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本木雅弘
『おくりびと』
別れを知れば、出会いという輝きがよりかけがえのないものに感じられる
『おくりびと』本木雅弘 単独インタビュー

取材・文: 平野敦子 写真:田中紀子

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誰にも平等に訪れる最期の瞬間を、より良いものにするための手伝いをする、納棺師という珍しい職業にスポットを当てた映画『おくりびと』。人生最大の儀式を演出するプロフェッショナルな職業の醍醐味(だいごみ)を本木雅弘が美しい所作で見せてくれる。粛々と遺体をふき清め、仏着に着替えさせ、化粧を施して棺に納める納棺師という仕事や自身の死生観まで語ってくれた。

■インドへの旅で死に目覚める

Q:この作品の企画は本木さんの納棺師との出会いから始まったそうですね。

20代の終わりに仲間たちとインドを旅しまして、そこで死生観を考えることに目覚めたんです。それが一つのきっかけで、ある本で納棺師という仕事を知りまして、そのときに、見知らぬ男が見知らぬご遺体を前にふき清め、仏着を着せて棺に納めるという一連の作業が職業として存在するということに大変衝撃を受けました。そしてそれがとてもミステリアスである種エロチックで、何だかとても映画的だと感じたことを覚えています。

Q:その本のタイトルを聞かせていただけますか?

青木新門さんの「納棺夫日記」という本です。その後、上野正彦さんの「死体は語る」や、熊田紺也さんの「死体とご遺体 夫婦湯灌師と4000体の出会い」などを読みまして、思わぬ死の世界にはまっていったんです(笑)。

Q:男性でも納棺の作業というのは力仕事で大変だと思うのですが、実際女性の納棺師の方もいらっしゃるのでしょうか?

今回映画を作るにあたり、納棺師の方々にもたくさんお会いして、納棺のトレーニングも現場の方々につけていただいたんです。昨今は非常に葬儀業界も開けていて、現場にはたくさんの若い人たちや女性もいらっしゃるんですよね。女性の方は基本的に黒か紺のパンツをはいて、白いシャツにベストを着ています。そのポケットには化粧道具のコームなどが入っていて、一見「え、ブライダルのメークさん?」というような雰囲気なんですよね(笑)。本当にそれぐらい皆さん楽しそうにかつ、やりがいを持ってお仕事をされているようです。納棺の技術というのも、もちろんかなり腰にはくるんですが、ちょっとしたコツをつかんで、女性の方でも180センチ位の巨体を動かしてらっしゃいましたね。

■茶の作法にも通ずる納棺の所作

Q:まるで手品のようにスムーズに納棺作業が進んでいくのを見て驚きました。

映画の中では新人納棺師の初めの第一歩ということなので、物理的な所作をたっぷりとお見せすることはできなかったのが残念です。本当にこの納棺の所作というのは、茶の作法にも通ずるものがあって、一つ一つにちゃんと心が込められ意味があるという洗練されたものなんです。ご遺族の方を前に、ご遺体の肌を見せずに仏衣に着せ替えていくということもそうですし、この納棺師の役割は幅広くて面白いんです。基本的にはご遺族になり代わって新たな旅立ちのお手伝いをさせていただくことで自分の存在を消し、ご遺族の手となり足となる、黒子のような存在です。でも、その場を取り仕切っているのは納棺師ですし、同時に指揮者のように皆さんを先導し、盛り上げていくという役目も担っているんですね。

Q:一度きりの納棺ということでプレッシャーはないのでしょうか?

確かに、ぶっつけ本番の舞台役者のような緊張感はあると思います。でも、皆さんその辺はやはりうまく消化されていると思いますよ(笑)。例えば、人はこの世に生を受けるのに誰か人の力を借りて生まれてくるわけですよね。そしてまた亡くなり送り出されるときも、人の手によって送られます。そのようなことを考えると、納棺の時間を取り巻く、悲しみや温かみも人間のごく自然な思いから生まれているものだと思います。一連の所作もただ自分をアピールするためのパフォーマンスじゃないので、新人の納棺師の方々もその辺をきちんと理解していて、技術以上に心さえこもっていればきちんと相手に伝わる結果が残せる仕事だと思いますね。

Q:納棺にはある種独特の晴れがましさもあるように感じましたが。

そうですね、最後のお別れと同時に新たな旅立ちを願っているからだと思います。これは余談なのですが、わたしは自分の子どもたちが生まれてくるときに二度立ち会いました。実際この映画に入るにあたって、リアルな納棺の現場というのを見せていただいたときに、その空気感や与えられている喜びが出産によく似ていると思いました。例えば出産の場合は母子が、一方では生もうとそしてもう一方では生まれ出ようと格闘している。それを医師という技術が支えて、何もできないけれど家族がそれを見守っているという……、緊迫した時間を、真綿のようなとても温かいものが包んでいるという感覚。人が人であるということの温かさと、清らかさのようなものを素直に感じることができた特別な時間だったような気がします。その印象は納棺にも通じます。

■死を意識することは生きること

Q:本木さんはプロの納棺師としてもやっていけるというお墨付きをいただいたそうですが。

いえ、それはもう実際に本当のご遺体を扱ったわけではないですから。毎回ご遺族の立場に立って、場の空気を読むにはすごく研ぎすまされた神経が必要なので、プロになるのは容易ではないだろうと想像しますけどね。ただ話を聞くとやはり最初に不審がられる分だけ最後に感謝される度合いも強いので、非常に充足感のある仕事らしいですね(笑)。

Q:では、本木さんにとってよりよく死ぬということはどういうことなのでしょうか?

簡単に言えば、死を意識すれば生が浮上してくるということでしょうね。別れを知れば、出会いという輝きがよりかけがえのないものに感じられると。つまり死に接することによって、今自分が生きていることの尊さを再認識できると……。大げさですがそういうことだと思います。

映画の中ではコミカルな演技も披露していた本木。だが実際に目の前に立つ彼の心には、ピンと張りつめた一本の糸のようなものが通っているかのように見えた。家族を大切に思う気持ち、そして今を生きる喜びをきちんと自らの言葉で表現し、さまざまなゼスチャーも含めて大いに語ってくれた。良き夫、良き父親、良き人間として生きる彼の素晴らしい資質は、すべてが俳優としての器の大きさにも直結する。彼が言うようにこの作品との出会いをきっかけに、誰もが生きる尊さや喜びを見いだせれば素晴らしいと思う。

『おくりびと』は9月13日より丸内プラゼールほかにて全国公開

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