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オダギリジョー
『悲夢(ヒム)』
なぜだか今、土に還りたい。都会より土の上で生活がしたい
『悲夢(ヒム)』オダギリジョー 単独インタビュー

取材・文:中山治美 写真:田中紀子

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韓国の鬼才キム・ギドク監督からのラブコールに応えて、韓国映画『悲夢(ヒム)』に主演した俳優オダギリジョー。初の外国人監督、初の韓国映画、そして初の本格的ラブストーリーとオダギリにとっては初モノづくしだった本作品。約1か月にわたった韓国での撮影秘話に加え、映画にまつわる夢の話まで、オダギリの深層心理が透けて見える(?)インタビューとなった。

■オダギリと鬼才キム・ギドク監督のコラボ

Q:『悲夢(ヒム)』は韓国人キャストの中に、オダギリさんが一人だけ日本人として参加し、おまけにオダギリさんのみセリフは日本語。これはキム・ギドク監督と話し合って決めたのですか?

いや、キム・ギドク監督は最初から「日本語で」と言っていました。

Q:キム・ギドク監督は日本語がわかるのですか?

全然わからないですよ。なので、ちょっとセリフを間違えたとか、「ここはニュアンスが違うな」と思ったところは「もう一回やらせてください」と自己申告するような感じでした。そこは、誰もジャッジできる人がいなかったので、僕が自分で判断しながらやりました。

Q:『悲夢(ヒム)』はキム・ギドク監督がオダギリさんを想定して書いた脚本ですが、最初に読んだときの感想は?

率直に面白いと思いました。着眼点がキム・ギドク監督らしいですよね。夢つながりで話が進んでいくなんて設定は、素人から見てもズルいじゃないですか(笑)。発想があっても、ここまで物語を広げて一本の脚本にしてしまうのは、キム・ギドク監督の才能だと思いました。でも、最初はジョーという役名だったので、それだけはやめてほしいとお願いしました(笑)。日本人が見たら笑っちゃうでしょう? 「素の名前使われているじゃん」って。

■夢の世界をそのまま映画にしたい

Q:オダギリさんは夢日記を付け、それを基に脚本を書いているそうですが、『悲夢(ヒム)』のようなアイデアが浮かんだことはありますか?

よく思うんです。夢の世界をそのまま映画にできたらいいって。でも、そこに至るまでのアイデアや設定はもちろん美術が大変だし、映画として成立させるのは難しいですね。

Q:その夢日記を分析することはあるのですか?

やっぱり(夢の出来事と実生活は)薄いつながりはあるワケですよ。だから、そういう夢を見るんだろうと思います。別に夢判断とかじゃないんですけど、とにかく、とんちんかんな夢の場合は、それを読み取ろうとしますね。

Q:記者会見で、アントニオ猪木を食べて胃が重い夢、その名も“アもたれ”の話をしていましたが(笑)、あれは勝手に分析しますと、オダギリさんがマッチョな男性にコンプレックスがある? または、前夜にたまたまテレビで猪木さんを見たとか?

わからないですね(笑)。あれは5、6年前の夢ですから。とにかく、ノートを見返して“アもたれ”と書かれていて大笑いしたんです。

Q:今も夢日記を付けているんですか?

ここ1年ぐらいはちゃんと書いてないですね。たまに明確に覚えている夢があるときぐらいですね。それが、映画を作るときに役立つのでは? と思ってメモを取るんです。

■自分を見つめ直すことができたと

Q:キム・ギドク監督は鬼才と呼ばれていますが、鬼才たる一面を垣間見ましたか?

基本的には僕のやりやすいように……と言ってくださって、特別な演出はなかったと思います。ただ、アイデアや撮影方法にかんしては、独特なものはありますね。

Q:ギドク監督は画家出身ですので、映像にこだわる人では? というイメージがあるのですが。

僕もそう思っていたんですけど、芝居の方に興味がある方だと思います。車内に僕がいるシーンで、照明スタッフがまだ準備をしているのに「回せ!」とカメラを回し始めたんですよ。照明がなければ、フィルムに写るかどうかわからないようなシーンなのに。役者の、その瞬間を逃したくないという強い思いが見えましたね。なのでカメラマンは、いつ監督に指示されてもいいようにセッティングをしておかなければならないし、監督の一言でガラリと設定が変わることがあるわけです。それについていくスタッフは大変だろうと思いましたね。

Q:キム・ギドク監督の作品について、オダギリさんは記者会見で「人間の中のドロドロしたものや、人に見せない部分をさらけ出し、それを美しく見せることができるのはキム監督ぐらい」と称していました。でもそれは、演じる役者にとって精神的にキツいし、エネルギーも要するのでは?

そうですね。でも、僕は今までそういう作品をやったことがなかったんです。特に日本映画は哀しみを描くことが多いんですけど、キム・ギドク監督は痛みとか苦しみを描いていると思うんです。『悪い男』とか監督の作品が好きなのは、そういう部分が描かれているからなんですよね。役者として今までにない経験ができたので、また違った角度から自分を見つめ直すことができたと思います。いい経験でしたね。

■素のかわいいオダギリジョーが垣間見える

Q:だからなのでしょうか? 『悲夢(ひむ)』を観たとき、「あら? かわいい」と(笑)。これまでの作品の中で最も素のオダギリさんを見たような気がします。

そうですか!? でも、脚本を読んで撮影現場に入るまで、ずっと名前がジョーだったから、あまり役としてとらえてなく、あたかも自分が今から「こういう経験をするんだ」という感覚でいたような気がします。だから素に見えるんですかね。でも確かに、この映画の取材を受けていると「かわいらしい」とか、「チャーミング」とか言われるんです。それは僕も予想してなかったし、キム・ギドク監督もそれを予期していたかどうか、わからないですね。

Q:特にジンの夢が、ラン(イ・ヨンエ)の現実に呼応してしまうため、眠らないようにジンが睡魔と闘う場面で、目にテープを張ってまぶたが閉じないようにするなんて(笑)。

そのシーンのとき、キム・ギドク監督が「どうやってテープを張る?」と尋ねてきて、自分で実行し始めたんです。でも監督はもともとの顔がカワイイから、テープを張ってもかわいいんですよ。かわいく見えて大丈夫なのかと思いつつ、やってはみたんですが(笑)。コメディーになってないか、ちょっと心配ですね。

Q:撮影で文化の違いも体験しましたか?

たくさんありますよ。良くも悪くも、毎日トラブルが起こって、それが面白いですね。例えばギドク監督の撮影は、当日朝にならないとその日のスケジュールが出ないんです。だから僕は、現場で順応するだけでした。それとキム・ギドク監督独特のスピード感ですね。撮影はテストもなく、いきなりカメラを回し始めますから。それは、なかなか日本ではできない経験でした。

Q:2008年はこの『悲夢(ヒム)』に始まって、『プラスティック・シティ』、『狼災記』と海外映画が3本続きました。1年間の人生修行ともいえる旅は、人間オダギリジョーに何か変化をもたらしましたか?

昔ならけんかになっていたようなことでも、今は安らかに流せます。ビックリするくらいに大人になっていますね(笑)。気持ちの面でも、なぜだか今、土に還りたい。都会より土の上で生活がしたいと……。仕事を辞めて田舎に行き、農業でも始めようかと考えるぐらいに思っています(笑)。今まであまりにも都会の生活でその流れに飲み込まれ、仕事の割合も大きく、自分を見失うことも多かったと思います。なのでこれからは、生活の方にも重点を置きたいと思っています。

オダギリの夢日記は、脚本などを手掛けた「帰ってきた時効警察」の第8話や、自分で撮っている短編映画に活用されているとか。長編初監督作『さくらな人たち』には“アもたれ”以上のぶっ飛んだネタは、そこにあるのか!? 役者業はさておき、監督業の方にやる気を出していただき(笑)、ぜひオダギリワールドを披露し続けてほしい。

『悲夢(ヒム)』は2月7日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開

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