シネマトゥデイ

渡辺謙&菊地凛子
『シャンハイ』
人の心を刹那(せつな)的にしてしまう魔都・上海
『シャンハイ』渡辺謙&菊地凛子 単独インタビュー

取材・文:柴田メグミ 写真:奥山智明

豪華な多国籍キャストが話題を呼ぶ映画『シャンハイ』。太平洋戦争開戦前夜の魔都を舞台に、愛と陰謀が絡み合う群像劇だ。友人コナーの死の真相を探る米国諜報(ちょうほう)員ポールにジョン・キューザック。彼と恋に落ちるアンナにコン・リー、その夫にチョウ・ユンファがふんしている。そんな米・中・香港出身の大物俳優たちを向こうに回して存在感を放つのが、ポールの動きに目を光らせるタナカ大佐役の渡辺謙と、事件の鍵を握るスミコ役の菊地凛子だ。日本が世界に誇る国際派スターの2人が、役柄への思いや独自の恋愛論を披露した。

■映画はやっぱり、完成するまでわからない

Q:今回の企画の何に最も期待して、参加を決められたのでしょう?

菊地凛子(以下、菊地):脚本を読んで、一筋縄ではいかない濃密なストーリーだなと思いました。共演の方たちがすでに配役されていたので、なかなかご一緒する機会のない方たちとの仕事にも惹(ひ)かれましたね。

渡辺謙(以下、渡辺):最初は、タナカという役になかなか共感ができなくて……。僕はそれほど、女性に執着するタイプじゃありませんから(笑)。ただ、タナカだけじゃなくて、ある種のあらがえない運命を背負った登場人物たちばかりなんです。中でもタナカは環境だったり職務だったりから逃げ出したい。そういう状況で、女性観やロマンチシズムに脱出の活路を見いだしていく。そんなふうに考えていったら、これは本当にパーソナルな物語であって、新しい切り口であることに気付いたんです。これまでは戦争を扱うと、大義とか主義とか主張といったものに重きが置かれていましたけど、今回は人間味あふれる群像劇という点に面白さを感じました。

菊地:謙さんは共感できなかったとおっしゃいましたが、わたしはタナカが好きですね。タナカには日本人らしさを感じますし、こんな男性がいたらいいなと思います。きっと自分の中に、確実にタナカへの思いがあったんでしょうね。脚本に書かれていた以上に、完成した作品にはスミコとタナカの間に密接な関係が生まれていました。映画はやっぱり、完成するまでわからないものですね。

Q:スミコの印象はいかがですか?

菊地:最初から身を落としていたわけではなく、大きな夢や希望を抱いて上海に渡った女性という前提は、しっかり持っていたいと思いました。自分をキャスティングしてくれたのであれば、そういうアプローチをしたいという気持ちがありましたし、監督にもそうお話しさせていただきました。そうでなければ、タナカにもコナーにも、あそこまでコミットするように思えないんですよね。

■タナカ役には、小さな毒針が仕込まれている!?

渡辺:一元的ではないということだよね。男女の思いというのは。もちろん、一対一で純粋に愛し合うことができれば、最高なんだろうけど。一度に2人を別の次元で愛することも、置かれた状況や環境によってはあり得ると思うんだよね。

菊地:ないとは言えないですよね。

渡辺:単なる浮気心かというと、そうじゃない。やっぱり当時の上海という街は、人の心を刹那(せつな)的にしてしまう空気みたいなものがあった気がするんです。それはおそらくタナカにもいえることで、抱えている職務の重さや疑問への裏返しとして、愛に向かっていく。それぞれのキャラクターがひとつの思いを貫き通すというよりも、あっちこっちピンボールのように転がされる時代背景だったと思います。

Q:タナカのキャラクターは、これまでの外国映画で描かれてきた日本軍人のステレオタイプとは異なりますよね。それは渡辺さんが出演を決める過程や現場で、意見を出された結果なのでしょうか?

渡辺:完成した作品と同じ着地点は、最初からありました。ただ、そこへ至るまでのプロセスは、非常に冷酷で揺るがない人物として、タナカは描かれていましたね。だから(観客に)戸惑いだけを残してしまわないよう、彼の感情のせきが切れるまでの間に、目線の送りだったりフレームの中のポジショニングだったりに、彼が抱える闇や苦悩を忍ばせました。刺されたかどうかわからないぐらいの本当に小さな毒針を、仕込んでおきたいなと思って演じたんです。

■男と女は、まったく違う生き物

Q:演じる上で、ほかに意識したことや大切にしたことはありますか?

菊地:わたしは臆病なので、とにかく集中して演じようと思っていました。準備やリサーチも大切ですが、頭でっかちになっちゃうと、現場でほかの役者さんと共鳴し合うことが難しい。柔軟に対応できるように、余白を残しながら現場に挑むスタンスですね。

渡辺:もうひとつのタナカの輪郭として、海軍出身のエリートということがあります。エリートたちはおそらく留学しているので、タナカのキャラクターを考えた場合、留学先はアメリカやドイツではなくイギリスだろうと。彼が話す英語を「アメリカ英語ではなく、クイーンズイングリッシュに」と監督に提案しました。幸い、撮影現場がロンドンになりましたから、見事なブリティッシュのダイアログコーチについていただいて、ある意味、イチから英語をたたきこんだ気がします。タナカが語る哲学的なセリフも、アメリカ英語よりもとてもやりやすかったですね。感情を作ろうとする以前に、言葉によってうまく感情が引っ張られていく。さすがにシェイクスピアの国だなと思いました。

Q:タナカの恋愛哲学のひとつに、「2度目の恋は危険だ」というのがありますが、お二人にとって2度目の恋とは?

菊地:2度目って……。

渡辺:(自分自身の恋愛体験を)思い出すな、思い出すな、一般論でいこう。

菊地:(笑)何度目だろうと、恋はいつでも1度目と同じです。

渡辺:そこですよ。だから女性は強いんだ。でも男は(過去の恋を)忘れられなくて、その分まで引きずってしまう。2度目の意味が全然違うんです。

菊地:引きずられて恋愛したら、たまらないですよね。「まっさらにして来い!」と言いたくなってしまいます。

渡辺:女性の場合はちゃんと過去の恋を清算できるから、いつでも1度目の恋なわけですね。逆に男は1度目、2度目と捨てきれないで、思いが倍増していく。

菊地:そこが男性の魅力でもあるんでしょうね。

■命を落としても、愛を勝ち得た者は勝者?

Q:スミコやアンナのように、したたかなようでもろい女性をどう思いますか?

渡辺:「最後に女性が勝つ」という点では、僕もタナカとまったく同意見です。ただし、果たして何を勝者の定義とするかですよね。たとえ命を落としても、愛を勝ち得た者は勝者なのかもしれないし、単純に幸福な人生を歩んでいる者が勝者とは限らない、こんな時代ではね。

Q:渡辺さんは、『SAYURI』で共演したチャン・ツィイーが細い体でよく食べることに感心されていましたが、今回の共演者に驚かされたようなエピソードはありますか?

渡辺:驚いたわけではありませんが、ジョン・キューザックは完ぺきなベジタリアンではないものの、食事にかなり気を使っていましたね。だけど、僕が持参した鳥そぼろおにぎりをあげたら、とても喜んでくれて。

菊地:おいしかったです!

Q:レオナルド・ディカプリオも食べたといわれる、渡辺さんお手製のおにぎりですか?

渡辺:『インセプション』のときには、ほとんど塩むすびでした。ただ『シャンハイ』のときは、僕の中では混ぜご飯がブームだったから。

菊地:マイブームだったんですよね?

渡辺:ひじき入りご飯のおにぎりとか。

菊地:「お疲れさま」とか「元気を出して」とか、一筆添えられたおにぎりを謙さんから現場でいただくなんて、うれしいですよね。しかも、すごく達筆なんです。

茶系のシックなスーツを着こなす渡辺と、イヴ・サンローランの鮮やかな青いワンピースをまとい危ういオーラを発する菊地。インタビューの合間に、渡辺は冗談を交えながら場を和ませ、菊地はそんな渡辺にぴったり息を合わせていく。その貫禄と瞬発力に、海外での成功の秘けつを垣間見た気がする。2人の魅力が焼きつけられた『シャンハイ』は、大人による大人のためのデートムービーだといえるかもしれない。

映画『シャンハイ』は公開中

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