シネマトゥデイ

シネマトゥデイ
.
仲代達矢
『日本の悲劇』
芸術というのは、異端である
『日本の悲劇』仲代達矢 単独インタビュー

取材・文:森田真帆 撮影:金井堯子

カンヌをはじめ世界の映画祭で高い評価を得てきた小林政広監督が作り上げた最新作『日本の悲劇』は、余命いくばくもないことを悟り自室を封鎖して食事も水も拒否する父親と、リストラによって職も家族も失った息子を描く家族ドラマだ。日本の現代社会、そして家族の愛を痛切な演技で表現するのは、80歳のいまも日本映画界をけん引し続ける名優・仲代達矢と、個性派俳優の北村一輝。頑固ながらも愛にあふれる父親を熱演した仲代が本作の魅力、日本映画界の変遷を語った。

■初めて出会った、唯一無二の脚本

Q:とても重厚なテーマの作品となりました。脚本を読まれた感想を聞かせていただけますか?

60年も役者をやっておりますと、1,000本くらいのシナリオを読んできています。にもかかわらず出会ったことのないような内容でしたね。人間というのは、生きて死ぬわけで、映画でも演劇でもどう生きてどう死ぬかを描くのは大きなテーマなんです。エンターテインメントでもないし、奇抜なストーリーでお客様を驚かせるようなものでもない、決して楽しいものでもないですが、人間の生きざまを淡々とつづっているこの作品は、とても特別な映画になると感じました。

Q:仲代さんが思う上手な脚本というのは、どんなものですか?

下手なシナリオライターというのは、説明をセリフに入れる。だから役者が説明することになるんです。上手な脚本家は、日常会話や全体の中で状況をわからせるもの。小林さんは、それがとても上手なんです。最近はそういううまい人がいなくなってきたようにも思えますね。それは才能の問題ではなく、効率の時代になってきているからでしょう。黒澤(明)監督の時代なんて、構想2年、製作1年なんていう作品が普通にあった。お金と時間をかけていたんです。でも今は、お客さんが喜ぶような楽しいものを早く作っていくという映画作りになってきた。もっと映画って、芸術的なものではないかとわたしは思っているんです。

Q:小林監督とは映画『春との旅』以来2作目となりますが、その魅力はどんなところにあると思いますか?

小林監督の作品は押し付けではないんです。作品を観て、どうぞご自由に判断してください、というものです。わたしたちがやりたいのはまさにそれです。ただ、楽しいものを期待されるお客さんには、期待を裏切ってしまうかもしれません。あ、そんなことを言ったら、お客さんが来なくなってしまうでしょうか。お客さんを限定してしまうほうが、失礼な話ですよね。でもね、いろんな作品があっていいじゃありませんか。観たくない人は観なくていい。でも手をたたいてくださる観客も、ブーイングで出て行く人もわたしにとっては大切です。

■仲代が求める、芸術としての「異端」とは?

Q:効率的な世の中になってきて映画も変わったというお話がありましたが、映画界はどのように変化してきたと思われますか?

かつてのメジャーの映画会社というものは、競って映画を作っていたんです。当時の娯楽は映画が中心だったということもあります、1本封切られると映画館のドアが閉まらないほどだった。今は、パソコンやテレビが出てきたから、お客さんがわざわざ映画館に足を運ばなくなってきたのは事実です。時代が変わったのだから致し方ないところもありますが、本当は、劇場まで足を運ばせるほどの魅力的な作品を作り手が作らなければいけないんです。これから映画に携わる、才能のある人材は、役者も監督もたくさんいるはずですよ。ただエンターテインメントの作品だけが、映画ではないと思っています。

Q:その点で、まさに仲代さんが求めている作品だったんですね。

80歳になって、今回のように「こんなシナリオは初めてだ!」という作品に出られるのはとても幸せなことです。右にならえというと、民衆というのはすぐに右を向いてしまう。異端のやつって、いてもいいと思うんです。芸術というのは、異端である。こういうものを作ればお客さんは喜ぶだろうという、そういう作り方をする人もいるんだろうけれど、そういう物づくりはしたくないと思っているからこそ、このような作品に出られたことがとてもうれしいんです。

■座禅の静けさに、死を見つけ出す

Q:父・不二男の行動は、言葉に表せない衝撃を観客に突き付けますね。

『日本の悲劇』というのは大きなタイトルですが、もしかしたら人類の悲劇ともいえるのではないかと思います。不二男の行動は、単なる自殺でもない。肺がんで余命いくばくもない元大工のじじいが、部屋に帰ってきて、さあどうしようか、どういう死に方をするのかを考える。金もないし、最愛の息子のために部屋にくぎを打ち、大きな棺おけの中で死んでいくことを決める。ある観点からすれば非常に残酷かもしれませんが、彼にすれば最大の愛情だったんです。ただむごい話ではないことを感じ取ってほしいですね。

Q:演じるにあたって、どんな準備をされたんですか?

役者というのは、脚本をもらうと「よーし、この役をどう演じようか!」なんてことを考えて工夫するわけです。でもこの作品ではそういうことは考えませんでした。ただ、そこにいればいい、そんな思いで演じました。それから小林監督がどのような思いでこの作品を書いたのかを理解することが一番大切だと思いました。わたしは女房の位牌(いはい)の前で座ったまま死んでいくのですが、そこは座禅を意識しましたね。座禅というのは、人間が無の状態になって無の境地に入って無生物になる。彼の死に方は座禅によって成り立つんです。

Q:10分以上にわたる冒頭の長回しシーンはとても印象的でした!

普通の役者だったら、「俺は主役だぞ!」って言いたくなるほど、背中を向けたシーンが多かったんですよ。だけども、とても楽しかった。みんな芝居をやっていると正面を向きたがりますが、実はぱっと振り返った瞬間が一番面白い。お客さんは、どういう顔をしているんだろうってきっと想像してくれるでしょう。背中でなんて芝居できないですよ(笑)。お客さんに想像させることが、背中の芝居なんです。

■60年たってもなお緊張が走る、映画の現場

Q:北村一輝さんとの共演はいかがでしたか?

とても優秀だと思いましたね。僕が年を食っているせいで、若い方は皆さん初めとっても緊張されるんです。でもね、話をしているうちに、ただのじじいだってことに気が付くんでしょうね。そのうちナメてかかってきましたよ。あ、嫌な意味じゃありません! 堂々とお芝居をしてくれた。とてもいいことです。映画というのはね、やっぱり緊張するものなんです。僕だって緊張しますよ。

Q:仲代さんでも緊張されるんですか?

もちろん。昔、亡くなった俳優の小林桂樹さんがね、「俳優というのは嫌な商売だね! 監督のよーい、スタート!っていう声のとき、頭の後ろ辺りがピリピリと嫌な感じしない?」って言うんです。そのとき、「ああそうですね。確かにしますね。小林さんもそうですか?」って話をしたのを今も覚えているんですが、何十年仕事を続けていても、緊張はするんです。

Q:この映画では死を描いています。仲代さんご自身は、「死」を意識することはありますか?

人間としての死もそうですが、役者をいつまで続けるかということは最近よく考えるんです。野球の選手が引退宣言をしますよね。役者もアスリートのようなもので、足腰が強くなければ舞台になんて立てません。自分の体が武器ですから、必ず衰えてくる。やはり肉体が滅びるまで続けることはできませんからね。もういくばくもないとは思っております。どこかで引退して、あとは神様にそろそろ死ねって言われるまで何も考えず、好きに楽しく余生を暮らしたい。だって、60年間も役者として苦しい思いをしてきたんだから、少しくらいいいじゃありませんか。

80歳の仲代の目は、演技への情熱で輝いていた。昨今の映画、役者について、圧倒的な説得力をもって語れるのも60年というキャリアを積んできた仲代だからこそ。そんな仲代がほれ込んだ本作、そして役柄。渾身(こんしん)の演技は、きっとわたしたちの心に大きな何かを残すはずだ。

映画『日本の悲劇』は8月31日よりユーロスペースほかにて全国順次公開

[PR]

この記事を共有する

映画アクセスランキング
  • Loading...
»もっとランキングを見る«
スポンサード リンク
スポンサード リンク
  1. 記事
  2. 2013年
  3. 8月
  4. 26日
  5. 映画『日本の悲劇』仲代達矢 単独インタビュー