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ベニチオ・デル・トロ&スティーヴン・ソダーバーグ監督
『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』
エゴよりも、まずは映画が一番大事なんだ
『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』ベニチオ・デル・トロ&スティーヴン・ソダーバーグ監督インタビュー

取材・文:古川祐子 写真:高野広美

キューバ革命の立役者の一人で、没後41年が経った今もなお正義のシンボルとして世界中で愛され続けているチェ・ゲバラ。そんな稀代のカリスマであるチェ・ゲバラの、革命家としての軌跡に焦点を当てた壮大な2部作映画『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』が公開される。チェ・ゲバラの短くも濃密な人生を力強く演じ、カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞したベニチオ・デル・トロと、スティーヴン・ソダーバーグ監督の2人がキャンペーンで来日。映画が作られるきっかけや撮影当時の思い出、そして日本の観客へのメッセージまでさまざまなことを語ってくれた。

■チェ・ゲバラの映画を公開する絶好の時期

Q:ベニチオは本作のプロデューサーでもあり、チェ・ゲバラについて7年間もリサーチした上で演じられたそうですが、そこまで情熱を傾けた理由は?

ベニチオ(以下B):歴史の真実を描く作品に挑戦したかった。それに、時間を割いて映画のために尽くしてくれたすべての人たちにも報いたかったからね。撮影に入ると、周囲の俳優やスタッフはもちろん、山の上まで水を運んでくれたり、料理を作ってくれた人々への感謝の思いが気持ちを奮い立たせてくれて、現場へと向かう大きなモチベーションになったよ。

Q:幅広いジャンルの作品を手掛けるソダーバーグ監督ですが、本作を引き受けた理由は?

ソダーバーグ(以下S):人生のさまざまな局面において、できればなるべく「イエス」と言いたいと思っているからさ。今回は冒険に乗りだすような気持ちで引き受けたわけだけど、このプロジェクトをやり遂げたとき、自分が別の人間に変わっているのではないか……。そんな心境だったね。

Q:今、チェ・ゲバラを描く映画が公開されることにどんな意義があるのでしょうか?

B:今はまさに(映画を公開するのに)絶好の時期じゃないかな? もちろん、計画が始動したのはずっと前だけど。2008年はチェ・ゲバラが生きていたら80歳の誕生日を迎えるし、2009年はキューバ革命50周年。チェ・ゲバラが革命を目指した最終地であるボリビアでは、2006年に、先住民だった人が国民投票によって大統領に選ばれた。さらにアメリカでは、アフリカ系アメリカ人が初めて大統領に選出されただろう? その歴史的転換の中、プエルトリコ出身のおれが、たまたまハリウッドで、(共同プロデューサーの)ローラ・ビックフォードと出会って、一緒にチェ・ゲバラの映画をやることになって……。今思うと、おれたちの手の及ばないところで、何か大きな力が働いているようで、不思議な結びつきを感じるよね。

■ベニチオはパニックになって枕投げ!?

Q:世界的に人気があり、英雄視されているチェ・ゲバラを演じるにあたって、プレッシャーがあったのでは?

B:確かに、プレッシャーにつぶされそうになった時期はあった。だがソダーバーグ監督のオフィスに行ったとき、彼は僕の目の中にある恐怖を読み取って「チェ・ゲバラを描き切るのは無理だ! でも、それを承知した上でチャレンジしよう!」と励ましてくれてね。彼のその言葉で、完ぺきなんて絶対無理だけど、自分なりのベストを尽くせばいいんだという風に気持ちを切り替えることができたんだ。

S:ベニチオは僕よりプレッシャーが大きかったからね(笑)。

Q:本作にかかわったことで、チェ・ゲバラから何かしら影響を受けた部分はありますか?

B:もちろん。世界中で起こっている出来事により関心を持つようになったし、疑問を投げかけるようにもなったよ。

S:今回来日したとき、ビジネスクラスの飛行機を利用したんだけど、ふと「チェ・ゲバラだったらビジネスクラスは使わないだろう……。本当はエコノミー席に座るべきじゃないか?」と思ったんだ。それはまさにチェ・ゲバラの影響だよね。実際にはしなかったけれど(笑)。

Q:ベニチオは大幅な減量などもあって大変だったと思いますが、お二人が特に苦労した点は?

B:減量も含めて、すべてが苦労の連続だったね。とにかく無事に撮り終えることを目標にひたすら頑張ったよ。

S:実は第2部の方を先に撮り終えたんだけど、その2部の撮影が終わった直後が精神的に一番つらかったかな。これまでで一番大変な撮影だったのに、これからより困難な第1部の撮影が待っていると考えると……。「あ~! もう逃げられない!」って追い詰められている感じだったよ(笑)。

B:おれもそのころプエルトリコに戻っていて、次の第1部までの準備期間が10日間しかない! という状態でかなり焦っていて、最悪だったなぁ(笑)。

S:でも、あらゆることを全部気にかけると自殺したくなるから、とにかく目の前の仕事に集中するだけにして(笑)。パニックになっても何も解決しない、と自分に言い聞かせながらやっていた感じだね。スタッフのためにも、なるべく冷静になろうと。

B:誰でもパニックになるときはあったよね。僕は枕を投げたくらいさ!

■健康的なコラボレーションが築ける関係

Q:お二人が組んだ作品はいつも大きな賞を獲得しており、相性の良さを感じさせます。お互いのことをどう思っていますか?

S:基本的に、あんまり他人のことは考えないね(笑)。仕事に関しては、一緒に働きたい人、そうでない人の2種類がいるだけかな。

B:おれとソダーバーグ監督は、映画に対する気持ちと働く姿勢が85%くらい同じなのさ。彼とだとあまり説明はいらないし、混乱することもない。数テークやるとか、このシーンは撮るのか撮らないのか、そういったことも細かく説明してくれるから、きちんと状況を把握できるんだ。だからソダーバーグ監督は非常に健康的なコラボレーションが築ける監督だね。今回の現場で言うと、彼はすぐそばでカメラの後ろに立ち、そのシーンの一部みたいになっていたっけ(笑)。大声を出したりせず、顕微鏡を通しているかのようにじっとこっちを見ているんだよ。おかげで演じているおれは、まるで繭の中に包まれているような安心感を得ることができたね(笑)。

S:監督というのは、役者を不安定な気持ちにさせやすい……というかそうしがちなんだ。でも一方だけが力を行使するのは不公平だよね? だから、自分が求めているものを相手にきちんと説明する。作品に貢献しないことは排除して、すべてのエネルギーが映画に注がれるように気を配っているんだよ。エゴよりも、まず映画が一番大事なんだ。

■中南米の歴史の集大成として生まれた人間

Q:この映画を楽しみにしている、日本の人々へメッセージをお願いします。

S:皆さんは、この映画を観てチェ・ゲバラの生き様に驚き、さまざまなことを学ぶだろうね。そして、チェ・ゲバラについてもっとよく知りたいと思ったら、それを手助けしてくれる膨大な資料が残されていることも忘れないでほしい。僕たちは、チェ・ゲバラの一部分に焦点を当てて作ったけれども、皆さんがさらに資料のページを開いていけば、彼の人生経験の豊富さ、興味があることの幅の広さに驚くんじゃないかな?

B:本作を観た人が、チェ・ゲバラの著作を手に取ってくれたら素晴らしいね! そして、映画の舞台となっている1950年代や1960年代だけでなく、中南米の長い歴史にもぜひ興味を持ってもらいたい。チェ・ゲバラという人間は、中南米の歴史の集大成として生まれた人物だとおれは思っているんだ。だから、サルサ音楽に興味を持つだけではなくて、この作品によってさらに関心の幅を広げてもらえれば、とてもうれしいことだね。

とても大きな体格の気さくなベニチオと、知的でシャープな雰囲気が漂うソダーバーグ監督。インタビュー中は互いに仕事のパートナーとして信頼し合っている様子がうかがえた。ベニチオが話していたように、世界規模で政治や経済が転換期を迎えている今の時代に、チェ・ゲバラを描く映画が公開されるのは運命的な巡り合わせかもしれない。彼が魂を込めて演じたチェ・ゲバラの信念を貫く生き様は、観る者すべての胸を震わせ、パワーを与えてくれることだろう。

『チェ 28歳の革命』は1月10日より日劇PLEXほかにて全国公開。『チェ 39歳 別れの手紙』は1月31日より日劇PLEXほかにて全国公開。

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