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松たか子&黒木華
『小さいおうち』
厳しい現実の中でも、彩りを持って生活することの大切さ
『小さいおうち』松たか子&黒木華 単独インタビュー

取材・文:森直人 写真:金井尭子

日本を代表する名匠・山田洋次監督の82作目となる新作『小さいおうち』は、第143回直木賞を受賞した中島京子のベストセラー小説の映画化。現在から回想する形で、昭和10年から終戦直後にかけて、東京郊外で暮らすある一家の日常が描かれる。その中でひそかに起こる恋愛事件を通して家族の絆の深淵に迫り、人間の自由や幸福を問う意欲作だ。ヒロインの女主人・時子を演じるのは松たか子。そして時子を慕う女中のタキには黒木華。映画を支えた女優二人が撮影秘話や作品への思いを語り合った。

■黒木にとって憧れの存在・松は“リアル時子さん”!?

Q:まず山田洋次監督の最新作に出演されたお気持ちは?

松たか子(以下、松):とにかく光栄ですね。『隠し剣 鬼の爪』以来、山田監督の映画に参加させていただくのは約9年ぶりになるんですけど、今回は監督が相当な情熱を注いで取り組んでいらっしゃるのを間近で見て、その姿に圧倒されながらお芝居に集中していた気がします。穏やかでありながら、すごくエネルギーを使う現場だったので、とても勉強になった作品でした。

黒木華(以下、黒木):わたしはオーディションで選んでいただいたんですけど、山田監督の作品に出るのは初めてで、最初は本当に緊張しちゃって……。でも監督や松さんはじめ、皆さんが優しく接してくださったので、撮影中は楽しく過ごせました。山田監督の映画は日本中の人に愛されていて、寅さん(『男はつらいよ』シリーズ)はわたしのおばあちゃんもよく観ていたんです。そんなすごい監督の現場に参加できて本当に貴重な経験でした。

Q:原作は中島京子さんの小説ですが、戦争中の回想をメインにしながら、メルヘン風の余韻もある魅力的な物語ですね。

松:ええ、不思議なお話で。監督にお会いする前に原作を読んだのですが、わたしたちの世代が知らない当時のモダンな生活が描かれていて、テンポよく読めました。

黒木:戦時中の物語って重いイメージがあったんですが、普通の豊かな生活がこの時代にもあったんだなって。作品の中にはミステリアスな部分もあって引き込まれました。

松:ただ自分が時子役に決まってから脚本を読んだときは、「あっ、やばいな」って(笑)。原作を読んだときはお話に夢中だったのであまり気付かなかったんですが、後になって「この役は難しいな」と思いました。わたしなりに考えたのは、この作品の時子さんってあくまでタキちゃんから見た人物像なんですよね。

Q:確かに物語はずっとタキの目線で進みますね。

松:だからタキちゃんにとって、時子さんは物珍しい人であり、どうしても目がいってしまう存在であり、「東京」を象徴する人。時子さんが振る舞うのを見て、タキちゃんの目がキラキラしていることが一番大切なので、彼女をときめかせる存在でいることがわたしの役目だなって思ったんです。

黒木:タキちゃんが時子さんに憧れていたり、いとおしいっていう気持ちはよくわかるんです。わたしにとって松さんはもともと心から尊敬している女優さんなので。

松:えーっ、照れちゃいますね(笑)。

黒木:もう本当に大好きで。だから、その意味でタキちゃんにわたし自身が重なっていた気がします。

■小さなおうちの生活は山田監督の思い出とも重なる

Q:時子やタキが暮らす赤い屋根の小さいおうち。この家がとても印象的ですね。

松:この家の中で起きていることって、本人たちにとっては大変な事件だったりするんですね。でも大きな世の中から見ればちょっとした出来事にすぎない。それが戦争であっという間に根こそぎ奪い取られてしまう。そういう何でもない日常の掛け替えのなさが、この言葉に込められているのかなって。

黒木:東北の雪山から出てきたタキちゃんにとっては、きらびやかで大切なおうち。胸の中にしまっておかなきゃならない秘密の事件も起こるんですけど、彼女にとって、あの家での暮らしがずっと心の宝物であったことは間違いないと思います。

Q:役づくりにはどのようにアプローチされていきましたか?

松:本読みの段階から、山田監督が「持てる知識を総動員して想像してほしい」とおっしゃっていたんですね。この時代はこうだったと紋切り型の歴史観で決め付けないで、想像力を働かせることをやめないでほしいって。高いハードルだなって思ったんですけど、結局その言葉に支えられて動いていた気がします。

黒木:わたしはまず女中という職業自体になじみがなかったので、資料を読ませていただいて。撮影現場では素朴に「目の前の仕事をきちんとやろう」と思っていました。多分、タキちゃんはそういう子だろうと思ったので。あとは山田監督が実際に、小さい頃おうちに女中さんがいらっしゃったらしくて、そのときのお話も聞いて参考にしました。映画の中の坊ちゃん(時子の息子・恭一)とタキちゃんの関係は、子どもの頃の山田監督の思い出と重なるところがあるとおっしゃっていたんです。

Q:細かい所作やしぐさの数々が印象に残りますね。例えばタキちゃんがかっぽう着の胸元をギュッとつかむところとか。

黒木:他にも「着物のたもとをつかむのは不安だったり落ち着かなかったりするときの動作なんだよ」と山田監督に教えてもらいました。

松:襟や髪を直すとか、「このセリフは帯を直しながら言って」とか、監督が細かくおっしゃるときはありましたね。

■初共演の二人がお互いへの愛情を告白!

Q:今回、お二人は初共演ですよね。先ほど黒木さんが、タキちゃんの時子さんへの思いは、ご自身の松さんへの思いと重なるとおっしゃっていましたが。

黒木:はい。実は人生で初めて観た舞台が、松さん主演の「贋作 罪と罰」だったんです。それで「この人は何なんだ!」と心打たれて。当時、高校生だったんですけど、その感動以来ずっと大ファンで。実際にお会いしても本当に魅力的な方なので、今もドキドキしています。

松:うれしいですね(笑)。どうもありがとうございます。

Q:松さんから見た黒木さんの印象はいかがですか?

松:まず今回の原作を読んだときに、今の女優さんでタキちゃんをやれる人がいるのかな? って思ったんです。そうしたら華ちゃんに会って「あっ、いたっ!」って(笑)。この難しい役に、華ちゃんが“淡々と熱い”というか、自分のペースに変換させながら集中していく向かい方は現場でもすごく頼もしくて。クライマックスに長いワンカットで撮ったシーンがあるんですけど、そこは突然、山田監督が「ここはワンカットでいきます」とおっしゃったんですね。撮影のときはすごい緊張感で。それを乗り切れたのも華ちゃんのおかげ。彼女が一緒で本当に良かったと思います。

黒木:いえいえ、松さんや皆さんに助けられてばかりで。

Q:本当に映画の中の時子さんとタキちゃんみたいですね。最後に、これから映画をご覧になる方々にメッセージをいただきたいんですが。

松:まず監督のあふれる情熱があって、スタッフ・キャスト全員が一生懸命ついていった映画だと思います。現場では舞台裏を撮って「山田組の人々」っていう映画にしたいくらい面白い光景がいっぱいありました。内容的には戦争という厳しい現実の中でも彩りを持って生活していること全てが、山田監督からの力強いメッセージになっていると思います。若い世代の人たちにも構えずに観ていただきたいです。

黒木:普通の生活の中に、温かい気持ちやいろいろな感情を感じられる映画だなあって。どんな年代の人も、観た後に持ち帰りたくなる気持ちが続くんじゃないかなと思います。

明朗快活に話す松と、緊張しながら慎重に言葉を選んで受け答えする黒木。一見対照的だが、女優としての芯の強さは似ている気がする。松いわく、「わたしたち二人で山田監督に挑んで、共倒れすることもよくありました」とのこと。きっと彼女たちがお互いに持つ本物の信頼感が、映画の中の時子とタキの関係に宿っているからこそ、『小さなおうち』はリアルな説得力を備えた珠玉の名作に仕上がったのだろう。

映画『小さいおうち』は1月25日より全国公開

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