シネマトゥデイ

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北川景子
『抱きしめたい −真実の物語−』
実在の人物を演じることの責任
『抱きしめたい −真実の物語−』北川景子 単独インタビュー

取材・文:枚岡由里香 撮影:高野広美

交通事故の後遺症で左半身と記憶能力に障害がありながらも常に前向きに生きるつかささんの生きざまと、タクシードライバーである雅己さんとの恋模様を追ったドキュメンタリー「記憶障害の花嫁 最期のほほえみ」を映画化したのが『抱きしめたい −真実の物語−』。本作で車椅子のつかさ役を演じた北川景子は実在の人物を演じることに対して、どう向き合ったか、話を聞いた。

■実在の人物を演じるということ

Q:「つかさ」という実在の人物をモデルにした女性を演じるにあたり、どういったアプローチをされましたか?

映画の基になったドキュメンタリー映像を観たとき、つかささんの笑顔がすごく印象的だったんです。それにとても表情豊かで魅力的。だから、そうした第一印象を手掛かりに似せる作業から始めてお芝居をしていった感じでした。DVDを何度も観て、表情やしぐさの感じを研究しましたね。自宅で何かしているときにも流したり、タブレット端末に入れて外出先に持っていき時間が少しでも空いたら観ていました。クランクインの前に共演の錦戸亮さんと塩田明彦監督と、つかささんのご実家にごあいさつに行ったら、つかささんのお母様が「娘のことを映画にしてくれてうれしい、だけど映画は映画ですから、錦戸さんと北川さんが信じた通りにやってください」って言ってくださったんです。その言葉に甘えて、信じた通りにやらせていただきました。ご家族は撮影現場にも来てくださったんですけど、「つかさに面影がすごく似ていてびっくりした」と驚かれていました。その言葉をいただいたときに、このアプローチでいいんだなと思えました。

Q:でも、つかささんを実際に知る方がそばにいると、演技をしていて反応が気になったりしませんでしたか?

そうですね、やっぱりご家族に「つかさってこんなんじゃなかった」って思われてはいけないし、ご本人が「こんな人に演じられたくなかった」って思ったら嫌だなという気持ちはありました。そこは演じる者として責任を感じました。ただ、わたしはドキュメンタリーを観たときにつかささんのことをすごくすてきな女性だと思ったんです。だから、映像から受けた印象そのまま素直に演じるのが良いのかなという気がしていましたね。

■究極のラブストーリーにしたいという監督の言葉に共感

Q:撮影前に、監督と何か打ち合わせはされましたか?

衣装合わせのときに監督が、錦戸さんとわたしに「ここで撮ります」と、買い物シーンのロケ地などの写真を見せてくださいました。でも役のことはそんなに詳しくはお話されませんでしたね。つかささんと息子の和実(なごみ)くんの笑顔がとても似ているから、笑顔を大切にしてほしいということは言われました。

Q:ということは、車椅子での行動や記憶についてどう表現するかという話はなかったのですか。特に車椅子はスイスイ乗りこなされていて驚いたのですが。

んー、監督には「この映画はとある一組の男女が出会って恋に落ちて結婚していくまでの、本当に日常的でストレートなラブストーリーです」って言われたんです。「究極のラブストーリーを僕は作りたいんです」って。わたしも脚本を読んだときに病気や障害のことがテーマになる話だという感覚はまるでなかったんです。純粋なラブストーリーだと思ったんですね。だからそこは監督と一致したというか、思いは一緒だなという印象は受けました。実際、車椅子の使い方を練習する時間も特に用意されていなくて、現場で慣れていった感じでしたよ。ただ、車椅子に関してはたまたま小学生のとき事故に遭って乗っていたことがあったので、その経験が生きたのかもしれません。でも現場では、半身が不自由なことや記憶障害についてスタッフの皆さんも誰も重きを置いてなかったんです。

■網走での撮影、そして舞台裏は

Q:つかささんご夫妻のふるさとである網走で撮影したそうですが?

やっぱり実際に行くと自分の感覚が広がっていくのを感じましたね。こんなにも寒いところでこんなに温かい愛の物語が紡がれていたんだっていう実感があって、すごく良かったなと思います。二人が暮らした土地で想像も膨らんだし、ほんとに行けて良かった。やっぱり網走のお話なので。地元の方々も協力的でとても温かかったので、すごく楽しかったですね。

Q:錦戸さんとは初共演ですが。

そうですね。現場では具体的なお芝居の話はしなかったんですが(笑)、演技で注意していた部分は一緒だったと思います。今回の撮影って順撮り(脚本のシーン順に撮り進める)じゃなかったんですよ。だから、つかささんと錦戸さん演じる雅己さんが出会って最初まだぎこちないところから次第に愛を深めていくという流れを、物語がつながったときにちゃんと盛り上がって見えるようにしなきゃいけない。そこは、わたしも錦戸さんも、共通の意識ができていたんじゃないでしょうか。

■演じる上で大切にしたことと、映画の見どころ

Q:つかささんのリハビリの映像を見つめるシーンが印象的でした。

脚本には数行しか書いてなかったと思います。「リハビリの映像を見る二人」ぐらいで、泣くとか泣かないとかの詳細な描写はなくて。「映像を見て手を握る」は書いてあったかな。現場では10分ぐらいずっと長回しでした。わたしはリハビリの映像を先に撮っていたので内容を知っていましたけど、雅己さん役の錦戸さんはあのシーンの撮影で初めてリハビリの映像を観たんです。涙をこらえて見ている彼を見たら自分も感極まって自然に泣いてしまいました。お母さんとの入院中のやりとりも、こうやって母子二人で苦労して今までやってきたんだって思いが込み上げてきて、全て自然な感情の流れに任せた感じでした。

Q:では、こうした演技をしようと事前に準備をして現場に臨んだことはなかったのですか?

いつもそうなんです(笑)。こうしてみようって考えたりしても結局そんなプラン通りにはいかないんですよね。その場の化学反応みたいなものを楽しみたいタイプでもあるので、脚本のファーストインプレッションを大切にして現場に入るようにしています。まだそれほどお芝居のことを詳しくわかっているわけではないので。舞台など経験したことがあれば何度も何度も練習して積み上げていくというお芝居の方法もあるのかもしれないですけど、方法をまだ多くは知らないので、これからいろいろな技術を身に付けられたらとは思います。

Q:これから映画を観る方にここはぜひ注目してほしいという部分があったら教えてください。

ここの場面をぜひというよりも、一つ一つはほんとにシンプルで日常的なシーンばかりですけど、それが1本につながると、こんなに力のある映画になるんだということを感じてもらえたらすごくうれしいですね。男女の愛だけじゃなくて友情や家族愛、ほんとにいろんな愛の形がこの映画には刻まれていますから、大切な人をもっと大切にしようとか思っていただけるのではないでしょうか。だから、病気とか障害が重たそうだから観るのを遠慮しようって考えている方にも、ぜひ観ていただきたい。見終わると人それぞれ、いろいろ感じ方は違うかもしれませんが、前向きで温かい気持ちになれる映画だと思います。観る方の年齢や置かれた状況によって違う楽しみ方ができるでしょうし、老若男女問わず誰にとっても心に残るものになるんじゃないかなと思っています。

実在の人物を演じる難しさを聞くと北川は一瞬考えこみ、「フィクションの人物をイチから作り上げるよりは現実のお手本があったので良かった」と答えた。鋭い観察力とデビュー10年のキャリアからつかんだ自分なりのスタンスで、北川は演技に臨んでいるのだろう。「まだお芝居を本当にわかっているわけではない」「これから技術を身に付けたい」と謙遜したが、『抱きしめたい −真実の物語−』ではその自然体の演技で、見事につかささんとしてスクリーンに存在している。

(C) 2014 映画「抱きしめたい」製作委員会

映画『抱きしめたい −真実の物語−』は2月1日より全国公開

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