シネマトゥデイ

シネマトゥデイ
妻夫木聡、深津絵里
『悪人』
無意識が一番怖いことなのかもしれない
映画『悪人』妻夫木聡、深津絵里 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美

芥川賞作家・吉田修一の最高傑作と言われるベストセラー小説を、映画『フラガール』の李相日監督が映画化した『悪人』。本作は、殺人を犯した土木作業員の男と、彼を愛してしまった女との刹那(せつな)的な逃避行を軸に、人間の善悪をリアルに描いた究極のヒューマンドラマだ。本人たっての希望で孤独な殺人犯・清水祐一を熱演した妻夫木聡と、ヒロインの馬込光代を演じた深津絵里が、作品に込めた熱い思いを語ってくれた。

■衝動的に「この役をやりたい!」と思った

Q:今回の祐一役を自ら志願された妻夫木さんですが、本質的なところで祐一と重なる部分があると感じたのでしょうか?

妻夫木:それもあったのかもしれません。陰と陽で言えば、陽の方が多い人間なんですが、僕の中にも二面性があって、陰の部分が祐一と引かれ合ったのかもしれません。でも、原作を読んだときに「この役をやりたい!」と思ったのは、単純な衝動だったんです。今思い返してみると、まだ見たことのない自分に出会いたかったのかなとか、役者として自分自身を見つめたかったのかなとか、いろいろな思いがありますが、まあ、理由は後付けなので、どうとでも言えるんですよね(笑)。

Q:深津さんは、祐一と出会って劇的な変化を遂げる光代を、どんな女性だと解釈されたのですか?

深津:原作者の吉田修一さんは、女性の裏側にあるものをしっかり見ていて、ただ退屈な田舎に住んでいる地味な女性というのではなく、その裏側をドロドロと掘り起こしていらっしゃるんですよね。すごく繊細かと思うと、すごく図太い部分もあって、生命力にあふれていて。そんな光代を演じるのは、とても面白かったです。

Q:吉田さんご自身が脚本作りに参加されただけに、重厚な原作の世界観が見事に映像化されていましたね。

妻夫木:設定が違うところもあるのに原作を壊すことなく脚本化されていて、まるでマジックのようでした。映画化することで原作が壊れちゃうケースもあるじゃないですか(笑)。「悪人」は群像劇なので、一つ一つの要素がすごく大切なんです。それをきちんと生かしてくれるのは、吉田さんしかいなかったのかもしれませんね。

深津:台本を手にしたときは、原作の素晴らしさを胸に持ちつつも、映画としてこの作品を完成させなければいけないし、どうすればいいんだろう? と途方に暮れてしまう気持ちもありました。ただ、何があっても良いものにしなければ! と思っていました。

■撮影前に妻夫木が深津に謝った?

Q:お二人にとって3度目の共演ですが、心と体を激しくぶつけあう祐一と光代を演じる上で、お互いをよく知っていることはプラスになりましたか?

妻夫木:なりましたねえ。深津さんは、何でも受け入れてくれる大きな度量があって、本当に根性のある女優さんなんです。よく知っている深津さんだからこそ、余計な気を使わないで演じることができましたし、台本に書かれていた以上に祐一と光代の関係を築けたような気がします。

深津:初めてご一緒する方だったら、お互いの心を開くのに時間がかかってしまったと思うんです。でも、何度も共演しているからこそ、瞬間的に一つになる二人を演じ切ることができたのだと思っています。

Q:妻夫木さんは撮影前に「失礼なことをするかもしれない」と深津さんに言ったそうですが……?

妻夫木:今回は精神的にも本気で祐一になり切ろうと思っていたので、現場でムチャをやってしまうだろうという気持ちがあったんです。それを深津さんに拒否されたら乗り切れないだろうなと思ったので、先に謝っておいたんですよね。深津さんの僕への印象が変わったらどうしよう……という不安があったんです(笑)。

深津:わたしは妻夫木さんを信頼していましたから、何をどうされてもいいという気持ちでした(笑)。

妻夫木:本当に感謝しています(笑)。

■ロケが過酷過ぎて、クランクアップで泣けなかった!

Q:本気で誰かと会いたくて出会い系サイトを利用した祐一と光代には共感できましたか?

妻夫木:そこまでして誰かに会いたいという、極限の気持ちなのだということは理解できるような気がします。

深津:そこに本当を求めることの悲しさというか、軽い気持ちではないというのが身につまされます。それしかないのだなと思うと、本当に切ないですよね……。

Q:それほどまでの孤独や焦燥感を表現するのは、とても難しいことだったのでは?

妻夫木:今まで一人で過ごすということがあまりなかったので、役づくりをするために祐一の故郷の漁村に一人で行ってみたんです。そこで町を見下ろしたときに、「ああ、ここから抜け出せないんだな……」という祐一の思いを強く感じたんです。自分で閉じこもっている部分もあるのだけれど、でも、抜け出たい自分もいて。その葛藤(かっとう)の中で生きているのだろうなと思いましたね。

Q:真冬の九州ロケ、特に灯台のシーンは体力的にもかなり大変だったそうですね。

妻夫木:あの灯台は、登山道のような道を30分くらい歩いていかないと到達できない場所だったんです。行きは下りだからまだよかったけど、帰りは芝居をやってクタクタになった後の上り道。あまりにも過酷で、「なんなんだよ」と思いながら歩いていました(笑)。

深津:誰も無駄話をせず、ひたすら黙々と歩いていましたよね(笑)。これを乗り越えないと作品が完成しないんだ! ここに来ないと撮影できないんだ! と自分に言い聞かせていました。

Q:撮影の合間に息抜きをされることもあったんですか?

妻夫木:してないです! 常に祐一を意識していて、一瞬でも途切れたら終わるなと思っていましたし、役のために食事制限もしていたので、本当に苦しかったんです! クランクアップで「やっと終わった!」って叫んだのは初めてですよ(笑)。本当は、撮影が終わるときに泣いてしまうかもと思っていたんですけど、実際は泣くどころじゃなかったですね。「僕は妻夫木だ! 自由だ!」という感じでした(笑)。

■「悪人」は、どんな人の中にもいる

Q:柄本明さんふんする被害者の父親の、「大切な人がおらん人間が多すぎる」という言葉が胸に刺さりました。

妻夫木:それだけ人って無意識なんでしょうね。何に対しても無意識であったり無関心だったりすることが、一番怖いことなのかもしれませんね。

深津:いかに自分勝手に生きているのかということですよね。

Q:自分も悪人なのでは? と考えてしまったりしませんか?

妻夫木:それはありますよね。自分の中にも悪の部分は絶対にあると思います。

深津:ただ、その悪い部分を感じることができるうちはまだ良いと思うんです。妻夫木さんが言ったように、無意識に「全部良い」と思っていることほど怖いことはないですよね。自分に対して客観性を持つことが大切なのかもしれません。

Q:最後になりますが、お二人がこの作品を観る方に伝えたいこととは?

妻夫木:スタッフ、キャストが一丸となって、魂を込めて作った映画です。感じることは人ぞれぞれだと思いますが、何か人の心に残せる作品になったと思っています。ぜひ映画館でご覧になって、自分の中に起こるその何かを感じ取ってほしいです。

深津:いろいろな世代、性別の人間たちの愚かさや弱さを丁寧に描いている作品ですので、ほんのちょっとでも興味を持ってくださった方は、なぜ自分が興味を持ったのか、映画を観た後に考えていただけたらいいなと思います。

狂おしいほどに人とのつながりを求めた祐一と光代の愛と悲しみを、鬼気迫る表情で演じ切った妻夫木と深津。二人がどれほど役に打ち込んでいたのかが、存分に伝わってくるインタビューだった。『悪人』という作品は、とても痛くて切なくて、そして、優しい物語だ。悪人と呼ばれた祐一が最後に見せる笑顔に、あなたは何を感じるだろうか? 本当の悪人とは誰なのだろうか? その答えを、ぜひとも映画館で確認してほしい。

(C) 2010「悪人」製作委員会

映画『悪人』は9月11日より全国公開

[PR]

この記事を共有する

映画アクセスランキング
  • Loading...
»もっとランキングを見る«
スポンサード リンク
スポンサード リンク