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笑福亭鶴瓶
『おとうと』
映画も落語と同じで、オチが決まるとすべてがしっくりいく
『おとうと』笑福亭鶴瓶 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:吉岡希鼓斗

巨匠・山田洋次監督が、映画『十五才 学校IV』以来10年ぶりとなる現代劇映画『おとうと』を完成させた。東京で薬局を営むしっかり者の姉と、問題ばかり起こす愚かな弟との再会と別れを中心に、家族のあり方を描く笑いと涙の人情物語で、弟の鉄郎を体当たりで演じた笑福亭鶴瓶。過酷なダイエットに挑んだ本作の裏話や、吉永小百合をはじめとする共演者とのエピソード、さらには家族との思い出話など、周囲を和ませる満面の笑顔で語ってくれた。

■やっぱり山田洋次監督はすごい!

Q:心にずっしりと染み入る人間ドラマですね。鶴瓶さんは完成した作品をどうご覧になりましたか?

一番すごいと思ったのは、病に伏した弟と看病する姉がリボンで手と手をつなぐ理由ですね。実は、台本にはその理由まで書かれていなかったので、そこまで姉と弟でするものなのか、納得できないところがあったんです。でも、完成した映画を観ると、ちゃんと納得できるようになっていました。映画も落語と同じで、オチが決まるとすべてがしっくりいくんです。

Q:鉄郎が目覚めたらすぐにわかるように、姉の吟子がリボンで手をつないで寝る場面ですね。あのシーンは本当に感動的でした。

吟子からすると鉄郎は、散々迷惑を掛けられたけど、自分の大事な娘の名付け親になってくれた弟。しかもそれは、吟子の亡き夫が、家族からないがしろにされていた弟に、花を持たせてあげたいという優しさから頼んだことだったんです。だから、吟子は夫のためもあって鉄郎の元に行くんですけど、そこからは昔の姉弟に戻って、幼いころのように手をリボンでつなぐ。そんなオチを考えた山田さんは、やっぱりすごいと思いましたね。

Q:病気で日に日にやせていく鉄郎を、鶴瓶さんがリアルに演じていました。役づくりのためにダイエットをされたそうですが、一番つらかったのはどんなときでしたか?

ラストの1日はさすがにつらかったですね。あの日は、朝7時に起きてサウナスーツで走って、サウナに1時間くらい入って、水も飲まんでボクシングを9ラウンドまでやって……シャワーを浴びて体重を量ったら、3.3キロもやせていたんです! それからすぐテレビ番組の収録だったんですけど、飲まず食わずだったので声がまったく出ない。まさに病人のようでした。でも、弁当を食べて水を飲んだら、みるみる元気が出ました。ホンマ、米って大事やで(笑)。

■家族には迷惑を掛けたかも……?

Q:鉄郎は、大阪で役者の夢を追い続け、家族に迷惑ばかり掛けていました。そんな彼に共感する部分はありましたか?

あんなんないわー(笑)! だいたい僕は人に迷惑を掛けたくない性分で、有名になると家族が周りからへんに言われたりするんじゃないかなって、気を使っていた方なんですよ。……でも、大学を辞めて落語家になったときは、えらい商売についたと思った人もいたかもしれない。あのころは今と違って、落語家は食える商売ではなかったし。まあ、僕は5人兄弟の末っ子だったから、好きなようにさせてもらえたんでしょうね。

Q:今の鶴瓶さんは、兄弟のみなさんにとって自慢の弟なんじゃないですか?

自分は芸人として一生懸命頑張ってきたつもりですけど、兄弟からするとやっかいな存在だった時期があったかも。周りの人から「あんたの弟、テレビで下半身出していたわよ!」とか言われて(笑)。紅白歌合戦の司会をやったときは、みんな喜んでくれたけど、仕事の上と下がずいぶん違うよね(笑)。

Q:では、吟子を演じた吉永小百合さんのお姉さんぶりはいかがでしたか?

うちの姉は3人ともいい姉ですけど、顔も性格も吉永さんほどの姉さんはいない(笑)。だって、「吉永小百合」やで! 共演者が僕でいいのかと思いますよ! こんな僕をちゃんと受け止めてくれて、それだけでもありがたいですよ。

■打ち上げで吉永小百合と豪華カラオケ!

Q:吉永さんとはプライベートでもご一緒されたそうですね?

吉永さんから「みんなで打ち上げをしましょうよ」って言っていただいたんです。吉永さんが全部セッティングしてくれて、最後にカラオケに行ったんですよ。そこでデュエットしましょうって吉永さんがリクエストしてくれた曲が、「浪花恋しぐれ」。よりによって落語家の歌ですわ(笑)。「芸のためなら女房も泣かす~」って僕が歌ったら、吉永さんが「あんた、遊びなはれ」とかセリフを言ってくれて。えらい豪華なカラオケでした(笑)。

Q:今回共演された蒼井優さんと加瀬亮さんにはどんな印象をお持ちですか?

蒼井優はかわいいい女ですよ。何やろね、あのかわいさは。ずば抜けて美人ってわけじゃないのに、えらい魅力的なんですよね。加瀬亮なんて、スタジオの外で会ったら「スタッフかな?」って思うくらいオーラがない(笑)。でも、映画の中ではものすごい存在感ですよね。すごく優しい目をしているし、ええ男ですわ。彼は独身でしょう? 結婚したらええだんなになると思うよ(笑)。

Q:山田監督率いる山田組の現場はどんな雰囲気なんですか?

山田組っていうのはみんな職人さんで、音声さんも美術さんもみなさん僕より年上だから、「鶴瓶ちゃん!」って呼んでくれるんですよ。最近はどの現場もスタッフが年下の人ばかりで、そんな風に呼んでくれる人がいないから、すごくうれしいですね。

■本作でNGを出したことは一度もない!

Q:今回の山田監督の要求は厳しいものでしたか?

厳しい要求は一切なかったです。僕にはNGが出なかったんですよ。山田さんは、映画の中心にいる僕だけは自由にさせて、周りの役者さんをきっちり固めたのかもしれない。一人だけが揺れていると映画が生きてくるという、監督としての思いがあったんじゃないですかね。まあ、「あいつに言うてもしゃーない」と思ったのかもしれない(笑)。小林稔侍さんなんて、40回くらいNGを出していたし、佐藤蛾次郎さんも、1時間くらい「鍋焼きうどんでーす!」って言い直していたらしい。しかも、そのセリフは本編でカットされたんやもんね(笑)。

Q:「何気ない会話や振る舞いを見ているだけで涙が出てくる」と監督がおっしゃっていたそうですが、鶴瓶さんの琴線に触れたシーンは?

やっぱりラストですよ。加藤(治子)さんが演じたおばあちゃんのセリフ。そして、それを聞いた吟子の涙。僕も観て涙が出ましたわ。もちろん、グッとくるシーンはたくさんあるんですよ。でも、あのラストは最高です!

Q:最後にそんな鶴瓶さんから、これから映画を観る方に伝えたいことを教えてください。

これは山田洋次さんが現代の家族を表現した作品です。観ておかないと損ですよ。いや、観ておくべきです! そして、観終わったら兄弟や家族と会って、改めて話してみてほしいですね。僕も兄弟で旅行しようかと思っています。とにかく観てください!

インタビュー中、周りのスタッフに話し掛けて笑いを誘うなど、サービス精神満点のトークで場を盛り上げてくれた鶴瓶。気配り上手で誰からも親しまれる彼が今回演じたのは、家族のやっかい者でありながら、どこか憎めないキャラクター。ともすれば単なる迷惑者になりかねない難役を、何とも魅力的に演じ切った鶴瓶に拍手を送りたい。姉弟のきずなを丹念に描いた本作を観れば、普段は当たり前に思いがちな家族の存在が、とても愛おしく感じるはずだ。

映画『おとうと』は1月30日より全国公開

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