
取材・文:鴇田崇 写真:秋山泰彦
今年、生誕100周年を迎える太宰治の同名短編小説を映画化した映画『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』に、女優の松たか子が主演した。現代でも根強い人気を誇る太宰作品が愛される理由や、名優・浅野忠信と夫婦を演じた感想や、自身が考える理想の夫婦像、女優としての今後など、さまざまなテーマについて語ってくれた。
■じっくりと夫婦を描いた物語に挑戦したかった Q:太宰治生誕100周年ですが、もともと太宰作品になじみはありましたか? 『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』のお話をいただく前は、学校の教材で触れた程度でした。教科書に「走れメロス」が載っていたんです。小学生のころだったと思うので、何となくメロスという名前の主人公の物語が珍しく感じた程度でした。「ヴィヨンの妻」も映画化されるにあたって、初めて読みました。 Q:原作を読まれたときに、現代の日本人が避けては通れない物語だと感じたそうですね。 はい。原作でも映画でも、夫婦の姿がすべて説明的に描かれているわけではないですが、ここまでじっくりと夫婦の関係性を描いている物語はなかなかないと思いました。そんな夫婦の妻役を、自分が表現できると思ったら挑戦してみたくなりました。 | ![]() |
![]() | ■結局は相手を好きになったら負け Q:作品に太宰らしさはにじみ出ているのでしょうか? 今回の映画は、「ヴィヨンの妻」をベースにしつつもオリジナルの物語が書かれていますが、さまざまな太宰の作品からいろいろなエッセンスを取り入れているそうです。撮影中は『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』という独立した映画として取り組み、太宰の作品と考えるよりも大谷の妻を演じることに集中しました。その一方で、太宰そのものを感じさせる物語だとも思いました。 Q:松さんから観て、浅野さんが演じる大谷という人物はどう映っていますか? 自分は演じているので、気持ちは佐知と一緒になっちゃうんですよね(笑)。大谷は確かにめちゃくちゃな夫ですが、才能があって自分が家庭人であるべきかどうか苦悩する姿が、とてもいとおしく感じました。そんな人間的な姿をありのままに見せらたり、すべてをさらけ出してボロボロになった姿を見せられたりすると、受け止めたくなります。それは女性が本来持っている本能のような気がします。弱さを見せられると自分を必要としてくれている気がして、うれしくなると思うんです。相手を見届けてあげる価値があると思いました。結局は、好きになったら負けだと思います(笑)。 |
■男女という生き物の違いから感じてほしいこと Q:松さんが女優としてやりがいを感じる瞬間とは、どういうときでしょうか? 作品を観てくれた人たちが、純粋に頑張ろうと思ってくれたらうれしいです。何かしら心が動いてくれることが幸せですね。その動いた瞬間をわたしは直接見ることができないし、誰がそう感じてくれているのかもわからないじゃないですか。自分が知らない人たちが、何かしら興奮したり考えたり感じたりしてくれることがあればいいと思うだけですが、そういう気配を感じたときに、とても良かったと幸せな気分になれますね。 Q:最後に、悩める女性たちにとって、応援映画にもなりそうな本作の見どころをお願いします。 そうですね。ただ、女性が自立するだけのような映画に受け取られてしまうと、そういうつもりで佐知を演じていたわけじゃないので、趣旨と違ってしまうかもしれません。男性に頼っていいとわたしは思っていますし(笑)。男女という違う生き物が生きているこっけいな姿を見てもらって、そこが美しかったり、カッコ悪かったりするわけですが、自分はこの二人よりはマシかもって思ってもらえれば(笑)。生きていさえすればいいというセリフも出てきますが、ちょっと考え方を切り替えたり、希望を感じてもらえたりすればうれしいですね。 | ![]() |
![]() | 本作は女優として輝かしいキャリアを持つ松にとって、意外にも長編映画初主演だったが、「初主演だから、という特別な意気込みはなかったです」と謙虚な姿勢が印象に残った。夫のすべてを包み込む海のような包容力と、どんな困難にも負けないしなやかな強さを持った佐知は、松をイメージして書かれたというが、佐知同様にしなやかで謙虚な松だからこそ演じ切れた役に違いない。松の確かな存在感を、スクリーンで目の当たりにしてほしい。 |
『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』は10月10日より全国東宝系ほかにて公開
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