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チェン・カイコー監督&安藤政信
『花の生涯~梅蘭芳(メイランファン)~』
一番困難な時期にこそ、その人の本質が現れる
『花の生涯~梅蘭芳(メイランファン)~』チェン・カイコー監督&安藤政信 単独インタビュー

取材・文:古川祐子 写真:秋山泰彦

1993年カンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた『さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)』から15年。チェン・カイコー監督が、再び京劇の世界を舞台に描く『花の生涯~梅蘭芳(メイランファン)~』が公開される。京劇の魅力を世界に広めた女形名優・梅蘭芳(メイランファン)の、時代の波に翻弄(ほんろう)されながら、芸術に身をささげた人生を豪華絢爛(けんらん)な数々の舞台シーンを絡めながらつづる伝記ドラマだ。日本とも交流の深かった実在の人物にチャレンジしたチェン・カイコー監督と、劇中で良心と任務とのはざまで苦悩する日本の軍人を演じている安藤政信の二人が映画について語ってくれた。

梅蘭芳(メイランファン)の生き方そのものに惹(ひ)かれた

Q:梅蘭芳(メイランファン)という、実在の人物を題材に選んだ理由と、彼の魅力についてお聞かせください。

チェン・カイコー:梅蘭芳(メイランファン)を映画にしようと思ったのは、芸術面での功績だけでなく、生き方そのものに惹(ひ)かれたところが大きいね。周囲には穏やかな態度で接するが、内面は強い信念を持っている。彼は自分の家族だけでなく、芸術家として大衆やマスメディアなどからの要求にも応えていかなければならなかった。わたしなりの言い方をすると、彼はずっと京劇の世界に捕らわれていたんだ。人生そのものが、紙の枷(かせ)を付けられて、踊っているかのようだった。そして、彼が役者として常に心に抱えている苦悩をいかに克服していくか、その過程を描けばどこの国の人々が観ても共感を覚えることができるだろうと思ったんだ。また、偉大な芸術家でありながら自分を特別な人間だとまったく思っていなかったところに魅力を感じたね。

キャラクターの苦しみや悲しみを感じてつらかった

Q:田中という悲劇的な日本軍人を演じるにあたって心掛けたことは?

安藤:自分が演じる田中は軍人であり、日本の支配下にあった時代の中国で、京劇に政治的思想を折り込むことで中国の民衆に影響力を与えようとしていた。その一方で一人の芸術を愛する人間として、梅蘭芳(メイランファン)への純粋なあこがれも持ち合わせている。常に2つの異なる思いに揺れていることを意識するようにしていました。

Q:葛藤(かっとう)を抱える人物を演じるのに苦労はありましたか?

安藤:そうですね。僕自身、田中はこの時代の犠牲者だと思いながら演じていました。役を通して彼の悲しみや苦しみを感じて、自分もつらくなる部分がありましたね。

Q:チェン・カイコー監督との仕事はいかがでしたか?

安藤:ずっとあこがれていたチェン・カイコー監督からオファーが来るなんて、思いもよらないことでした。現場に入ってからは、監督の演出の細やかさや美術の美しさに毎日感動していましたね。本作で同じ時間を過ごすことができて本当に幸せです。

Q:共演者はレオン・ライやチャン・ツィイーなど中華圏のスター俳優がそろっていますね。

安藤:僕には中国語を自在に操れるほどの語学力はなかったので、言葉の面では束縛がありましたが……。自分もプロの役者ですから、ほかの共演者と一緒にやっていて演技面での差は感じなかったです。

安藤政信は目や体で気持ちを表現できる素晴らしい役者

Q:監督にお聞きします。安藤さん演じる田中という人物をどうとらえていますか?

チェン・カイコー:わたしはこの田中というキャラクターが非常に好きなんだ。俳優にとっても演じがいがあって、実力を発揮できる役だと思うよ。結局、役者というのは人間の矛盾を演じる存在だからね。矛盾というのは、なかなか解決することができないから、役者の演技はそのプロセスで見せ場が生まれてくる。田中は中国文化を尊重し、梅蘭芳(メイランファン)と親しくする一方で、軍人としてそれを表に出せない。戦争の残酷さ、歴史が生んだ悲劇を彼は体現しているんだ。

Q:安藤さんの演技はいかがでしたか?

チェン・カイコー:素晴らしいの一言だよ! わたしが求めている田中像を見事に演じてくれたんだ。安藤さんの目が、キャラクターの内面を正確に物語っているよ。ある場面では、彼は軍人として横暴な態度でふるまうんだが、観る側は彼の目を通して、優しさを感じ取ることができる。目や体で気持ちを表現できる素晴らしい役者だと思うね。また、安藤さんはまだ若いが適当なところがまったくなく、常に全身全霊で演技に打ち込んでくれたのにも感心したよ。

Q:安藤さん、監督からこのように絶賛されていますが?

安藤:いや、もう……本当に、感激ですね(笑)。ご一緒に仕事ができただけでもうれしいのに、自分の芝居に対してここまでくみ取ってくれたことに、感動です。

困難な時期にこそ、人間の本質が現れる

Q:安藤さんにお聞きします。本作に参加して、ご自身の中で影響を受けた部分はありますか?

安藤:今回初めての軍人役だったのですが、演技を通して戦争が本当に愚かなものだということをより深く身をもって知ることができたような気がしますね。映画をご覧になる方にも、やっぱり自分の演じた田中を通して、時代が人生を狂わせてしまう……戦争の残酷さというものを感じ取ってもらえたらいいと思います。

Q:監督がこの作品を通して伝えたかったことは?

チェン・カイコー:伝えたいことはすべて映画の中に盛り込まれていて、簡単にはなかなか言えないが……。人間のクオリティーというものは、勝利したとき、あるいは最も成功している時期では、なかなか見えてこない。むしろ一番困難な時期にこそ、その人の本質が現れるのではないか。梅蘭芳(メイランファン)という人物は、そういった問いかけに対する一つの答えとして、最もいい例だと思うよ。

Q:日本の人々へメッセージをお願いします。

チェン・カイコー:これまでハリウッドで仕事もしたし、アメリカで商業映画を撮る機会はたくさんあったけれど、あえてあまり手を出さなかった。そういう作品の中では、自分の表現したいことがなかなか実現できないんだ。むしろ、今回のような東洋の美に関する作品では、自分の語りたいことをじっくり表現できたんだ。わたしは日本との交流が多いから、日本文化への理解も深い方だと思っているよ。日本の皆さんは、ある種の安定した力を持っていて、どっしり構えている部分がある。ここがとても好きなんだ。本作でも、作品の世界や梅蘭芳(メイランファン)の精神を深く理解してくれるのではないかと思っているよ。

インタビュー終了後、「いい質問をありがとう」とほほ笑んでくれたチェン・カイコー監督。握手した手は大きく、力強かった。一方、質問にじっくり考えながら答える安藤の姿からは、劇中で演じた役柄と同様にまじめでひたむきな性格がうかがえた。日本でも品格という言葉がブームになったが、本作の梅蘭芳(メイランファン)の生き方や、たたずまいは、まさにその言葉がぴったりと当てはまるほどである。ぜひ本作で尊敬に値する生き方を貫いた芸術家の人生に触れると同時に、京劇という東洋の美を存分に堪能してほしい。

映画『花の生涯~梅蘭芳(メイランファン)~』は3月7日より新宿ピカデリーほかにて全国公開

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