シネマトゥデイ

江口洋介
『闇の子供たち』
子どもにはバーチャルでないコミュニケーションが大事
『闇の子供たち』江口洋介 単独インタビュー

取材・文:平野敦子 写真:宮本幸ノ助

梁石日の小説を社会派の阪本順治監督が映画化した注目作『闇の子供たち』がいよいよ公開される。実際に、タイの裏社会で行われている幼児売買春や人身売買という深い闇に切り込んだ衝撃作で、江口洋介は物語の鍵を握る主人公の新聞記者を熱演。タイ語を猛特訓し、撮影中にドキュメンタリー作品と自身が錯覚するほど、真に迫る内容の本作について多くのことを語ってくれた。

■阪本監督への全面的信頼

Q:この映画は臓器売買や幼児売買春というかなり重いテーマを扱っているのですが、この作品に出演しようと思われたきっかけについて教えてください。

阪本監督と仕事をしたいという気持ちは何年も前からあったんです。台本を読んで「こういうのが来たか!」と驚きがありました。社会問題を扱っているんですが、監督は「これは社会派作品というだけでは片付けたくない。劇映画としてきちんと成立させなければならない」とおっしゃっていました。もちろん自分も南部という男をどう演じるかということについては随分考えました。自分もこの映画に携わっていろいろと考えましたし、今でも考え続けています。こういう映画を観終わった後に人に何かを考えさせる、意味のある作品を撮る人は阪本監督以外にいないと思って、ぜひやってみたいと思いました。

Q:酷暑のタイでの撮影はいかがでしたか?

とにかく暑かったですよ。熱気が体にまとわりついて、手でその熱気を持てそうなぐらいでした(笑)。気温は34度ぐらいなんですが、とにかく暑いし、炎天下だし、作品の内容も重いし……。撮影をしていた街はバンコクから電車で4駅ぐらいの、本当に周りは風俗関係の店ばかりで、この作品のテーマに近いような場所でした。確かに暑かったけれど、それ以上にこの映画の世界にどっぷりと浸かっていたという感じでしたね。

Q:タイ語のせりふを覚えるのは大変ではありませんでしたか?

ものすごく大変でした! 台本をもらって、覚えるまでにひと月しかなかったので、まずこの役に必要な言語をマスターするのに、この時間内でできるのかという焦りがありました。日本でずっとマンツーマンでタイ語の先生について練習して、「もう大丈夫ですよ」と言われたんですが、僕はまだそれでも納得がいかず、結局先生をタイまで呼んでしまいました(笑)。なじみのない言語ということと、また臓器売買の“臓器”なんて言葉などタイ人でも日常的に使わないような難しい単語をたくさんしゃべらなければならないので、タイ語の練習には本当に時間をかけました。

■自由の国の落とし穴

Q:映画の中で印象に残ったシーンはどこでしょうか?

タイ人が南部に「いつか日本に連れて行ってくれ。ここは自由の国だから」と言うシーンがあるんですが、その自由の中には結局医学的には病気とされている、子どもに性的な感情を抱いてしまうペドファイル(小児性愛者)などの人間も含まれるんですね。あとは外国人が現地の女の子を買って、ずっと何週間も一緒にいることも……。僕らが泊まっていた町中にぽつんとある、真っ暗で水も出ないようなホテルにも、朝行くとそういうカップルがいて、最初は複雑な気持ちだったのですが、だんだんこちらも慣れてくるんですよね。でも、一番の被害者はこの映画のタイトル通り「闇の子供たち」なので、僕の心にすごく響きましたね。自由というのはある種歯止めがきかなくなる部分も多いので、怖いことでもあるんですよね。

Q:撮影後にタイのイメージは変わりましたか?

今まで何となくタイといえばタイ料理やアジアンリゾートというイメージがあったんですが、まったくタイの見方というのが変わりましたね。日本で考えるととても遠い国のことのように思えるんですが、映画の中でも「地図で20センチのところだ」と言っているように、インターネットを開けば、タイのそういう性風俗情報というのもたくさんでてくるんですよ。他国のことだけでは済まされないという、問題意識に参加できたという思いが、今までの作品に入るときの心構えとは違いました。

Q:撮影中危険な目には遭いませんでしたか?

撮影中、物ごいや売春というびっくりするようなシーンは本当にいっぱいありましたね。こっちは普通に撮影しているんだけど、その近くに警官やマフィアがいるんです。3テイクぐらい撮影しているとバレてしまうので、いくらカメラが遠くから狙っていたとしても、「ちょっと危ないからもう逃げよう」とかね(笑)。映画なのにドキュメンタリー風というか、自分でもその境界線がなくなるような瞬間というのも多々ありました。

■たくましいタイの子どもたち

Q:タイの子どもたちと共演してみていかがでしたか?

あまりにも子どもがリアルな芝居をしているんですよ。あの子たちの目を見ていると、一緒に芝居をしていてもなかなか感慨深いものがありました。結構向こうの子どもたちというのはたくましい部分があって、そこが日本の子どもとは違っていましたね。うちは下が男の子で、上がお姉ちゃんなんですが、友だちが来ても絶対にゲームはやらせないようにしています。野球や野球盤や、カードでもトランプでもいいのでそこでちゃんとコミュニケーションしながら遊べる、バーチャルではないものが子どもには必要だと思います。

Q:今、彼らのためにわたしたちにできることは何なのでしょうか?

僕がこういう映画に携わったことが自分にできることなんだと、この映画を撮って思いました。たくさんの人がこの作品で描かれているような衝撃的な事実を知り、じゃあ自分には何ができるのかとそのときに考えることこそが、オーバーに言えば、自分の日本人として、あるいは大人としての良識、品格、自分のあり方や立ち位置というものをしっかりと再確認させてくれるいい機会なんじゃないかと思います。

Q:この『闇の子供たち』という作品に携わった役者の一人として、観客の方々にメッセージをお願いします。

いろいろな問題を抱えた映画ですが、観終わったときに何かを感じてもらえると思います。その何かが幸せを願う気持ちだったり、戦争反対を願う大きな気持ちになったりするはずです。誰もが持っている素直な気持ちを呼び起こさせてくれる映画だと思うので、ぜひ一人でも多くの方々に観てもらいたいと思います。

誰もが目を背けたくなるような臓器売買や幼児売買春などの恐るべき真実。罪のない子どもたちが危険にさらされる衝撃の事実を追う、タイ在住の新聞記者を体当たりで演じた江口。写真撮影中に「映画の内容が深刻なので、自分でも取材を受けながらだんだん怖い顔になっていくのがわかるんですよね」と苦笑いしていたが、彼にはシリアスなテーマさえもポジティブなものに変えてしまう強さと温かさが備わっていた。阪本監督と彼が力を振り絞ってわれわれに投げかける問題作を、観客一人一人が真摯(しんし)に受け止め、考えることで大切な何かがそれぞれの心に芽生えることを願わずにはいられない。

ヘアメイク:中嶋竜司
スタイリスト:島津由行

『闇の子供たち』は8月2日よりシネマライズほかにて全国公開

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