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岩井俊二監督
『ヴァンパイア』
何に対しても、ハマって、極めていくのが好きなんです
映画『ヴァンパイア』岩井俊二監督 単独インタビュー

取材・文:編集部・森田真帆 写真:高野広美

映画『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』など、独特な世界観を映像で表現し続けてきた岩井俊二監督が、オールカナダロケを敢行し、全編英語で撮影した最新作『ヴァンパイア』。母親と暮らす高校教師が、自殺サイトを利用して少女たちの血を求めるうちに真実の愛を見つけていく姿を描く異色作。8年ぶりの長編劇映画となる本作で、脚本・監督・音楽・撮影・編集・プロデュースと1人6役を務めた岩井監督が作品へのこだわりを語った。

■キャラクターの由来は、学生時代の自主映画!

Q:主人公のサイモンはこれまで見たことのないような、一風変わった殺人者でした。サイモンのキャラクターはどのように作られたのですか?

僕の作品にはあまり頭のいい人や利口な人が出てこないんです。完璧ではなくて、どこかダメなやつが多くて。きっと自分が投影されているんだと思います……子どもじみたところもありますし、ダメですから(笑)。

Q:蒼井優さんが演じたミナという日本人の女の子も、とても印象的ですが、あのキャラクターはどのように生まれたんですか?

今になれば大仰な名前だな、と思うんですが、学生時代に「ミナ伝説」というタイトルの映画を作ったんです。ミナっていうのは吸血鬼に見初められたヒロインの名前。夜な夜な血を吸いにくる吸血鬼に身をていして血を吸わせながら、最後は朝日に当てて殺すという。そのタイトルにあやかって、本作で蒼井優が演じているキャラクターの名前を「ミナ」にしたんですよ。

Q:その頃からヴァンパイアに興味があったんですか?

学生なりに頑張って調べたりしていました。そのベースがあったから、今の『ヴァンパイア』につながったんだと思います。学生時代にあの映画を作っていなかったら、この発想は生まれていなかったんじゃないかなって思いますね。

■実際に起きてしまった殺人事件

Q:「血を手に入れるために自殺サイトを利用する」というアイデアは、どのようにして生まれたのですか?

殺人事件というのは、被害者と加害者が絶対的にいるわけですよね。でももし彼らの間に需要と供給関係が成り立っていたら……と考えたんです。例えば死んでいった女の子が「彼のことを捕まえないで」と訴えるビデオが残っていたり、なんとも奇妙な人間関係を描けたら面白いんじゃないか、と思ったのが始まりでした。でも小説の執筆中に僕が考えていたことを実際にやった人が出てきてしまって、一度企画が白紙になったんです。

Q:なんだか複雑な気持ちになりますね。

僕はエンターテインメントとして「まだやったことのなかった殺人」を描くことが仕事で……。それがいいことなのか悪いことなのか、因果な仕事です。言い訳をさせてもらえるなら、表現者としては、普段人が気付かないような隠れた人間性を描きたい、という衝動がある限り、こういう題材を扱わざるを得ないわけです。でも現実の事件が追いついてきてしまう、ということがあると、自分がどこか危険なところに迷い込んでいるんじゃないかと思ってしまうこともあります。

Q:作中に登場するレンフィールドには、本物の殺人鬼のような異常性を感じました。

レンフィールドというキャラクターには、実際の殺人犯のような猟奇的なものを全て担ってもらいました。サイモンは、彼のような猟奇性を持たず、もっと弱い。そういう違いを出すために、レンフィールドの殺人シーンはなるべく残酷に描くようにしました。実はレンフィールドという名前は、先ほどお話した『ミナ伝説』という学生時代に撮ったヴァンパイア映画での敵役の名前だったんです。自分ではすっかり忘れていたんですが、先日その作品を観たときに突然レンフィールドというキャラクターが出てきてびっくりしました(笑)。

■プロ意識の高いカナダのスタッフたち

Q:今回はオールカナダロケ、それもスタッフも俳優も海外の方で撮影をされたわけですが、あちらの現場はいかがでしたか?

向こうは映画作りのシステムが非常にしっかりしていて、撮影方法もこれまで自分がやってきた方法によく似ているので、すごくやりやすかったですね。向こうはスタッフもオーディションで決めるんです。だからスタッフは「自分たちは選ばれてここにいる」という意識が高い印象を受けました。それにみんな明るくて元気で、じとっとした人は全然いなかったですね。

Q:途中で画面が90度縦にひっくり返って見えたり、岩井監督がさまざまなことに挑戦しているような印象を受けました。

縦の方がきれいな画角ってあるんですけど、映画では全部横にしなきゃいけない。それがストレスで。今回はスチルのカメラを使っていたんですが、「これ縦の方がきれいだから、縦にしちゃえ」とかそんな感じ(笑)。でもスクリーンに移したとき、基本は横向きだから、観客には顔を横向きにして観てもらわなきゃならないんですけどね(笑)。

■岩井監督、ピアノを習ったことは一度もなし!

Q:実は、6役以外にもストーリーボード(絵コンテ)を描き、ポスターなどのビジュアルデザインをし、本作の原作も執筆した岩井さんですが、そのマルチな才能はどこから生まれたんですか?

僕は何に対してもハマって極めていくのが好きなタイプなんですよね。今回のストーリーボードも最終的にはアニメーションになったのですが、もともとは一枚ずつスケッチを描いていたところから始まって。学生の頃、美術部だったこともあって夢中になって描いていくうちに、ちょっと動かしてみたくなって、セリフも入れたくなって、海外の声優さんにお願いして全部セリフをつけてもらって、最終的に音楽も入れて……という感じだったので(笑)。

Q:アニメとしても観れそうですね。音楽もご自身で作られたんですよね。

そうです。今回の作品は、ピアノやバイオリン、チェロという一番シンプルな楽器で表現しました。シンプルというよりも、それくらいしかできんっていう感じなんですけどね(笑)。曲によっては1時間くらいでできることもありました。今回はずいぶんたくさん曲を作って、合わなくて使わなかった曲もたくさんありました。

Q:ピアノはいつから始めたんですか?

実はピアノもハマったものの一つで、僕は大学時代に初めて友人にバイエルを教えてもらって、それ以来自由に弾いています。だからちゃんと習ったことがないんですよ(笑)。でも、ちゃんと習っていない分、逆に縛りがなくて遊びで弾いているうちに「この音面白いな」なんて弾きながら作っていくんです。作曲は一番楽しい作業かもしれませんね。

学生時代に撮影したヴァンパイア映画も、撮影・監督・主演・美術とすべて自分で作り上げたという岩井監督。オリジナルへのこだわりは、当時から育まれたようだ。「自分の力でやってみたい」と考えると、その道を極め、見事に自身の世界観を表現してみせる。それも、どれも中途半端ではなく完璧に。全てにおいて監督自身が徹底的にこだわって作り上げた本作を観て、岩井俊二の世界を存分に味わってもらいたい。

映画『ヴァンパイア』は全国にて公開中

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