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中谷美紀
『源氏物語 千年の謎』
“賢すぎた”紫式部が選んだ道
『源氏物語 千年の謎』中谷美紀 単独インタビュー

取材・文:高山亜紀 写真:舞山秀一

誕生から千年以上。いまや世界20か国以上の言語に翻訳され、海を越えて多くの人々を魅了し続けている「源氏物語」だが、その詳細はいまだ明らかになっていない。その誕生の謎をひもときながら、光源氏のめくるめく愛の世界を描いたのが、『源氏物語 千年の謎』である。藤原道長に命じられ、「源氏物語」を書くことになる紫式部。彼女は道長への許されぬ恋をひた隠し、内に秘めた思いを物語へと託していく。果たして、式部はどんな女性だったのか? なぜ、「源氏物語」に人は魅せられてしまうのか? 式部を演じた中谷美紀が語った。

■謎めいた紫式部を演じるにあたって

Q:「源氏物語」で紫式部役をオファーされたときのお気持ちを教えてください。

3年前の2008年がちょうど「源氏物語千年紀」にあたり、美術館でさまざまな展示があったころにお話をいただいたので、「大変ありがたいな」と思ったのと同時に「わたしで務まるのだろうか」と思ったのを覚えています。

Q:紫式部に対して、何かイメージを持っていましたか。

千年前の女性ですので、残念ながら、紫式部にお会いすることもできないですし、本当はどんな女性なのかはわかりません。ましてや、「源氏物語」という物語自体、果たして本当に紫式部によって書かれたのかということすら、定かでない。最後の方はひょっとするといろいろな人が書き加えたのではないかともいわれています。そんなふうにたくさんの謎があるところが人を魅了してやまないのだろうと思います。

Q:本当にミステリアスですよね。

それでいて、実際に「源氏物語」を原文で読んだことがある人がどれだけいるんだろうと思うんです。残念ながら、わたしも現代語訳でしか読んだことがないのですが、解釈をめぐってはいろいろなお考えの方がいらっしゃいますよね? 今回の映画では、なぜ紫式部がこの物語を書くことになったのかということをエンターテインメントとして物語っていますから、謎の一端に触れていただければと思っています。

■紫式部の不幸は賢すぎることだった!?

Q:その謎多き女性、式部を演じてみて、感じたことは?

この時代の女性は恐らく、自分の感情をあからさまに表情に出したりすることは、はばかられたかと思うんです。扇で顔を隠したり、御簾(みす)越しに会話をしたり、あるいは和歌に自分の気持ちを詠んで伝えたり……。決して表には出さない、秘めたる感情が、むしろ重要で、たおやかに見える表情から、どれだけお互いの心を読み取れるかというのがある種、ゲームのような心理戦だった。そういう意味では本当に面白い時代だと思います。

Q:東山紀之さん演じる藤原道長との心理戦もスリリングでした。

紫式部の不幸は賢すぎることだったのかなと思います。けれど、自分の聡明さを人にひけらかすようなことはせず、漢字の「壱」すら、読めないふりをしていたとか。ですから、道長のような男性に対しても、物語でのみ自分の気持ちをアピールするにとどまったのでしょう。なりふり構わず、自分の感情をさらけ出したり、愛を求めたりすることができたら、もう少し、違ったのかもしれません。

Q:彼女の聡明さで物語が生まれたわけですが、女性としての幸せを考えるとまた違いますね。

幸か不幸か、わかりませんよね。物語を紡ぐだけの感情を持っていたという意味では、幸せだったかもしれないですから、作家としては恵まれていたのかもしれません。ですが、一人の女性としては不幸だったかもしれないなって思います。

■衣装の一枚一枚にもこだわりが

Q:雅(みやび)な宮中生活を描くにふさわしい衣装の数々が印象的でしたが、所作など、苦労なさった点は?

実は装束は大変重いのですけど、現代の着物に比べたら、幅の広い帯を締めているわけでもありませんし、意外と楽と言えば楽だったんです。足元も袴(はかま)で、必ず正座をしていなければならないわけでもなかったので。なので、見た目ほど大変ではないんですよ。重さはどうしてもありますし、髪の毛もかつらを着けますとやはり重いですけど、でも、それぐらいでした。

Q:色合いなどとてもすてきでしたが、ご自分で選ばれたのですか?

極力、柄は古典的なものをお願いいたしました。有職(ゆうそく)文様(平安時代より用いられる伝統的な文様)や唐織(中国から伝来した豪華絢爛な絹織物)などですね。一つだけ、モダンな藤の花の袿(うちぎ・ひとえの上に重ねた上着)もありましたけれど、あとは割と古典的な柄にしていただきました。それもすべて、衣装デザイナーの宮本まさ江さんがテキスタイル(布地、織物のデザイン)から作ってくださって、それは贅沢(ぜいたく)な衣装でした。

Q:古典的な柄にこだわった理由は特にありますか?

クラシックなものとモダンなものが好きなんです。アバンギャルドにするよりは、クラシックを選んだ方がモダンに見えることもあるので。なので、クラシックなもの、古典柄に魅(ひ)かれてしまいますね。

■源氏物語が人々に魅了される理由

Q:映画では、現実の世界と物語の世界が交錯しますが、現実の世界と物語の世界、別々に撮影したのでしょうか?

別々の撮影でしたので、お会いできなかった方もいます。

Q:完成した作品を見ての感想は? 式部が紡いできた物語を見て、いかがでしたか?

生田斗真さんが青海波(せいがいは・雅楽の演目の一つ)を舞う姿が本当に美しくて、あの場面を観ただけで、この作品にかかわれてよかったと思いました。あとはやはり、光源氏を取り巻く女性たちが皆さん、魅力的だったので、光源氏が恋に落ちる理由もよくわかります。それから、輝かしくて誰もがうらやむような貴公子であった光源氏が、その陰にとても大きな闇を抱えていた。その悲しさがしっかりと描かれていたので、すてきな映画ができたと感じています。

Q:千年前に書かれた物語なのに、なぜ、「源氏物語」はいまもなお世界中の人を魅了するのでしょう。

この作品って、世の無常を説いているような気がするんです。光源氏も一時期、明石に追いやられたりして、権力も愛もいつまでも続かないと知らされます。これだけ華やかで絢爛(けんらん)豪華なんですけど、そこには常に一抹のむなしさが付きまとっている。物語では、愛と憎しみ、善と悪もそうですが、世の中に存在している陰と陽すべてを表している気がしています。舞台となって描かれているのは宮中の雅(みやび)な世界ですが、身分にかかわらず、この世の中そのものがそんなふうに表裏一体なのではないでしょうか?

聡明な紫式部を演じるにふさわしく、とても美しい日本語を話す中谷美紀。エッセイも書く彼女は、きっと普段から、言葉を大切にしているのだろう。知性や品格を感じさせる物腰も決して付け焼き刃ではなく、「紫式部をお手本にするどころか、彼女自身が紫式部のよう」とすら、思うほどだった。優雅でおっとりと見えながら、実は男性と渡り合える知性と才能を持っていた紫式部。取材後は彼女と式部のパーフェクトなキャスティング、幸せな出会いに改めて感謝したくなった。

(C) 2011 「源氏物語 千年の謎」製作委員会

映画『源氏物語 千年の謎』は12月10日より全国公開

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