だった。それほど、協力してくれたんだ。ティルダという女優がこの世に存在してくれていたことを心から感謝しているよ。

Q:現場でのあなたの写真を拝見したんですが、スーツを着てらっしゃいましたね。スーツを着ているのには何か理由があるのでしょうか?

そうだね。スーツを着ていないときでも、少なくてもネクタイはしているね。理由は、ただの虚栄心の表れだよ(笑)。もうひとつの理由は、フィルムクルーは作品にとても献身的で、素晴らしい存在なんだ。僕は、彼らのハードな働きぶりを尊敬している。彼らは、僕がいうことは文句1つ言わずになんでもしてくれる。まるで、戦場で戦う兵士みたいだよ。彼らは自分たちの作品を、そして僕を信じて働いてくれている。だから、そんな彼らと、一生懸命カメラの前で演技をしてくる俳優に対する敬意の現われなんだ。

■若者にメッセージ!

Q:映画の中では、ADHD(注意欠陥多動性障害)という病気の診断がされたとたんに、子どもたちが処方された抗うつ薬を飲むというシーンがありました。あれはとてもショッキングでしたが、アメリカの現実なのでしょうか?

ADHDという病気は、アメリカではすごくよくある病気なんだ。たとえば、うつ病もそうだけど、アメリカでは、かなり多くの人がそういう精神病の病名を診断される。それでも、ここ何年かでADHDという病気は、急速にまん延してきた気がする。とても悲しい、本当に悲しい現実だけど、これは、アメリカが抱える若者のつらい社会問題でもあるんだ。

Q:日本にいるジャスティンと等身大の若者にメッセージを一言

この映画は、自分を信じることの大切さを描いている。社会っていうのは、自分たちが不安に思うような存在だったり、奇妙に思う人だったり、怖がっている人に対して、拒絶反応を起こす。「お前はダメなヤツだ」ってレッテルを貼るんだ。でも、なにも悪いことなんてない。なにも心配しなくていいから、自分を信じて、自分の持つ個性を信じて生きていって欲しいと思う。

高校のころの思い出を、照れながら語っていたミルズ監督。「でも、女の子に目隠しはされなかったよ!」と作中に出てくるシーンを、自分の経験ではないと必死に否定する姿は、世界のトップクリエイターとは思えないほど、気さくでフレンドリー。ティーンのころは、将来が心配でしょうがなかったというミルズ監督は、アメリカを始め、世界の悩める子どもたちにこの作品を観て欲しいと語った。将来を心配している子どもだけじゃなく、そんなむずかしい年ごろの子どもを持つ親にもぜひ、観て欲しい一本だ。

『サムサッカー』は夏よりシネマライズにて公開。

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