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吹石一恵、宮藤官九郎
『ゲゲゲの女房』
ネガティブな言葉は言わないようにしていきたい
映画『ゲゲゲの女房』吹石一恵、宮藤官九郎 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:尾藤能暢

NHK朝の連続テレビ小説でもおなじみとなった水木しげるの妻・布枝の同名自伝を、映画『私は猫ストーカー』の鈴木卓爾監督が映画化した映画『ゲゲゲの女房』。本作は、昭和30年代の東京を舞台に、貧困生活の中で愛をはぐくんだ水木夫婦の軌跡を描いた物語だ。お見合いの5日後に結婚し、ひたすら夫を支えた布枝を演じた吹石一恵と、無名時代のしげるを演じた宮藤官九郎が、初共演で知ったお互いの魅力や、結婚について改めて感じたことなど、息の合ったトークを繰り広げた。

■われながら似ている!(宮藤)

Q:実在されるご夫婦を演じるということで、役づくりも大変だったのでは?

吹石:わたしの場合は、奥様をあまりメディアでお見かけしたことがなかったので、水木さんを演じた宮藤さんよりはハードルが低かったです(笑)。

宮藤:何かをマネする必要がないからね(笑)。

吹石:でも、撮影前は不安でいっぱいで、何度も台本を読み込みました。試写をご覧になった布枝さんが、わたしの手を握って「ありがとう」と言ってくださったときは、あの役をやれて本当に良かったと実感しました。

宮藤:僕は、今の水木さんが30代後半だったころを想像しながらやらせてもらいました。初めは、なんで僕にオファーがきたのかわからなかったんですけど、水木さんが自転車にまたがっている写真と、映画のポスター用に撮った僕の写真を見比べたときに、「われながら似ている!」と思いました(笑)。

Q:宮藤さんは、戦争で左腕を失った水木さんを演じるために、撮影現場での食事も右手だけでされていたそうですね。

宮藤:片腕で生活するということが水木さんにとっては日常なわけですから、それが特別なことのようにならなければいいなと思っていたんです。それをどうやって撮ったらいいのか鈴木監督と相談して、前から撮るときは腕を後ろに回す、後ろから撮るときは前に回すなど、いろいろ試しながらやりました。

吹石:宮藤さんはやせていらっしゃるので、腕の膨らみが多少わかっても、普通の洋服のシワのように見えるんですよ(笑)。ご本人は、「今、腕が前にあるからわかるよね?」と心配されていましたけど、まったくわからなかったんです。

宮藤:確かに、やせていてよかった(笑)。

■まだ3回くらいしか目を合わせてくれないんです(吹石)

Q:夫婦役を演じたお二人が、意外なほどお似合いでした。

吹石:宮藤さんは、とにかく優しい方なんです。夫婦のシーンを撮影しているとき、わたしのせいで監督から何度も「もう1回!」と言われてしまったんですけど、嫌な顔一つせず黙ってお付き合いしていただいて、本当に感謝しています。現場で八方ふさがりになってしまったこともありましたけど、夫役が宮藤さんだったから、最後までやり通すことができたのだと思います。

宮藤:監督の演出が独特で、かなり難しい現場だったんです。もっと薄幸な雰囲気を盛り上げることもできるのに、むしろガマンしろという演出なんですよ。例えば、布枝さんの心の動きや今の気持ちを監督が説明するんですけど、「でも、それは表現しなくていい」と言うんです。その難しい要求に吹石さんがちゃんと応えていたので、すごいなあと思いましたね。

Q:吹石さんご自身も、布枝さんのように芯の強い女性なのでしょうね。

宮藤:かなり強いですよね。しかも、吹石さんは目の力がびっくりするほど強い。ほぼ順撮りだったので、最初は二人のぎこちなさを出すために目線を交わさなくても良かったのですが、だんだん目を合わせるシーンが増えていくにつれ、「負けるな!」と思ってしまいました(笑)。

吹石:今日は数か月ぶりに宮藤さんとお会いしたんですけど、まだ3回くらいしか目を合わせてくれないんです(笑)。映画ではあんなに蜜月なときを過ごしたのに(笑)。

宮藤:なんだか恥ずかしくて……(笑)。でも、僕は吹石さんのように強い人の方が好きなんですよ。「わたし、どうすればいいですか?」と言う弱々しい女性はダメなんです(笑)。

吹石:宮藤さんの奥様も強い方みたいですもんね!

宮藤:(照れ笑い)。強い女性の方が気楽にできるし、仲良くなれるんです。

吹石:わたしも宮藤さんのような方が大好きです! なぜなら、見ているとツンツンしたくなるから(笑)。思わずツンツンしたくなる男性が好きなんです。

宮藤:(再び照れ笑い)。

■あれは難し過ぎますよ!(宮藤)

Q:布枝さんが水木さんにひかれた一番の理由は、何だったと思いますか?

吹石:漫画を描く必死な背中。信じたものに突き進む情熱。そして、言葉は少ないけど、行動の端々に見える不器用な優しさと愛情にひかれたのだと思います。

宮藤:僕が布枝さんとお会いしたときに、「水木が漫画を精魂込めて描いている姿を見て、ついて行こうと思いました」とおっしゃったんです。だから、吹石さんの解釈は正解ですよ(笑)。

吹石:そうなんですか! 間違っていなくて良かったです(笑)。

Q:そんな水木さんご夫婦が、安来節を歌って悲しみを癒やすシーンが印象的でした。

宮藤:あれは難し過ぎますよ! 変拍子なので、全然親しみやすくないんです!

吹石:撮影中は二人の距離感を出すために、なるべく宮藤さんと会話をしないようにしていたんですけど、安来節だけはどちらからともなく「練習しますか!」ということになりました。やはり、その地域の方々に根付いているものなので、付け焼き刃じゃないように歌えればいいなと思ってがんばったんですけど……(苦笑)。

宮藤:普通の音楽の常識があればあるだけ難しい。あれ、監督がわざとやらせたんだと思いますよ。「やれるならやってみろ!」という感じで。安来節を歌うシーンを撮り終えたら楽になりました(笑)。

■わたしだったら出て行くかもしれません(吹石)

Q:お見合いの5日後に結婚したご夫婦を演じて、結婚観に変化はありましたか?

吹石:結構変わった気がします! 布枝さんは、結婚する前に聞いていた条件とは全然違ったのに、あの貧乏生活から逃げ出そうとはしなかった。わたしだったら出て行くかもしれません(笑)。でも、それを耐えたから今のお二人があると思うので、本当に好きになった人が目的のために貧乏をしているのであれば、ついていってもいいのかなと思うようになりました。

宮藤:今の恋愛や結婚って、「この人で本当にいいのか」と思ってしまいがちですけど、それってぜいたくなことですよね。「この人しかいない」となったときに自分がどうなれるのか、というのが大切なんじゃないですかね。

吹石:深いですねえ。

Q:貧しさの中できずなを深めていくご夫婦の姿から、本当の豊かさを教えてもらったような気がします。

吹石:まさに、「目からウロコ」の価値観ですよね。わたしも、目先のことに一喜一憂するのは仕方がないとして、何か信じることがあるのならば、「イヤだ!」とか「しんどい!」といったネガティブな言葉をなるべく言わないようにしていきたいです。

宮藤:貧しさが悲壮感にならなければいいなと思って演じていたんですが、とても温かい映画になりました。あんな貧乏生活って、今の人から見ると全然リアリティーがないじゃないですか。せめてあの生活が楽しく見えてくれたらいい。水木さんたちにとっても、今ではいい思い出になっていると思うので、これから映画を観る方にも希望を感じてもらいたいですね。

吹石が自分のことを話しているとき、しきりに「すみません」とつぶやいていた宮藤。彼女の目力が強過ぎて、ついつい謝りたくなってしまうそうだ。まるで少年のようにシャイな宮藤と、彼を優しく見守る吹石の笑顔が印象的だった。二人の個性が光る本作は、「小豆洗い」「ぬらりひょん」といった妖怪がさりげなく登場し、水木しげるの原画がアニメーションになるなど、ファン垂涎(すいぜん)ものの演出も見どころなので、そちらもお楽しみに!

(C) 水木プロダクション / 『ゲゲゲの女房』製作委員会

映画『ゲゲゲの女房』は11月20日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開予定

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