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渡辺謙&江口洋介
『はやぶさ 遥かなる帰還』
「はやぶさ」は研究者たちを映す鏡
映画『はやぶさ 遥かなる帰還』渡辺謙&江口洋介 単独インタビュー

取材・文:森田真帆 写真:奥山智明

60億キロに及ぶ宇宙航海を経て、小惑星「イトカワ」の微粒子を地球に持ち帰るという人類初の偉業を成し遂げた小惑星探査機「はやぶさ」。そのプロジェクトにかかわった男たちの真実の物語を、JAXAの全面協力の下、瀧本智行監督が『はやぶさ 遥かなる帰還』として映画化した。制作から公開まで、プロジェクトマネージャーという役割を担った主演の渡辺謙、そしてイオンエンジン担当のJAXA教授・藤中仁志を演じた江口洋介が、「はやぶさ」への熱き思いを語った。

■プロジェクトマネージャーとしての渡辺謙

Q:渡辺さんはプロジェクトマネージャーとして、どのような思いで撮影現場に立たれていたのでしょうか?

渡辺:JAXAの方々の人間関係や距離感は、撮影現場に入ってからではなく、その前に作り上げておきたいと思っていました。この映画に出演していただいた役者の皆さんは、俳優としてプロフェッショナルで、映画への思いも強い。だからこそ、全員が気持ちよく最大限の力を出せるような現場にしたかった。 例えば、若い役者さんが臆してしまったり、役者と役者の間に温度差があったりすると、それがスクリーンに出てしまう。そういったことがないよう、現場の温度を高める意識をしていました。

Q:共演者の江口さんから見た、プロジェクトマネージャーとしての渡辺さんの印象はいかがでしたか?

江口:渡辺さんが演じた山口教授のモデルとなったJAXAの川口(淳一郎)さんは、「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーであり、チームを牽引(けんいん)した方です。技術者たちがベストを尽くせば、最高の結果が生まれる。そういった面でも、役柄のモデルとなった川口教授と、現場での渡辺さんは、シンクロしていたと思います。撮影現場では、自ら進んでキャストやスタッフとコミュニケーションを取ってくれるし、全員のことをちゃんと見ている。映画を一から立ち上げていく渡辺さんの姿を、間近で拝見させていただきました。

■JAXAの技術者たちの“熱さ”の原動力とは?

Q:演じられた役柄には、それぞれモデルとなった人物がいらっしゃいます。通常の役づくりとは違った苦労もあったのではないでしょうか?

渡辺:演じる役柄にモデルとなる方がいらっしゃる場合、その人が精神的に弱っているとき、苦しいときどんなだろうかということが、役づくりのポイントになってくると思うんです。でも、川口さんはきちっと強い芯を持っていらっしゃって、その弱さを見いだすのが、とても難しかった。でも、「はやぶさ」が帰還するとき、普段は着ないJAXAのジャンパーを着てウロウロし、最後は一人研究室にこもられたというエピソードを伺って、「これだ!」と川口さんの心情を理解できた気がしたんです。そうして一歩ずつ近づくことができたと思っています。

江口:僕は、残念ながら役柄のモデルとなった國中(均)さんにはお会いすることができなかったんです。でも、スタッフの方から國中さんのお話を伺って、自分の中で藤中という役柄のイメージを作り上げることができました。オーストラリアではやぶさの小さなカプセルが推測していた地点から数百メートル以内で見つかったとき、「ほら、おれの計算どおりだ!」とおっしゃっていたそうなんです。実際にウーメラ砂漠にロケで行ったとき、改めて國中さんの偉大さを実感しましたよ。「よくこんな広いところで、小さなカプセルを見つけられたな……」って。

Q:技術者たちの情熱がスクリーンを通して伝わってきましたが、彼らの情熱の原動力は何だと思いますか?

渡辺:皆さん、本当に自分の仕事が好きなんだと思います。だからこそ、つらいことがあっても乗り越えていける。自分の仕事に誇りを持っているからこそ、ぶつかり合ったときにも自分の意見を主張できる。ベースにあるのは、「おれは、これがやりたいんだ!」という気持ちなんだと思います。そういう人たちが集まったからこそ、「はやぶさ」プロジェクトは成功したんだと思います。

江口:今、“ぶつかり合ったとき”というお話がありましたが、僕は共にイオンエンジンを開発してきた技術者であり、企業の人間でもある森内(吉岡秀隆)と真っ向から対立するシーンを演じました。そのシーンは、すごく印象に残っているんですよね。プライベートでも仲の良い二人が、本気でぶつかり合う姿に、技術者たちの思いを感じることができました。

■ハリウッド映画にはできない、日本人の静かなガッツポーズ

Q:「はやぶさ」が見つかったときも、帰還したときも、JAXAの皆さんはすごく冷静ですよね? ハリウッド映画であれば、「イエーイ!」とガッツポーズをするところで、静かに喜びをかみしめている。そこがまたかっこよくもありました。

渡辺:本当に誰も大騒ぎして喜んだりはしていなかったそうなんですよ。タッチダウン成功だったり、「はやぶさが見つかりました」ってとき、管制室で歓声が上がったり、拍手が起きたりしたそうなんだけど、やっぱり「イエーイ!」ではないんだよね(笑)。「おー! パチパチ」と熱く、静かに喜びをかみしめる。それがすごく日本的だと思いました。

江口:僕は、そんな喜びのシーンが、皆さんにとって長い道のりの通過地点だったんじゃないかと思うんです。静かなガッツポーズになったのは、「まだまだ続く」「ここからがまたスタートだ」という気持ちがあるからこそなのではないかと。

渡辺:確かにそうですね。そんな静かなガッツポーズからも、川口さんが、はやぶさが帰還したとき、ご自身の研究室にこもられていたというのが、わかる気がします。

■もう一人の主人公「はやぶさ」

Q:研究者たちの熱いドラマと、VFXを駆使して再現された「はやぶさ」が航海する美しい宇宙。その二つがつながり、一つの作品が完成しました。出来上がった映画をご覧になったときのお気持ちを聞かせてください。

渡辺:撮影中には宇宙のハヤブサは想像するしかなかった。完成した映画を観て、「はやぶさ」がスクリーンに映し出されたとき、初めて僕たちが役者として演じたことが、「はやぶさ」と交信したと感じたんです。僕たちが演じた研究者たちの7年の間の苦しみや喜びは、はやぶさが旅立ち、そして燃え尽きて帰ってくる姿が映し出されて初めて成立した。「ああ、はやぶさは研究者たちを映す鏡なんだな」と思いました。

江口:確かに、「はやぶさ」が映し出されて初めてわかる部分はありましたね。この映画の舞台は、閉鎖されたJAXAの小さな研究室と、広大な宇宙。極端ですが、この二つが映し出されることで、技術者たちの無限への挑戦を表現することができたのだと思います。

渡辺:不思議な感覚なんですよ。われわれ役者はもちろん、日本中、世界中の人々が「はやぶさ」の結末を知っているわけです。でも、なぜかドキドキしてしまう。引き付けられてしまう。そこがこの映画の不思議なところなんだと思います。

江口:「はやぶさ」プロジェクトの裏側では、実際にこういうことが起こっていたんだということを、映画を通して、改めて皆さんに知っていただきたいです。

「はやぶさは、大切な主人公」と語る渡辺と江口からは、「はやぶさ」への熱い思いがひしひしと伝わってきた。「はやぶさにかかわると、みんな夢中になってしまう」。映画に携わった人からは、いつしかそんな声も上がっていたという。「はやぶさ」プロジェクトに携わった研究者たちに勝るとも劣らない情熱で作り上げられた映画『はやぶさ 遥かなる帰還』。小惑星探査機「はやぶさ」の偉業は、この映画が後世にも伝えていってくれることだろう。

映画『はやぶさ 遥かなる帰還』は2月11日より全国公開

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