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加瀬亮
『それでもボクはやってない』
人の想像力や考え方は悪い方向に働きやすいと思うんです
『それでもボクはやってない』加瀬亮 単独インタビュー

取材・文・写真:シネマトゥデイ

ハリウッドでリメークされた『Shall We ダンス?』から11年。世界が注目している周防正行監督が、最新作『それでもボクはやってない』の題材に取り上げたのは“痴漢えん罪”だ。突然、電車の中で痴漢に間違えられたことで人生が一変してしまうフリーターの主人公、金子徹平に抜てきされたのは『硫黄島からの手紙』でも強烈な印象を残した加瀬亮。『アンテナ』など多くの作品で個性的な演技を披露し、今、最も注目を集めている彼に話を聞いた。

■撮影に入ってからも、コメディー作品だと思っていた

Q:『それでもボクはやってない』は周防正行監督の11年ぶりの作品ですが、プレッシャーはなかったですか?

プレッシャーはあまりなかったですね。オーディションで選ばれたので、選んだ方の責任だと思っていましたから(笑)。ポジティブというより、基本的に他力本願なんです(笑)。

Q:周防監督と聞くとコメディー作品だと思いますよね。それが実際はすごくシリアスで……。加瀬さん自身もコメディーだと思いませんでしたか?

思っていました。撮影が始まってからも最初のころは「コメディーなんだろうな」って思っていました(笑)。

Q:いつごろからこの作品は、シリアスだと気付いたんですか?

留置場に入ってどたばたやっているまでは、すごい楽しくやっていたんですけど、監督とカメラマンさんから「楽しくやりすぎだね」って話になって……。そして、「歯ブラシのシーンで泣ける?」って言われたんです。最初は普通に歯を磨くなんていう日常を見せるワンシーンだったんですが、そういう変更が出たことで「そういうことか、なるほど、なるほど……」と思ったんです。そのへんで、シリアスな路線だってことに気付きましたね。

■実際カチンときていました(笑)

Q:観ていて悔しいとか、やり切れない思いがあったのですが、加瀬さん自身も撮影中、そういう気持ちがわきましたか?

あまり意識はしていなかったんですけど、共演者がそうさせてくれたというか……。セリフ回しも、いちいち嫌な言い方でしたから(笑)。たぶん共演者の方々の演技を見ていて思ったことが顔に出ているだけだと思います。実際、カチンときていましたね(笑)。

Q:どの人に一番カチンときていたんですか?(笑)

小日向(文世)さんが演じた裁判長ですかね(笑)。あと、尾美(としのり)さんが演じた検事も嫌な感じでした(笑)。

Q:演じている中で一番苦労したシーンはどこでしたか?

手こずったのは、一番最後のシーンですね。判決を受けたあとに、「その表情が違う」って監督から何回も言われて、それでどんな表情をしていいか分からなくて困りました。それ以外は監督から言われた記憶はあんまりないですね。そこだけ、いろいろと指導をしていただいて、すごく助けてもらいました。

Q:加瀬さんご自身、徹平のような立場に立たされたら、どうしますか?

この役を演じさせてもらった以上は、戦わなくちゃいけないのかなっていうのが正直なところなんですけど(笑)。でもやっぱり家族や大切な人がいたら考えると思うんですよね。この主人公はフリーターだし、奥さんや子どもがいるわけでもないから、戦うことに多く時間を割くことができるし。逆に会社勤めで、家族もいたら、お金(保釈金)を払って出ちゃうんじゃないかと思いますね。

■信頼は本能じゃなく、作り上げるもの

Q:この映画を観ると何が正しくて何が悪いのか分からなくなってしまいそうですよね。

やっぱり、いいことや正しいことの証明の方が難しいですよね、何でも。それに人の想像力や考え方も悪い方向に働きやすいと思うんです。誰でもいいから一人捕まえて、「この人は悪い人だ。なぜなら……」というのは結構簡単なんですよ。でも「この人はすっごくいい人、なぜなら……」というのは、全部説明すればするほど、うさんくさくなるんですよね(笑)。それって基本的に人を疑っているからですよね。だから基本的に「人を信じている」方向にいかないと難しいっていうか……。監督が言おうとしてるのはそこなんだと思います。

Q:マスコミ試写の後に有罪か無罪かっていう判決投票をしていたのですが、加瀬さんならどっちに投票しますか?

僕は当然無罪です(笑)。でも、痴漢をやっていないと思って観ているのに、「悪そうな顔してるな」なんて結構思っちゃって(笑)。動物学の本を読んでいて面白かったのが、本能というのは“信頼する”というのではなく、“疑うこと”らしいです。だから信頼っていうのは、自分と相手が共にした時間の中から作られるものなんだなぁと、それって結構面白いことだと思いました。

■『硫黄島からの手紙』ロケから帰って、すぐに撮影開始

Q:クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』にも出演されていますが、撮影のスケジュールはどうだったのでしょうか?

硫黄島から帰ってきて2日ぐらいかな……。すぐです、本当すぐ撮影でした。

Q:バトルフィールドから留置所の中へって感じですね(笑)。役の切り替えは簡単にできましたか?

いや~、あまりできなかったですね。硫黄島から帰ってきたときは、もうヘトヘトで……。でも『それでもボクはやってない』の撮影がすぐに始まるから……。しかも台本を読み出したら長いセリフが結構あって(笑)。「もう覚えられないやー」と思いながらも、「やんなきゃ!」と。今回は、現場でも台本を開いてセリフを覚えながら演じていましたね。

Q:周防監督、イーストウッド監督と本当に素晴らしい監督と仕事をされたわけですが、それぞれの監督からもらった言葉や、アドバイスで印象に残っていることはありますか?

今回、イーストウッド組と周防組のスタッフは似ている部分がありましたね。すごく自然というかリアルというか、演技をしすぎないことを求められたんです。僕自身、その方向性はすごく好きなので、両方の監督からは指示もあまりなくて、僕をそのまま受け入れてくださった感じでした。自分の好きな監督に受け入れられるっていうのは、すごく励みになります。

Q:硫黄島で吸収してきたものをここで発揮してやろうみたいなものは何かありましたか?

それはちょっと分かんないですね。ほんとヘトヘトだったんで!(笑) 硫黄島の撮影が終わってボーっとしちゃって……あっボーっとしてる場合じゃない! みたいな(笑)。一人のシーンは間違えてもまぁいいやって思ってたんですけど(笑)、って、本当はダメですけど(笑)。12ページもあるセリフのやりとりで、相手が長ゼリフで僕が一言のときは、「コレ間違えるとやばいよー」と思いましたね(笑)。そういうシーンは相手のセリフまで覚えなくちゃいけないので、「どうやって覚えよう……」みたいな感じでした(笑)。

■浅野忠信の付き人時代

Q:1年間、浅野忠信さんの下で付き人をされていたそうですが、役者としての浅野さんを見て学んだことはありましたか?

付いてすぐに、「この人は参考にならないな」って思ったんですよ(笑)。オリジナルすぎて。そこから一番学んだのは、自分で考えろってことなんですよね(笑)。浅野さんは人の意見よりもまず自分はこう思うってことがある人なんです。自分でちゃんとしたイメージを持つというか、それがすごい大事なんだなって思いました。もちろん浅野さん以外の人からも、すごいなって学ぶことはあるし、逆に違うなって思うときもあります。「違うな」って思ったときに、「なんで違うんだろう」って考える時間がたくさんあったので、自分がやるときはこうしようと考えることができたんです。ちょうど1年間だからずいぶん色んなモノの見方を教わった気がします。

Q:最後にこれからの加瀬亮について教えてください。

うーん。あんまりないですけど、希望を言えばちょっと休みたいかな……ぐらいですね。

「だから、オレはやっていないってば!」とすがる様な目で裁判長に訴えかける加瀬の姿は観ていて痛々しいほどか弱い。映画では頼りなかったり、弱々しく見える役柄の多い彼には「軟弱な青年」というイメージがある。しかし実際の加瀬亮は、映画が訴えたことをしっかりととらえている、芯(しん)の通った考え方を持つ“役者”だった。そんな彼が大好きな映画監督である周防正行のもと、『それでもボクはやってない』で見せた熱演を楽しんでもらいたい。

『それでもボクはやってない』は1月20日よりシャンテ・シネほかにて公開。

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