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水野美紀
『恋の罪』
女性に夢を抱いている人にこそ、この映画を観てほしい
『恋の罪』水野美紀 単独インタビュー

取材・文:柴田メグミ 写真:吉岡希鼓斗

日本を騒然とさせた、渋谷区円山町のラブホテル街で1990年代に起きた殺人事件。園子温監督の新作『恋の罪』は、そのセンセーショナルな事件からインスパイアされた、園流オリジナルの女性賛歌だ。監督いわく「“脂ギッシュな男映画”の『冷たい熱帯魚』」に対して、「大人の大胆な女性映画」のヒロインたちは、事件の真相に迫るナビゲーター役を担う殺人課の刑事、流行作家の貞淑な妻、そして大学の助教授。充実した仕事と幸せな家庭を持ちながら、別の顔を見せる刑事の和子役に体当たりで挑んだ水野美紀に話を聞いた。

■女性はみんな別の顔を持っている!?

Q:以前から園子温監督の作品のファンだったそうですが、どんな点に魅力を感じていたのでしょう? 特に好きな作品も教えていただけますか?

『自転車吐息』とか『部屋 THE ROOM』とか自主制作時代からほぼ観ていますが、特に好きなのは『紀子の食卓』ですね。どの作品にも園さんのカラーというのが強烈にあって、すごく振り切った表現をされますけど、どこか詩的に感じたり、人間の本質を突いていたり。大胆さと繊細さの同居している感じが魅力です。

Q:園監督は、「脱げないなら女優なんてやめてしまえ」とも公言しています。『恋の罪』でも体当たり演技が要求されたわけですが、出演に迷いはありませんでしたか?

そうですね……でも、園監督の作品世界に入りたいという気持ちが、強かったです。まだほかのキャストの方が決まっていない段階で脚本を読ませていただきましたが、すごく面白くて刺激的で、ぜひやりたいなと思いました。

Q:和子というキャラクターをどうとらえ、どう演じようと心掛けましたか?

刑事という仕事は特殊かもしれないですけど、それ以外は普通の女性だと思います。女性なら誰しも場所や相手に応じて、無意識のうちにお芝居をするものですから。演じる上で心掛けたのは、刑事の部分がなるべくウソにならないようにということですね。例えば現場検証をするシーンでは、アドバイザーとして参加された元刑事さんに現場でアドバイスをいただいたり、取材をしたり。事件の第一報を受けたとき、どういう気持ちで現場検証に向かうのかなど、刑事さんの心の中や頭の中で起こっていることを、いろいろ教えていただきながら演じました。

■場の空気を切り取る園演出

Q:園監督は、けいこやリハーサルが厳しいことでも知られていますよね。

わたしが演じた和子は、神楽坂(恵)さんや冨樫(真)さんと絡むシーンがなく時間軸が異なるので、リハーサルも別々だったんです。2回くらい本読みしたら休憩して、「じゃあ、ビールを飲みに行きましょうか」となり……(笑)。特にハードなけいこはなかったです。和子役についても園さんからは「脚本を読めばわかるでしょ、自分で考えなさい」という感じでしたね。

Q:仕事相手と飲む機会というのは、やはり大切ですか?

わたしの中ではすごく大事ですね。演劇仲間でもそうですが、飲みの場じゃないと出てこない話というのはたくさんあります。お互いの距離が近くなるので。

Q:飲みの場を経て園監督の現場に初参加されたわけですが、率直にいかがでしたか?

園組の現場はすごくエネルギー値が高くて、すべてにおいてスピードが速いんです。とてもお芝居しやすい環境を作っていただいたので、集中できました。具体的に言うと、カットごとに撮らないで、ほぼ長回しでシーン全部を流れで撮るような。お芝居が中断されない分、やりやすいですね。現場でもリハーサルを何度かやるんですけど、役者の自由に演じさせてくれて、こちらでいろいろ考えてきた芝居を、試させていただく時間もありました。そういうのがすごく良かったです。

Q:役者さんの芝居で感動させたいという演出が、『恋の罪』でも存分に発揮されていますよね。

役者さんの表情やセリフだけでなく、空気を切り取ろうとされているなとすごく感じました。役者同士の会話から生まれる、「場の空気」みたいなものを、とても重視されているようです。

■ポイントは、4番目のヒロイン?

Q:『恋の罪』には3人のヒロインが登場しますが、水野さんはほかの2人と絡むシーンはないですよね。そういう場合、2人を意識するものですか? それともまったく意識しないものでしょうか?

台本では読んでいるシーンが、いったいどんなふうになっているのか自分では見られないので、それはやはり気になっていましたね。現場でメイクさんに「あっちの撮影どうなっているの?」と様子を聞くこともありました。

Q:完成作をご覧になった印象はいかがでしたか?

圧倒されましたね。現場でシーンが足されたり削られたり、変更もけっこうあるんですよ。自分が出ていないシーンはわたしなりに、台本を読んで想像を膨らませていたんですけど。園さんの演出は、自分の想像の枠をはるかに超えていて、とにかく圧倒されっぱなしでした。

Q:水野さんお薦めの見どころを教えていただけますか?

わたしの一番のポイントは、冨樫さん演じる美津子のお母さんですね。大方(斐紗子)さんが出てきてからのシーンがすごく好きですし、作品の大きなポイントだと思います。お芝居もとてもステキでしたが、カットの声が掛かった途端に優しくて柔らかい雰囲気になるので、そのギャップが面白かったです。

Q:確かに大方さんは、4番目のヒロインと言いたい役柄でしたね。ちなみに、園監督にはギャップを感じませんでしたか? 男目線を封印して脚本を書き上げたとコメントされていますが。

園さんは本当に繊細な方だと思います。女性に対して、見抜いている部分や冷めて見ている部分があって、リアルな女性をちゃんと容赦なく描いているので。きっと監督自身の中に、女性的な感覚というのが多分にあるんだろうなという気がします。

■作品をイチから作る面白さに目覚めた30代

Q:女性観といえば、和子が後輩の男性刑事を「女のことをまるでわかっていないな」と言いたげに見つめる、水野さんの表情が印象的でした。普段、この人は女性のことわかっていないなと思う瞬間はありますか?

いっぱいありますよ(笑)。やっぱり女性に対してファンタジックな夢を抱いている人でしょうか。その人の想像の中だけの「そんな女、いないよ」というリアリティーのない女性観を語られると、この人、きっと苦労するだろうなと感じます(笑)。自分の理想にすべて当てはまる女性がいると想像を膨らませるんですね。料理がうまくて、常に3歩下がって……というような。もちろん夢を持つのは大事ですが、そういう人にこそ、この映画を観てほしいですね。

Q:あるテレビ番組で、30代になってピンク色が好きになったとおっしゃっていましたが、年齢を重ねて仕事に対する姿勢も変わりましたか?

すごく楽しくなってきました。文章を書いたり演劇をプロデュースしたり。ゼロからイチを作る仕事にも手を出して、ちょうど今、芝居(来年1月に上演される「ネガヒーロー」)の脚本も書いているんですけど、相当面白いものになる気がします。役者はだいたい土台が出来上がっているものに呼ばれて、そのパーツの一部になるのが仕事ですよね。でも作品をイチから作る面白さに目覚めた結果、役者として参加する感覚もまたちょっと変わってきました。30代になって自分のことがわかってきたと同時に、視野がちょっと広がってくるので、全体のことを考えながら取り組めて、共同作業が楽しくなってきました。

美しく伸びた長い脚を強調する、ブラックのミニドレスを大人キュートに着こなす水野。言葉を選びながらも質問に真っすぐ答えるその姿からは、自身が選択してきた道のりへの自信がうかがえるようだ。映画に舞台に活躍の場を広げる彼女が、愛人との関係を断てない女性の渇きを、生々しくかつ繊細に見せる『恋の罪』。男目線のヒロイン映画には飽き飽きという女性たちはもちろん、リアルな女性像を堪能したい諸兄も必見の官能エンターテインメントだ。

映画『恋の罪』はテアトル新宿ほかにて全国公開中

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