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草刈民代&役所広司&周防正行監督
『終の信託』
16年たって変わったこと、変わらないこと
映画『終の信託』草刈民代&役所広司&周防正行監督 単独インタビュー

取材・文:編集部 森田真帆 写真:奥山智明

現役の法律家でもある朔立木の同名小説を実写化した『終の信託(ついのしんたく)』。映画『それでもボクはやってない』の周防正行監督が描く、純粋な絆で結ばれた女医と重度ぜんそく患者の究極のラブストーリーだ。数奇な運命に翻弄される女医・折井綾乃を演じるのは草刈民代、重度のぜんそく患者・江木に役所広司。さまざまな映画賞を総なめにし、ハリウッドでリメイクもされた映画『Shall we ダンス?』以来16年ぶりにタッグを組んだ三人が、本作の撮影を振り返った。

■妻・草刈民代への周防監督の思いとは?

Q:16年ぶりのタッグを組むことになったきっかけは、なんだったのでしょうか?

周防正行監督(以下、周防監督):『Shall we ダンス?』で草刈が役所さんと初共演したときはバレリーナと役者という関係でした。草刈がバレリーナを辞めて女優としてやっていくと決意してから1本目の映画は、自分が監督しなければならないと思っていたし、彼女の女優としてのスタートを役所さんに見届けてほしいと思ったのがきっかけです。

役所広司(以下、役所):16年前には、バレリーナだった草刈さんが「ちょっとだけだったら、お芝居して差し上げましょうか?」っていう感じだったんです(笑)。でもそれから時が過ぎ、今回は女優としての草刈さんと共演させていただきました。草刈さんは、もともとダンサーとして、とても感性豊かな方なので、感情を声に出して表現する演技も素晴らしい。表現力というのは、踊りも演技も近いものだということを感じました。

草刈民代(以下、草刈):わたしは映画の現場は周防組しか知らないのですが、三人一緒の現場は自分のやらなければいけないことだけに集中してやれるような雰囲気があるので、とてもやりやすかったです。役所さんとの最初のシーンは、役所さんがベッドの上にいる状態から始まったんですが、もう「患者」として存在されていたんです。ですから、16年ぶりということすら感じずに、目の前の役柄に集中して演じることができたと思います。

■周防監督と草刈は、夫婦でセリフを練習!

Q:16年前と今回で、周防監督の演出方法に何か変化はありましたか?

役所:監督は、今までほとんど脚本をオリジナルで執筆されていましたから、全て自分の頭の中で画(え)が見えていたんですよね。でも今回は原作があるから、役者の声を聞くまでどうなるかわからない、と。今回初めて「リハーサルをやろう」ということになりました。そこが大きく違う部分でしたね。

周防監督:セリフの問題がとても大きかったんです。僕は小説をとても気に入っていたので、小説に引きずられていることを自分でも自覚していました。でも活字としてのセリフと、俳優さんの生身の体から出てくるセリフは別のものだということを、リハーサルをすることで改めて知りました。役所さんからも初めてメールをいただいて、「このセリフはこう言いたい」ということを伝えていただいたんですよ。

草刈:取り調べのシーンは45分間あるんですが、撮影自体は5日ほどでした。とても難しいシーンでしたが、リハーサルをすることによってある程度つかめたので、土台を作ることができました。

Q:周防監督と草刈さんはご夫婦ですが、家でリハーサルをすることはないんですか?

草刈:今回はセリフの量も多いし、特に取り調べのシーンはセリフが全部入っていないと撮れないので、セリフを覚える練習相手になってもらいました。嫌がるかな、と思ったらすんなりやってくれたので、そこまで嫌じゃなかったみたい(笑)。

周防監督:だっていい映画にしたいし、役者さんが望んでいたら頑張りますよ! そんなクサい芝居しないでいいから、普通に読んでくれって怒られてしまいましたけど。

草刈:だって普通に読んでくれたらいいのに、余計な芝居ばっかりするんだもん(笑)。

周防監督:ほら、こうやってダメ出しされるんです。

Q:役所さんから見て、お二人の関係はいかがですか?

役所:草刈さんも、「自分の旦那さんの作品だから頑張らなきゃ!」という思いがあるだろうし、監督は監督で奥さんを女優として扱うのには苦労なさったのではないでしょうか。お互い大変だったのではないかと思います。

■役所の熱演で再現された、ぜんそく発作の苦しみ

Q:役所さんがぜんそくで苦しむ演技は、本当にリアルでこちらまで苦しくなってしまいそうで、苦悩する綾乃にもとても感情移入しました。

役所:実はぜんそく患者の方のビデオというものがなかったので、どのような状態か全くわからなかったんです。でも、現場にも医師の方が付いてくださっていたし、スタッフにもぜんそくの方がいらしたので、ぜんそくの苦しさというものを教えていただいて、演技の参考にしました。吸った息が吐けないって本当に苦しいんですよね。それをカットがかかるまでやると、結構つらくて……。

草刈:役所さんを目の前にすると、本当に「大丈夫!?」というほど苦しそうで心配になったのですが、自分の役は呼吸器内科の女医で、そういう発作をいつも見ている人間なんです。それなりの冷静さも必要だったのですが、役所さんのお芝居に助けていただいたと思っています。

周防監督:ぜんそくの発作については、医学生に見せる参考資料があるのではないかと思っていたのですが、プライバシーの関係でそういうものはないようです。それでいろんな映画のぜんそくシーンを見て研究しました。でも、どの映画も普通にせきをしているような感じで、医師の方から聞いていた発作とは違いました。リアルな感触がわからなかったので、現場では、毎回医師の方に「どうですか?」と確認していました。

■役所広司は「ワルい男」が得意?

Q:リアルといえば、浅野忠信さんが演じている医師と綾乃の不倫関係も、とてもリアルでしたね。

草刈:最初に脚本を読んだときは、こんなに悪い男っているのかな? と思ったんですが、いざ浅野さんが演じているのを目の前で見ると「こういう男、いるかも」って思えちゃったんですよね(笑)。綾乃さんが、こういう人に振り回されて、その後江木さんのような安心できる男の人に傾倒していくのかと、とても納得できて、役の中の何かが決まったような感じがしました。

役所:浅野くんのシーンは映画が完成してから観たんですが、「いつになったら奥さんと別れて結婚してくれるのか?」って言う綾乃さんに「そんなこと言ったっけ?」って言うでしょ? ……男ってしょうがないですね(笑)。

周防監督:浅野さんは、いやらしい男を本当に上手に演じてくれました。

Q:三人のタッグをまた観たい! というファンはたくさんいると思います。次はどんな形で実現するのでしょうか?

役所:草刈さんって、キリッとした印象が映画でもあると思うんですが、実際は本当に面白い方なんですよ。監督も、16年前に「日本一の正直者」っておっしゃっていたくらいで、僕はそういうユーモアのある役をぜひ草刈さんにやってもらいたいですね。

草刈:でも面白いものやってみたいですよね。任侠ものなんて、やってみたら面白いかも(笑)。

周防監督:役所さんには、「もうコイツ、本当に許せない!」みたいな悪いやつを演じていただきたいですね。とても良い人なので、どこまで悪くなれるか見てみたいのかもしれません。

役所:僕「そんなこと言ったっけ?」って言うの、得意だと思います(笑)。

スクリーンの中では凛(りん)とした印象の草刈だが、役所が話したとおり、実際は本当によく笑う気さくな女性。そんな彼女を中心に、いつもはもの静かな役所も全員が大笑いするほどの冗談を飛ばし、三人の間にはずっと和やかな空気が流れていた。豊かな表現力で女医の苦悩を演じた草刈と、迫真の演技で現場を圧倒した役所、二人の役者の熱演を引き出した周防監督の演出力。16年ぶりのタッグが作り出した本作が持つ、静かなエネルギーを感じてもらいたい。

映画『終の信託』は10月27日公開

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