シネマトゥデイ

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真木よう子
『さよなら渓谷』
幸福を超越した深い愛がここにある
『さよなら渓谷』真木よう子 単独インタビュー

取材・文:イソガイマサト 撮影:金井堯子

「悪人」「横道世之介」などで知られる芥川賞作家・吉田修一の同名小説を、『まほろ駅前多田便利軒』『ぼっちゃん』などの大森立嗣監督が映画化した『さよなら渓谷』。本作は、幼児殺害事件によって暴かれる一組の夫婦の秘密、彼らの15年に及ぶ愛憎の歴史に迫る衝撃的なラブストーリーだ。この作品で、かつて自分をレイプした男性と奇妙な夫婦生活を送るヒロインのかなこにふんした真木よう子が、出演を決意した理由から壮絶な撮影秘話、椎名林檎とコラボしたエンディングテーマ「幸先坂」に込めた思いまでを語り尽くした。

■いわゆる「ハッピーエンド」ではない魅力

Q:ハードで難しい役だったと思いますが、どこに惹(ひ)かれて出演を決められましたか?

まず台本を読んでから原作を読んだのですが、吉田さんの小説と大森監督の台本や映画は少し似ているところがあるように感じます。いわゆる「ハッピーエンド」を迎える物語ではないかもしれないけれど、どこか幸福の要素も含んでいて、見終わった後に何かを問い掛けてくるんですよね。確かに覚悟が必要な役だと思いましたが、そのプレッシャー以上にやりがいを感じて挑戦しました。

Q:真木さんが演じたかなこは、かつて自分をレイプした俊介(大西信満)と夫婦として一緒に生活していますが、二人の愛と憎しみの関係は理解できましたか?

ほとんどの男女は「幸せ」になるために一緒にいるわけじゃないですか? でも、かなこと俊介はそうではない。にもかかわらず、それを超えた深いところでつながっているんですよね。それって、幸せになるのが目的で一緒にいることよりも深い愛情のような気がします。

Q:かつてレイプの被害に遭ったかなこの気持ちに、どうやって近づいていきましたか?

わたしにはそういう経験はないので、被害に遭った女性の気持ちを完全に理解することはできません。演じているときも今も、100%は理解できていなかったと思います。ですので、被害者の方々の資料を読んで、二次被害のことやどんな音楽を聴いて励まされたのか、といったことを勉強して。あとは原作により細かく書かれていたかなこの心理描写をベースにしながら、現場でかなことして思う気持ちを大切にしながら演じました。でも、今回はそれでもわからないことが多かったので、そういうときは監督に尋ねました。大森監督がこうだと思うとやんわり伝えてくださる言葉から、「なるほど」と気付かされることも多かったですね。

■悲しみに浸食されて壊れかけた壮絶体験

Q:かなこの中で愛情と憎悪がせめぎ合っている感じが伝わってきました。

かなこはテンションの振れ幅が大きくて難しかったというか、苦しかった。俊介と楽しそうに買い物から帰ってくるシーンがあったかと思えば、何かのきっかけでフラッシュバックのように昔の事件を思い出して、突然彼を憎まなければならない存在だったと思い知るわけですから。

Q:冒頭のラブシーンをはじめ、二人の肌の触れ合いも、その複雑な関係を表しています。

冒頭のシーンは、二人の今の(すがるように求め合う、離れられない)関係を伝える最も重要なシーンだと思って臨みました。かなこは、肌が触れることに関しても複雑だったんです。例えば彼に肩をもんでもらっていても、それはもう日常のことなので何とも思わないんですけど、俊介がその後にふと言う「炊飯器、買い替える?」のひと言で逆上してしまう。普通の生活をしていってはいけないのだと思い出すから。そうすると彼の手の感触が違ったものに感じられて、触られているのもイヤになるんです。そういった微妙な精神状態が難しかったですね。

Q:役にのめり込むあまり、壊れかけたこともあったそうですね。

レイプされ、その後も結婚した相手からDVを受けるなどの二次被害に遭い、死さえも考えた彼女にとって最も苦しかったときの回想シーンなので、台本を読んだときも、ここが一番覚悟が要るなと思っていたんです。そしたら案の定……そのシーンは地方ロケで、現場では大丈夫だったんですけど、撮影が終わってホテルに帰り、疲れたな~と思ってベッドに横になっていたら、体に異変があって。かなこの悲しみに浸食されてしまうと感じました。

Q:浸食って……どうなったんですか?

ご飯を食べるのもつらくなってしまって。だから、とにかく真木よう子に戻る作業をしないとマズいなと思って、明るい曲を聴いたり、わたしを支えてくれている周りの人たちにいつも以上に感謝しながら、つらい目に遭っているのはかなこで、 真木よう子じゃないんだって自分に言い聞かせました。そうやって、自分に戻る作業をしたのはこれが初めてですね。

■監督と意見が分かれた衝撃のラストの解釈

Q:壮絶な撮影の日々の中で、俊介と暮らすかなこの心情に共感を覚えたり、理解が深まったようなことはありましたか?

かなこと同じ苦しみを15年間味わってきたのは俊介だけなんです。だから彼に惹(ひ)かれたし、一緒にいるんだと思うんです。最初は憎しみから「楽になるために自殺なんかさせない」という思いで彼のそばにいたのかもしれない。でも、一緒に生活するうちに、「この人も自分と同じように15年間苦しんできたんだ」と思えるようになった。共感ではないけれど……そういうふうに憎しみが深い愛情へと変わっていくのはわからなくもないですね。

Q:かなこと俊介がこの映画の後どうなったのか? という話を原作者の吉田さんや大森監督とされたときに、その解釈が、真木さんとお二人とではまったく違ったとか。

そうなんです。吉田さんもビックリされていましたけど、「かなこがお二人の考えた行動をとることは絶対にないと思います」って言ったんです(笑)。男性と女性とでも違うみたいです。

■椎名林檎とのコラボ曲「幸先坂」は、ココが好き!

Q:最後に。この作品では、椎名林檎さんが書き下ろしたエンディングテーマ「幸先坂」を、真木さんが自ら歌っていますね。

最初は不安でした。スタッフ、キャストの全員がいい画(え)を撮ろうとしていた、大好きな現場でしたからね。その、みんなで頑張って作った宝物のような作品を、最後にわたしがぶち壊したらどうしよう? と思って。そういうプレッシャーはありましたけど、林檎さんがつながった映像をご覧になって、この作品にピッタリの歌詞を書いてくださったので、かなこが歌っているかのように歌ったんです。

Q:歌詞の中で、真木さんの心に一番響いたのはどのあたりですか?

え~っと(と言って少し考えた後、口ずさみながら)、2番の「人はいつも坂の途中、期待を抱え、上がり下がり、あ~生きてる~」という、あのあたりが一番好きです(笑)。映画を観てくださる方には、エンディングテーマの歌詞にも耳を傾けていただけたらうれしいですね。

決して声高ではないけれど、言葉を選びながら自ら思いや考えを熱く語った真木。懐かしそうに、いとおしそうに撮影の日々を振り返るその姿には、幸せだったころのかなこが重なり、彼女がまとっていた穏やかな時間も感じることができた。普通では決してあり得ない男女の関係、数奇な愛のかたちを描いた本作を観て、あなたはどのように思うだろうか? 彼女の言葉もかみしめながら、この深遠なラブストーリーと向き合ってほしい。

(C) 2013「さよなら渓谷」製作委員会

映画『さよなら渓谷』は、6月22日より公開

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