シネマトゥデイ

今週のクローズアップ 傑作SF小説、映画化の謎に迫る

 SFといわれて、いったいどんなものを思い浮かべるでしょうか?
 宇宙? 未来? それとも「ドラえもん」?
 いいえ、SFとはもっともっと奥の深いものなのです。

 そこで、今週のクローズアップではSF映画、中でもSF小説を原作にした映画作品を大特集。SF映画の歴史をおさらいするとともに、今後の流れにも注目してみました。

SF御三家、映画化不遇の時代

 欧米のSF作家で「御三家」と呼ばれ、特に知名度が高いのはアーサー・C・クラークアイザック・アシモフロバート・A・ハインラインの3名。いずれも1950年代から1970年代にかけて活躍し、現代SFの礎を築きました。クラークの「2001年宇宙の旅」はSFに興味がない人でも知っているでしょうし、ハインラインのタイムトラベル小説「夏への扉」は日本ではSFファンはもちろん、ネコ好き必読の小説として知られていますね。

 ですが意外なことに、この御三家の作品はあまり映画化されていません。最も有名なのは、スタンリー・キューブリック監督で映画化されたクラークの『2001年宇宙の旅』でしょうが、これは小説の映画化ではなく、クラークとキューブリックがお互いにアイデアを出しながら小説と映画を同時に制作していったというのは有名な話。そういう意味では、クラークの小説の映画化作品は、『2001年宇宙の旅』の続編にあたる『2010年』があるくらいなのです。

 また、アシモフで映画化されたのは、短編集「われはロボット」をモチーフにした『アイ,ロボット』と短編「バイセンテニアル・マン」が原作の映画『アンドリューNDR114』くらいですし、ハインラインの映画化作品で日本公開されたのは「宇宙の戦士」を原作にした『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズが目立つくらい。作家の知名度に比べると、驚くほど映画化作品が少ないのがわかります。

 上記に挙げた小説の多くを日本で翻訳出版している早川書房の清水直樹さんはその理由について、このように分析しています。

 「多くの場合は、タイミングだと思います。SF小説に限らず、映画化の権利は獲得しているけれど、製作がうまくいかないというのはよく聞く話ですよね。また、作品的な傾向でいうと、クラークにしろ、アシモフにしろ、ハインラインにしろ、彼らの作品は未来を描いたものが多いんです。そういう未来像というのは、やはり作品が書かれた当時(注:1950年代~70年代)のハリウッドのSFX技術では再現するのが難しかったのでしょう。むしろ、CGの発達した現在の方が映画化しやすいというのはあると思います」

 

映画『2001年宇宙の旅』より
Kobal/MGM/The Kobal Collection/WireImage.com

映画『アイ,ロボット』より
Kobal/20TH CENTURY FOX/The Kobal Collection/WireImage.com

アーサー・C・クラークの「2001年宇宙の旅」と「2010年宇宙の旅」表紙
早川書房より提供

映画化されやすいSF作家、フィリップ・K・ディック

 では逆に、映画化されやすい作家には誰がいるのでしょうか? 自作が映画化されているSF作家は数あれど、フィリップ・K・ディックほどハリウッドの一流スタジオで愛されている作家もいないでしょう。

 ディックの映画化で最も知られているのは、1982年の『ブレードランナー』。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作に、リドリー・スコット監督がメガホンを取った同作は、「その後のSFを変えた」といわれるほどエポックメイキングな作品として今なお語られています。

 決して明るくなく、むしろ人が虐げられている印象さえあったディストピアとしての荒廃した未来……リドリー・スコットならではの映像センスが光るその世界観 / イメージは、後のSF映画全てに影響を与えたといっても過言ではないでしょう。電脳世界を見事に映像化した映画『マトリックス』(1999年)はSF映画の世界に革新をもたらし、その後のSF映画は多かれ少なかれ影響を受けたといえますが、その『マトリックス』が生み出される土壌には『ブレードランナー』が提示した世界観 / イメージがあったのです。

 ディックの映画化作品はその後も続き、1990年の『トータル・リコール』アーノルド・シュワルツェネッガー主演、監督は『ロボコップ』『スターシップ・トゥルーパーズ』のポール・ヴァーホーヴェン!)、1996年の『スクリーマーズ』、2001年の『クローン』、2002年の『マイノリティ・リポート』トム・クルーズ主演、スティーヴン・スピルバーグ監督)、2003年の『ペイチェック 消された記憶』ベン・アフレック主演、ジョン・ウー監督)、2007年の『NEXT -ネクスト-』ニコラス・ケイジ主演)、2011年『アジャストメント』マット・デイモン主演)、さらに2012年には『トータル・リコール』コリン・ファレル主演のリメイク版)が公開されました。

 ディック自身は1982年、『ブレードランナー』の公開前に死去しているので、没後に怒涛(どとう)の映画化ラッシュが訪れたことになります。ですが、活動期間は1950年代~1980年代と、実はクラーク、ハインラインら「御三家」とかぶっているのです。

 なぜ、ディックの作品は映画化されやすいのでしょうか?

 「御三家の作品と比べると、ディックは同じように未来を描いていても、より現代に近い未来を描いているんですね。テーマも非常に現代的で、『明るい未来』というよりは『どんな未来になるのか?』という懐疑が根底にあります。また、どんでん返し的なアイデアがあることや、最終的にアイデンティティーをはじめとする個人の問題に帰結するので、観ている人が共感しやすいというのはあると思います。ハインラインなどが抱えていた人類全体の問題を、ディックは個人の問題に置き換えていった、といえるのかもしれません」(清水さん)

 

映画『ブレードランナー』より
Warner Bros./Photofest/MediaVast Japan

映画『ブレードランナー』の原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(左が旧版、右が新版)
早川書房より提供

映画『マイノリティ・レポート』より
20th Century-Fox / Photofest/MediaVast Japn

映画『トータル・リコール』(1990年)より
THEO WESTENBERGER/CAROLCO/TRI-STAR/The Kobal Collection/WireImage.com
伝説のSF小説が満を持しての映画化

 例外はありますが、これまでのSF映画史の大きな流れでは、人類全体の未来を描いたような物語よりも、より小さな個人の物語にフォーカスした物語の方が映画化されやすい傾向がありました。ですが、ハリウッドにおける映像技術が進歩した現在、かつては二の足を踏んでいたSF小説の映画化が続々と進んでいます。

 そんな中、満を持して映画化されるSF小説がオースン・スコット・カードの「エンダーのゲーム」です。カードは、1977年に同作の原型となる短編を発表。その後、短編を長編化する形で1985年に「エンダーのゲーム」を出版し、ヒューゴー賞・ネビュラ賞をW受賞。翌年に発表された続編「死者の代弁者」もW受賞を果たし、「エンダー」は一躍現代SFを代表するシリーズになりました。

 そんなSF史に残る作品ですから、これまでにも映画化は企画されていましたが、そのたびに頓挫。2000年代に入ってからは製作が本格化したという話もあり、ファンを喜ばせましたが、そのときも結局立ち消えになってしまいました。ですが、2010年に『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』などで知られるギャヴィン・フッド監督の就任が発表されると、驚くほどスムーズに製作が進行し、ついには昨年に全米で公開されるに至りました。

 「エンダーのゲーム」は、宇宙生命体と人類の戦争を終わらせる宿命を背負った“サード”の少年エンダーの成長を描いた小説です。近未来を舞台に人類の存亡をかけた戦いが描かれますが、どちらかといえば、一人の少年の心の成長に重きを置いた作品といっていいでしょう。過去には翻訳版の表紙に使われたことのある無重力ルームにおける訓練のシーンなど、ビジュアルを思い浮かべやすいシーンが多く盛り込まれているのも特徴といえます。

 映画版では、そうした小説の魅力を2時間足らずの長さに凝縮。VFXを駆使した映像で小説の世界観を見事に視覚化することに成功しました。原作では、エンダーの兄ピーターと姉ヴァレンタインをメインに据えたパートも大きな割合を占めていますが、映画版では大幅にカット。エンダーの最大の理解者ともいえる姉ヴァレンタインの立ち位置が大きく異なるなどの改変もありますが、決して原作の興をそぐものにはなっていません。むしろ、物語的に盛り上がるストーリーをうまくすくい上げた構成になっています。

 そうした要素の一つ一つを見る限り、「エンダーのゲーム」は小説が発表された1980年代に映画化されていたとしても、決して現在の形のようにはならなかったことがファンにはわかるはずです。短編の発表から40年弱、長編から数えても30年近い時が流れて、ようやくの原作の世界観を忠実に再現できる映像技術の発達を待った今だからこそできた作品に仕上がっているのです。

 
映画『エンダーのゲーム』より
(c) 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
「エンダーのゲーム」表紙(左が新訳版、右が旧訳版)
早川書房より提供
映画『エンダーのゲーム』より
(c) 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
映画『エンダーのゲーム』より
(c) 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
映画『エンダーのゲーム』より
(c) 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
 
今後のSF小説の映画化!

 『エンダーのゲーム』のほかにも、SF小説の映画化作品は続きます。“ベスト・オブ・映画化されやすい作家”ことディックでは「ユービック」のほか、『ブレードランナー』の続編をリドリー・スコット監督が製作するといわれていますし、『マトリックス』に代表されるサイバーパンク作品ではその始祖ともいえるウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」を『CUBE』ヴィンチェンゾ・ナタリ監督が映画化すると伝えられています。

 上記作品群はこれまでの映画化の流れにあるものですが、「これまでは映画化は不可能」といわれていた作品も映画化の話が出ています。筆頭はアシモフの「ファウンデーション」シリーズ、そしてダン・シモンズの「ハイペリオン」でしょう。1万2,000年続いた銀河帝国の最後を描いた前者、地球脱出後の人類の姿を物語詩の形式で捉えた後者、どちらも宇宙規模のスケールで物語が展開するため、これまでの技術では映像化は難しかったでしょう。21世紀だからこその映画化作品といえそうです。(どちらも製作がアナウンスされているものの、詳細は未発表)

 そして、日本発のSF作品もハリウッド映画化が多数、企画されています。すでに撮影が終了し、後は公開を待つだけになっているのが、桜坂洋の小説「All You Need Is Kill」をトム・クルーズ主演で実写映画化した『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。日本のSF小説、それも「ライトノベル」と呼ばれる作品がハリウッド映画の原作になるとは誰が想像したでしょうか?

 そして、同じくトム・クルーズ主演では神林長平の「戦闘妖精・雪風」の実写映画化も企画されています。ほかにも日本からは、伊藤計劃の「虐殺器官」、小川一水「時砂の王」、冲方丁「マルドゥック・スクランブル」といったSF小説がハリウッドでの実写映画化に向け、交渉段階にあることが報じられました。

 かつては数あるSF小説の傑作の中で映画化されるのは、英語圏の限られたものだけでした。ですが、今、SF小説をめぐるハリウッドの環境は激変しています。そうして広がった裾野から、これまでに観たことのない映画が飛び出してくるのでしょう。

映画『エンダーのゲーム』は1月18日より全国公開

 
映画化が予定されているフィリップ・K・ディック「ユービック」とウィリアム・ギブスン「ニューロマンサー」表紙
早川書房より提供
アイザック・アシモフ「ファウンデーション」、ダン・シモンズ「ハイペリオン」表紙
早川書房より提供
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より
(C) 2013 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
左から、「戦闘妖精・雪風<改>」「マルドゥック・スクランブル」「時砂の王」「虐殺器官」表紙
早川書房より提供

取材・文・構成:編集部 福田麗
協力:早川書房


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