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渡辺謙
『硫黄島からの手紙』
栗林忠道がどんな風に死を迎えたのか、
それが僕のテーマだった
『硫黄島からの手紙』渡辺謙 単独インタビュー

取材・文・写真:シネマトゥデイ

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クリント・イーストウッド監督が硫黄島を舞台に日本側からの視点で描いた『硫黄島からの手紙』。その硫黄島で防衛の先頭に立った指揮官、栗林忠道を演じた渡辺謙。『ラスト サムライ』『バットマン ビギンズ』『SAYURI』と着実にハリウッドでキャリアを積む渡辺に、俳優として大先輩でもあるクリント・イーストウッド監督との仕事や映画への意気込みについて話を聞いた。

■栗林忠道の苦しみに目は背けまいと誓った

Q:渡辺さんの演じた栗林忠道という偉大な実在の人物を演じる上で、特に気をつけた点を教えて下さい。

歴史上の人物であり、実在した人……しかも現代に近い歴史の話ですから、関係者の方もたくさんいらっしゃるし、彼に興味を持っている方もいらっしゃいます。もちろん、そういう意味で敬意を払うということは絶対条件ではあるのですが、逆に言うと、彼が悩み苦しんだことや、彼の犯したミスからは絶対に目をそむけまいと思いました。彼自身がどんな風にこの島で生きて、死を迎えたのかということに関して、できるだけいろいろな情報を直視する。また、これは栗林さんだけの問題ではなく、ここでアメリカ兵も含めて、多くの方が傷ついたり亡くなったりしているという、声なき声というか、そういうものに耳を傾けなければ、こういう作品を演じてはいけないんだと、自戒の念みたいなものがありました。

Q:栗林さんを演じている中で、渡辺さんが一番感銘を受けたエピソードは何ですか?

エピソードではないですが、栗林さんが中学生くらいまで生まれ育った長野県の松代へ行き、お墓参りをして、生家がまだ残っているので、そこを訪ねました。山に囲まれていて四季がとても豊かで、そういう場所で生まれ育った人が、この南海の孤島で海に囲まれて、戦いの中で死を迎えなくてはいけないという思いは、どんなだったのだろうかと、そのときすごく感じたんですね。それで、この作品の「栗林さんの人生」という部分については、「その(死を)迎える気持ちを、彼がどんな風に迎えたのか?」というのが僕のテーマとして与えられたような気がしました。

■巨匠イーストウッド監督との撮影

Q:イーストウッド監督が日本人を描くということは挑戦だったと思うのですが、日本人とアメリカ人の意識のズレというのは感じなかったですか?

もうね、たとえば戦い方にしても「敗北」っていう基準がまったく違うわけですよ。だから、日本の「玉砕」とか、「自決」ということが彼らの発想の中にはまったくないわけですよ。もしかすると、今、僕らが「そんなこと思えないよ」っていうのと同じことでもあるわけです。だから、「僕たちもその気持ちをどう理解していいのか分からないんだ」ということと「国民性だけの問題ではなくて、現在と61年前っていうことに関してもすごく大きな隔たりがあるんだ」ということをクリントに伝えました。そして「日本人みんなが自決を潔いと思っているわけでないんだ」ということも彼に伝えました。

Q:渡辺さんが今までいろいろな監督とお仕事をした中で、イーストウッド監督が特に違うと感じたのはどんなところですか?

先日、クリントがブリティッシュ・アカデミー協会(BAFTA)からスタンリー・キューブリック・ブリタニア賞を受賞したんです。そこで、いろいろな俳優がクリントの仕事ぶりを話していて、その中で「grace(グレイス)」という言葉がすごくたくさん出てきていました。「とても品があって、高貴というか、そういう優雅さみたいなのがあったんだ」という話を聞いたときに、本当にその言葉がぴったりだと思いました。だから、現場自体は血と汗と泥にまみれる現場だったんですけど、どこか品がいい、すごく穏やかでユーモアがあって、俳優としては心地いい空間を作ってくれて、本当にその「grace」という言葉がぴったりでしたね。

■『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』

Q:先日、『父親たちの星条旗』に出演されているジェシー・ブラッドフォード氏にインタビューさせていただいたのですが、「硫黄島の歴史についていろいろな事実を新しく知り、考えた」ということでした。渡辺さんご自身は「硫黄島」について新たに何か考えましたか?

新たにというよりは本当に白紙でしたからね。僕らこういう仕事をしていますから、いろいろな資料を読んだりする機会が多いですけど、それでも僕にとっては、やはり空白の歴史でしたね。ですから、「栗林さん」という名前を知ったのもクリントが『父親たちの星条旗』を撮ると聞いたときに、こんな司令官がいたんだというぐらいの情報しかなかったですね。本当に……こう……掘り起こしてもらったって気がしますね。

Q:今までの映画とは何か違うという感じがしましたが、2本ご覧になって日本やアメリカで作られた映画とどんな違いがあると思われますか?

結局、クリントの視点だと思うんですね。というのは、語ろうと思えばたくさん語れるわけですよ。ある広い意味で情感たっぷりにね。「はい、ここは泣くとこですよ」みたいに。そう描けるストーリーではあるんですよ。でも、彼はそこで多くの説明をしなかった。「そこにあったことをそのまま僕が映し取って、僕が見たものを見てください。その中で感じるものを受け止めてください」っていう……ある意味、とても突き放したというか……。だから、僕たちが映画を観ているという感覚ではなくなってしまうような、そういうリアルさがありました。それはやっぱり彼の力だと思います。

Q:戦争シーンがすごくリアルでした。日本の映画で使用する発破数と全然違うと思うのですが、いかがでしたか?

物量という面でいうと本当にそうで、「アメリカ軍が来てるんだ!」という感じがしましたけどね(笑)。もちろん、戦争を描いた作品ですから戦争シーンっていうのは不可欠ですが、ただ、それがどう人間に影響していくのか、人間の精神にどう響いていくのかということが主眼だと思うんです。もちろんスケール感という意味では、僕らが体感していた戦争の映画とはちょっとスケールが違うんですけれど、根っこにある精神であったり、そこで戦っている人間の気持ち、そこで苦しんでいる人間の気持ちというところに僕らは集約していったんだじゃないかと、映画を観て思いましたね。

■『父親たちの星条旗』のキャストとは戦友です

Q:本作も日米で公開されますが、アメリカ人にどのように受け入れられると思いますか?

驚かれるでしょうね。まあ、日本の軍人たちについて、わりと情報は伝わっていたんですけど、実際に描いた作品というのはあまりなかったんですよね。とても驚かれるんじゃないでしょうか。スタッフ自体も驚いていましたね。

Q:これは、本当に歴史的なプロジェクトだったと思うのですが、主演として参加され、栗林忠道を演じられた思いをお聞かせください。

日本の俳優として、こういう日本の歴史を描く作品に参加できたことはうれしく思います。でも、ある種とても重責を感じました。僕ができるだろうかという思いで始めたんですけど、みんな本当にいろいろな形で力を合わせてやり遂げた作品だと思います。もちろん僕が関わったのは『硫黄島からの手紙』だけですけど、『父親たちの星条旗』のキャストと試写会ですれ違ったときに、戦友みたいに思えましたね。これは、本当に不思議な感覚でした。僕たちが2つの作品を作ったんだという。お互いに尊敬し合っています。これは本当に硫黄島で戦った兵士たちと同じような感覚、同じような気持ちで作品に関われたと思います。

ハリウッドでもその演技力を認められている渡辺だが、本作『硫黄島の手紙』での彼は、ひときわ異彩を放っていた。血と汗と泥にまみれた戦場の中で、栗林忠道だけが、すがすがしく輝いていた。クリント・イーストウッド監督を語るとき、渡辺は「grace」という言葉を使ったが、インタビュー中も常に周囲への気遣いを忘れず、真摯(しんし)な態度で答える渡辺謙もまた、硫黄島で悲劇的な死を気高く迎えた栗林中将を演じるにふさわしい「grace」な演技者と言えるのではないだろうか。『硫黄島からの手紙』でいま一度、渡辺謙という人間の魅力を再確認してもらいたい。

『硫黄島からの手紙』は12月9日より丸の内ピカデリー1ほかで公開。

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