シネマトゥデイ

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水谷豊&伊藤蘭
『少年H』
「一生に一度、あればいいな」と思っていた夫婦共演が実現
『少年H』水谷豊&伊藤蘭 単独インタビュー

取材・文:高山亜紀 写真:金井堯子

妹尾河童による自伝的小説で、1997年の刊行以来、多くの人々に読まれ続けてきた国民的ベストセラー『少年H』がついに映画化された。昭和初期、戦中・戦後という激動の時代を力強く生き抜いた「少年H」とその家族の姿を明るく爽やかに描いた感動の物語。豪華スタッフ&キャストが集結したこの作品はHこと肇の両親、妹尾盛夫・敏子役で、水谷豊と伊藤蘭が約30年ぶりの共演を果たしていることも話題の一つ。実際の夫婦である二人は何をどのように感じ、演技したのか。ついに実現した「奇跡の共演」について語った。

■お互いが奏でた自然体の演技

Q:妹尾盛夫と敏子を演じる際に心掛けたことはありますか?

水谷豊(以下、水谷):原作と脚本に描かれていることに加えて、(妹尾)河童さんに雑談がてら、いろいろ伺ったので、だんだんと気持ちができていきました。作品の中では、日々、いろいろなことが起こります。それを自分がどう受け止めて、どう思うのか。そういうことの連続でした。役柄との差異はありません。もう自分だと思ってやっていました。

伊藤蘭(以下、伊藤):河童さんが「お母さんはとにかく厳しくて苦手だった」とおっしゃっていましたが、強い信仰心を核にして、厳しくとも深い愛情で家族を支え慈しんでいた方だと思います。実際原作にも、神を信じる真っすぐさに加え、完璧すぎない人間っぽい面白さやおかしみも併せ持ったかわいらしい女性としての部分も描かれていたので、演じるときは何となくですが、三歩ではなく、半歩下がるようなイメージでやらせていただきました(笑)。

Q:お互いに感じた、役柄との共通点はありますか?

水谷:蘭さんは本当にそのまんまでした。違和感は何もなかったです。言うことなしです。やはり敏子は蘭さんだったという印象でした。

伊藤:盛夫さんは子ども、大人関係なく、その人の考えや意見をそのまま受け入れようとする人。そこが普段の豊さんとすごく重なったような気がします。自分と違う意見を持っている人でも否定するのではなく、丁寧に理解しようとする。そういうところがすてきだなと思います。

Q:水谷さんは紳士服を仕立てるシーンがありますが、どのような稽古をしたのですか?

水谷:実は練習らしい練習は、ほとんどしていないんですよ。現場には実際に洋服を作る指導の方がいらっしゃって、ずっと見ていてはくださるんですけど、あんなふうにできるとは思ってもみなかったです。ミシンだって、踏んだことないですし、そんなに器用なタイプでもない。不思議ですね。あれはきっと洋服の神様が降りてきてくださったんでしょう。

伊藤:ほんと短期間でというか、撮影当日ですよ。後ろで立っている場面では、見ているわたしの方が緊張していました(笑)。セリフを言いながら、カメラとの段取り通りにタイミングを計りながら、裁断したり、ミシンをかけたり……。大変だなと思って見ていましたけど、本人は思いのほか自然にやっていましたね。

■実際にセットを燃やし尽くした空襲・焼け跡場面

Q:やはり大変だったのは、空襲・焼け跡の場面でしょうか。

伊藤:すごい炎でした。怖かったですけど、段取りは綿密にできていたので信頼しきって、H(吉岡竜輝)と力を合わせてやりました。あんな経験はちょっとできないですね。

水谷:僕は空襲の場面にはいないので、「すごかった」とは聞いていたんですけど、後で画(え)を観たらとんでもなかったですね。劇中、戦争の怖さや悲惨さを描いているのはあの神戸空襲だけなんです。他にも僕やうどん屋の兄ちゃん(小栗旬)、オトコ姉ちゃん(早乙女太一)にいろんなことが起きたりして、じわじわと怖いシーンもありますが、でも、本当に戦争の怖さを描いているのはあの一夜だけ。それだけに集約されている場面といえますね。

伊藤:ロケセットに行ったら、昭和の神戸の街並みができていて、その美しさにびっくりしたんです。家族4人で着物を着て、そこを歩いたときはその画(え)の中にいられる自分が本当に光栄でした。その街並みが燃やされてしまう。それがセットでなく、現実に起きたことなんだと思うと胸が詰まりました。

水谷:あの道、街が、最後、あんなふうに燃え尽くされてしまう、そのギャップ。ぼうぜんとしますよね。本当にすごかった。実は商店街のセットを本当に燃やしているんです。これはもうちょっと言葉が出ない状態になりました。「こんなふうになっちゃうんだ」と。

Q:それでもHは力強く立ち上がりますよね。15歳で旅立つ姿が印象的でした。ちなみにお二人はどんな15歳でしたか?

水谷:15歳っていうと、ちょうど中学校が終わる時期ですよね。その頃はもう俳優の仕事をしていましたけど、将来的にやっていこうとは思ってもなかったです。とてもじゃないけど、家を出て独立するなんて考えてもいません。でもHの時代は中学を出たら社会に出るのが当たり前の時代だったんでしょう。親にしてみたら切ないですよね。でも昔の人はそうやって、一人前になっていったんだなぁ。時代的にはかつての方が早く大人になったんじゃないかなと思いますね。社会全体がそれを求めて、そうしていたんでしょうね。

伊藤:わたしが15歳の頃は「こんなことをやりたいな」ぐらいの思いはうっすら芽生えていたと思うんですけど、家まで出て独立するなんていうのは毛頭、思っていませんでした。現代の方がきっと子ども時代が長いですよね。

■夫婦共演はこれが最初で最後!?

Q:共演して気付いたお互いの魅力を教えてください。

水谷:今までも蘭さんの舞台や映像を観てきて、その都度、感激しているんです。今回も、僕からは変に口を出さない方がいいだろうと思っていたんですが、出来上がった作品を観て、「ああ、やっぱり、口を出さなくてよかったな」と思ったぐらいです(笑)。こういう仕事ですから、もしかしたら、話し合ったり、前の日に翌日のリハーサルすることもあるんだろうかと思っていたんですけど、それも全くなかったですしね。

伊藤:たぶん長年、一緒にいることで、俳優としての在り方みたいなことが自分では知らず知らず、無意識のうちに影響を受けているんじゃないかと思うんです。それがどういう形になって出ているのかはわからないんですけど、俳優さんとして本当に尊敬しています。

水谷:すっごくいい形になって出ていると思う(笑)。

伊藤:最初、共演を想像したときは「一緒に芝居ができるのか?」と一瞬、不安が頭をよぎったんです。だけど、その気持ちとは裏腹に現場に入ったら、本当に自然体でいられました。それはちょっと不思議なくらい安心できました。

Q:では、今後も共演されますか?

伊藤:あんまりやったらおかしくないですか(笑)。

水谷:こんなことは一生に一度、あればいいなと思っていたことが今回『少年H』で実現したので、今は何も考えられないですね。

信念の下、真っすぐに突き進むお母さん、敏子。そんな敏子を大きな愛で包み込む、繊細で一生懸命なお父さん、盛夫。演じた役柄を「まるで自分たちのようだった」と振り返る水谷と伊藤だが、その言葉通りだと誰もが納得する仲の良さだった。インタビュー中、終始「蘭さん」を気遣っていた水谷。そんな水谷を隣に感じ、リラックスした様子の伊藤。早くも2度目の「奇跡の共演」を期待せずにはいられない、ステキな空気をまとった二人だった。

映画『少年H』は8月10日より全国公開

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