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小池栄子
『人の砂漠』
結婚したころから、人にどう思われても関係ないと言えるようになった 
『人の砂漠』小池栄子 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美

ノンフィクション作家沢木耕太郎のルポルタージュ集を、東京藝大の学生たちが映像化した異色のオムニバス映画『人の砂漠』。実在の人物をモデルにした4編の作品の中で、家族に見放された元売春婦の絶望と再生を描いた『棄てられた女たちのユートピア』のヒロインを演じたのは、女優としての活躍が目覚ましい小池栄子。すべてが新鮮な体験だったという小池が、撮影の裏話から幸せいっぱいの結婚生活まで、サービス精神満点で語ってくれた。

■環境や予算は作品の良しあしに関係ない!

Q:まるでインディーズ作品のような質感が新鮮でした。学生スタッフとの現場は、小池さんにとっても刺激になったのでは?

すごく新鮮でしたね! 本当にみんなと一緒に作り上げていったという感覚でした。若いスタッフだけに、わからないこともたくさんある中、時間と戦ってお芝居をするという経験は初めてだったので、プロの現場とは違う胸の高ぶりを感じました。

Q:小池さんご自身も、学生気分に戻れたのではないですか?

そうですね! わたしは大学に行かなかったので、余計に楽しかったです。本当に大学生の卒業制作に仲間として携わっている気分でした。「じゃ、わたしが女優やる!」みたいな(笑)。照明さんが荷物を運んでいたり、一人で何役もやっているスタッフもいて、現場はかなり大変でしたけど、環境や予算は作品の良しあしに関係ないと思っているんです。いい映画はいい映画だと思うので、何の不安もなかったですね。

Q:本作の舞台は、社会復帰が困難な女性たちが暮らす実在の施設ですが、小池さんはこのような場所があることをご存じでしたか?

知らなかったです。ほかの施設を断られた女性が集まっているというのが衝撃でした。でもロケハンに行ったスタッフに聞いたら、想像とは違って、みなさんとても楽しそうに過ごしていらっしゃるみたいです。とはいえ、それがベストな環境ではないのかもしれませんけどね。

■行き場のない寂しさは誰にでもある

Q:そんな施設で共同生活を送る元売春婦の物語を演じるうえで、戸惑いはありませんでしたか?

わたしが演じたいちこは、普通の家庭で育った女の子なので、特に戸惑いはなかったです。ごく普通の女の子が、行き場がなくなって売春をしてしまい、施設に送り込まれたというストーリーですから。ただ、とてもデリケートなお話ですし、取材させていただいた方々を傷つけないよう、当然配慮しなければいけないので、監督やスタッフを信頼して作品に参加しました。

Q:いちこの「あたし、なんで生きているんだろう?」というセリフが胸に刺さりました。

やっぱり、必要とされている、求められているという瞬間に、人は喜びを感じると思うんですよね。誰からも必要とされていないと、とても孤独になって、生きているのがつらくなるほど絶望的な気分になる。今回の撮影では、施設の内部を再現した特殊な現場の中で、「ここにはいたくない!」という感情が自然にわき出て、いちこの絶望や孤独に寄り添えた気がします。でも、行き場がないような寂しさを感じることって、誰にでもあると思うんです。

Q:小池さんにも孤独を感じる瞬間があるんですか?

もちろんありますよ! 休みなのに誰からも誘われないときとか、だんなさんが出張で独りぼっちの日とか(笑)。小さいころから、そんな気持ちになるのが嫌でしたね。だから、みんながお祭り騒ぎする行事ごとって嫌いなんですよ! クリスマスやバレンタインデーって、誰かと一緒にいなければいけない気持ちになるじゃないですか(笑)。年末年始はみんなで盛り上がらなきゃ! とか(笑)。

Q:その気持ちすごくわかります! 一人でいることがたまらなくつらくなるんですよね(笑)。

そう、何だか追いつめられるでしょ! 普段なら感じない孤独を、強制的に感じさせられるというか(笑)。そんなときは仕事が入っていると楽になりますよね! 誰かと接しているだけで、不安や孤独が和らぎますから(笑)。

■結婚してから、仕事がとても楽になった!

Q:『接吻』で数々の映画賞を受賞されて以来、女優としての注目度が高まっていますね。

びっくりしました! あれからお芝居のお話をいただけるようになって、「映画の賞ってすごいんだな」と実感しました(笑)。もちろん、とても光栄なことなんですけど、自分の中では『接吻』も『人の砂漠』も、お芝居をするという意味では変わらないんですよ。チャンスはいつどこにあるかわからないんだなって、不思議な気持ちがします。

Q:小池さんは、デビュー当時から「いつかは女優に」というお気持ちがあったんですか?

デビューしたてのころに深夜ドラマに出演して、「演じるって面白い!」と思ったんですけど、その後はお芝居の話がまったく来なくなってしまったんです。オーディションにも落ちまくって、強烈な挫折感を味わいました。だから20代前半のころは、お芝居がやりたいとは言えない自分がいましたね。笑われたらどうしようとか、周りのことばかり考えていました。結婚したころから、やっと「人にどう思われても関係ない」と言えるようになったんです。

Q:ご結婚されてから、お仕事に対するスタンスが変わったんですね。

変わりましたね。とてもリラックスして仕事ができるし、「いつ辞めてもいいよ」って彼(プロレスラーの坂田亘)が言ってくれるから、逆にとっても楽になるんです。だって、一番近い人に過剰な期待をされてもつらいじゃないですか(笑)。女性だって仕事場は戦場のような感覚があるのに、家に帰っても「頑張れ!」って言われるのはキツイですからね(笑)。

Q:逆に、だんなさんが仕事を辞めたいと言っても、小池さんなら「いいよ」って答えそうですね(笑)。

うちは昔から男女の差がないんです。いつもお金を持っているほうが払っていたので、そういうことにはこだわらないんですよ。もちろん、すごいお金持ちと結婚して、趣味程度に仕事をするのもいいなと思ったことはあるけど(笑)、働いていないとフラストレーションがたまるでしょうしね。相手に期待し過ぎないというのが、スタイルなんです。

■人の生き方に正解などない

Q:終盤に見せる、いちこの笑顔に救われた気がしたのですが、小池さんはあの笑顔にどんな思いを込めたのでしょう?

ちゃんと自分と向き合えた充実感、それまでの生活との決別、これから先の前向きな未来など、いろんなことを感じていました。監督も、最後の笑顔にはこだわっていらしたので、そう言っていただけるとすごくうれしいです。

Q:社会の片隅で生きる人間にスポットを当てたこの作品から、何を感じましたか?

人の生き方に正解などないと思うし、いろんな人生があることをちゃんと認めてあげることで、周りの人たちにも優しい気持ちになれる気がするんです。一生懸命に生きている人々を描いたこの作品を観て、みなさんが「今の自分の生き方が間違っているわけではない」と前向きな気持ちになってくれたらうれしいです。

グラビアやバラエティーなど、今までの経験はすべて演技に生かされているという小池。「役のためなら何でもやります!」とためらうことなく言えるのは、もっと恥ずかしいことだってたくさんやってきたからだと笑い飛ばす。まるで太陽のようなその笑顔と、ポジティブな言葉の数々に、彼女の底知れぬパワーを感じた。学生監督の若き感性で、また新たな一面を引き出された小池が、この先どんな進化を遂げるのか、期待せずにはいられない。

ヘアメイク 栗原里美(air notes)

映画『人の砂漠』は2月27日より新宿バルト9、3月19日より横浜ブルク13ほかにて全国公開

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