シネマトゥデイ

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松山ケンイチ
『カムイ外伝』
過酷な撮影で、本当に追い詰められた
『カムイ外伝』 松山ケンイチ 単独インタビュー

取材・文:シネマトゥデイ 写真:秋山泰彦

一世を風靡(ふうび)した白土三平の漫画「カムイ外伝」。多くのファンやクリエーターが映像化を渇望した中、映画『血と骨』の鬼才、崔洋一監督の手によりついに映画化された。主人公のカムイ役を見事に射止めたのは、現代の日本映画界の先頭に立つ松山ケンイチ。映画によって、その表情、姿、言葉遣いなどが次々と変わることから"カメレオン俳優"の異名を持つ彼が、映画『カムイ外伝』でどう化けるのか。1年という長い撮影を終えた松山が、撮影について、そして映画について語ってくれた。

■初めてのアクションで、撮影の前はすごく怖かった

Q:この映画への出演が決まったときのこと、そしてオファーを受けた理由について聞かせてください。

僕のところにカムイ役のオファーが来て、尊敬する崔監督と一緒に仕事ができるということや、自分にとって初めてのアクションシーンがあること。後は、日本人の役者なら誰でも一度はやってみたいと思う時代劇で、しかも日本を代表する忍者の役だということ。どれをとってもすべてのことが魅力的でしたね。ぜひやりたいと思いました。

Q:緊張やプレッシャーはありませんでしたか?

正直、僕にとっては、初めてのアクションでしたから、撮影の前はすごく怖かったですね。もちろん緊張もしました。

Q:実際に撮影が始まった感想はいかがでしたか?

自分が想像していた以上に、アクションシーンは大変でしたね。砂浜を全速力で駆け抜けるシーンがあったり、砂浜で戦うシーンがあったりと、砂浜での撮影が多かったんですが、砂浜だと足が砂にとられてしまうので、思ったように速く動けないんです。練習をしていたときはうまく動けていましたが、本番では思ったようにいろんな動きができなくなってしまい、悔しい思いをたくさんしました。本当に大変でしたね。

■崔監督は、母性のある監督

Q:崔監督は厳しい監督で有名な方ですが、どんな印象を持たれましたか?

僕も、最初はすごく怖い監督なのかと思っていました。でも、撮影が終わった今は、恐いとかそういうことは全然なくて、反対にすごく母性のある監督だと思いますね。

Q:母性ですか?

クランクインしたばかりのころは、緊張しながら演じていたんです。でもずっと緊張しているとどんどん疲れてきますよね。それで、どうすればいいのかわからなくなってしまったときに、頼れるのは監督しかいないと思って、監督に相談したことがあったんです。そしたら、一からすごく丁寧に教えてくれたんですよね。そういうことを、撮影中に何度か繰り返しているうちに、この監督はすごく作品を愛していて、作品にかかわる人をすごく大事にしていて、愛を持って接してくれているんだということに気付いたんです。

■撮影が進むにつれて、自分の弱さが浮き彫りになった

Q:共演者の方々の話や、崔監督の話からも、真夏の沖縄でのロケは大変過酷だとうかがいました。正直、撮影のときに逃げ出したくなったことはありましたか?

ありましたね。やっぱりそう思ってしまうくらい、精神的にも追い詰められていました。だから撮影が進むにつれて、自分の弱さが浮き彫りになりました。役者としての課題も、たくさん出てきましたしね。

Q:それでも松山さんを、「頑張ろう!」という気持ちにさせた原動力は、何だったんでしょうか?

僕は一度、この作品をけがでリタイアして撮影を止めてしまったことがあったんです。その借りは絶対に返さなきゃいけない! という思いと、もうこれ以上ほかのスタッフさんやキャストさんや監督に、ご迷惑をかけるわけにはいかないという気持ちがあって……とにかくそれだけだったと思いますね。

■もし機会があるなら、カムイを何回でも演じたい

Q:カムイというキャラクターは、原作でもとても奥深いキャラクターとして描かれていますが、どのような気持ちで演じられていたのでしょう?

カムイのキャラクターについては、毎回、撮影のたびに必死に考えていましたし、それはすごく難しかったですね。だから、カムイを安心して演じられたことなんて一度もなかったですし、気持ちよくやり切ったという感じは今でもないです。

Q:この難しいキャラクターを理解して、演じることはできましたか?

(カムイは)奥深いキャラクターだから、僕はこの一回の撮影で彼のことをすべて理解したとは思っていません。もしかすると、半分も理解できていないのではと思うんです。だから、もし機会があるのなら、何回もカムイを演じて、カムイを理解していきたいという気持ちは今でも持っていますね。

Q:カムイはどんなにつらいことがあっても、どんなに迫害されても、生きることをあきらめません。彼が持つ、生きることへの執着にはどんな印象を受けましたか?

僕はそれを一番疑問に思いますね。カムイが持っている生への執着を、やっぱり観ていただく皆さんにも感じていただきたいです。そう考えると40年前の原作を実写化して、今、公開する意味があるんだろうと思いますね。

■自分の中の何かを残して、演じている

Q:カメレオン俳優と言われる松山さんだけあって、どの作品でもまったく違う顔を見せていますね。松山さんが演じられるときは、100パーセント役に成り切るのでしょうか、それとも、自分の中の、松山ケンイチの何かを残しているのでしょうか。

自分の中の何かを残して、演じていると思っています。演技をする上で、理論とか理屈とかっていうものも考えますけれど、実際に撮影の本番になったら忘れちゃって、自分の感覚だけで演じているところはあるかもしれないですね。僕がそのキャラクターを演じる上で、自分が演じるキャラクターが自分と100パーセントすべてが違っているなんてことは有り得ないと思うんですよ。よほどのことがない限り。絶対どこかで共通しているからこそ、自分がそのキャラクターを演じることができるんじゃないかと思っているんです。だから、僕もどこかでカムイと似ているところはあるのかもしれないですけれど、具体的にそれを見つけることは、あまりできなかった気がしますね……。

Q:本作を通して、松山さんが役者として、一人の男として成長した部分はどういうところだと思いますか?

まず、『カムイ外伝』という作品に出会えて、カムイというキャラクターをやらせてもらったこと自体、自分にとってすごく大きなものだと思うんです。でもここで学んだものとか、男として成長した部分というのは、その瞬間何かあるのかもしれないですけれど、僕はすぐ忘れてしまうので……。これからいろんな作品に携わりながらも、結局同じことを繰り返していくんだろうと思いますね。

インタビューをしていると、松山が持つ本作への深い愛情がひしひしと伝わってきた。撮影を振り返るようにして、静かに話す松山は、まるで当時を思い出したように、「本当に追い詰められました……」という言葉を何度も繰り返した。初めてのアクション、初めての時代劇、そして自らのけがによる撮影中止という挫折……。彼がこの撮影で乗り越えた壁は、映画の中でカムイが乗り越えた壁のように分厚く、つらいものではなかったのだろうか。本作で、役者としてまたひと回りも、ふた回りも成長したであろう彼が、これからの映画界でどのような活躍を見せてくれるのか。今後も目が離せない。

『カムイ外伝』は9月19日より全国公開

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