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河瀬直美監督&松田美由紀
『2つ目の窓』
強い信頼関係が生み出した最高の経験
『2つ目の窓』河瀬直美監督&松田美由紀 単独インタビュー

取材・文:編集部・森田真帆 写真:渡邉俊夫

第67回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、公式上映で12分間にわたるスタンディングオベーションに包まれた映画『2つ目の窓』は、思春期の少年少女の目を通して、人間の生と死、そして性を見つめる美しい作品だ。奄美大島の大自然を舞台に少年少女の感情、彼らを取り囲む人々の生きざまを繊細に描いた河瀬直美監督が、島のシャーマンでありながら、病で死にゆく母を熱演した松田美由紀と共に独特な撮影方法を語った。

■カンヌの興奮はいまだ冷めやらず!

Q:カンヌから帰国されたばかりですが、改めて今日までの日々を振り返っていかがですか?

河瀬直美監督(以下、河瀬監督):昨年の8月から奄美大島で撮影を開始して、戻ってきてすぐにパリで編集作業を終えて、その後カンヌだったので本当に突っ走ってきた感じがしますね(笑)。カンヌではとにかく取材が多くてへとへとになりました。全部で70くらいの媒体の取材を受けました。

松田美由紀(以下、松田):まだ撮影がつい最近終わったような気がするんですよね。普通の作品だったら、終わって取材のときには、もう忘れちゃってたりすることもあるんです(笑)。でもこの作品は取材を受けるのがとにかくうれしくていくらでもしゃべれちゃうんですよね。

Q:今回、松田さんを母親役にキャスティングした決め手は何だったのでしょうか?

河瀬監督:美由紀さんは母性がとても強い方で、存在感もとてもおありなので、ユタ神様のようなシャーマン的資質を持っていらっしゃると感じていました。奄美大島に来ていただけさえすれば大丈夫だと思っていました。

松田:すごい投げ方するんですよ(笑)。わたしも最初は監督の投げ方にびっくりしたんですけど、逆に本当に信頼してくれているんだなって思うんです。細かいことを多く言う監督ではないんです。ただ奄美大島の自然の中に置かれるという。初めはもちろんすごく戸惑いましたけど、とても多くのことを学べたと思っています。

■河瀬監督の撮影方法に、松田は驚がく!

Q:撮影はとても過酷だったと伺いました。

松田:役づくりというよりも、役そのものとして島で生活していました。例えば、わたしは吉永淳ちゃんと母娘役だったので、一緒に住んで、ご飯も作っていました。末期がんに侵されているという設定なので、役づくりで病院にも4日間入院して。大変でした(笑)。

河瀬監督:最初のミッションは「島を歩いて集落を見てきてください」でしたよね?

松田:そうそう。それでわたし、とても暑い中、道も何もわからないまま延々と歩き続けて、揚げ句熱中症になってしまって……。

河瀬監督:ユタ神様がその集落で生きているということは、集落にどんな人がいるかを隅から隅まで知っていなければならない。だからといって、集落をこちらで案内して、皆さんを紹介するのではちょっと違うんですよね。そうじゃなくて、美由紀さん自身の足で歩いて、どの道がどこにつながっているのかってことを知ってもらいたかったんです。あとは、集落の中に拝み場があるんですが、「ユタ神様としてそこに通って、毎日拝んでいてください」ってお願いもありましたよね。

松田:拝んでいてくださいっていうこともすごいですよね!? もうそのミッションって絶対なんですよ。拝み場でカメラもメイキングも入らない状況で、ひたすら拝み続けて、どんどんトランス状態になってきて……。3時間くらい泣き叫んでいましたね。ほんっとに誰も来てくれないからすごく寂しかった(笑)。

河瀬監督:わたしは1回ちょっとのぞきに行ったんですよ。「拝んでる、拝んでる」って思って帰りましたけど(笑)。

松田:でも拝み続けることで何かが降りてきたというのは確実にありましたね。

河瀬監督:たまにスタッフからの報告が入るんですけど、「監督、美由紀さんがすごいです。全身真っ黒の服を着て、ぶつぶつと祝詞をつぶやきながら、集落の中をさまよい歩いています」って(笑)。何人かの住人の方から、「監督のとこの役者さん、ちょっとおかしなってるよ」って言われたこともありました(笑)。

■役者の言葉が脚本を超える、順撮りへの徹底したこだわり

Q:今の時代で順撮り(シーンの順番に忠実に撮っていく撮影方法)の現場は、俳優さんのスケジュールを含め珍しいですよね。こだわりはあるのでしょうか?

河瀬監督:俳優さんはもともと皆さん器用なので、もちろんいろんなシーンをごちゃごちゃにしても演じて頂けます。でもきちんと時間を積み重ねていくことで、その流れに忠実であり、俳優が役として生きていく中で、セリフも台本にある以上のものが湧き出てくる。そういう瞬間があるんです。病院のシーンにしても撮影の前に4日間入院していただいただけのことはあって、本当に死を迎えようとしている感じがすごくリアルで(笑)。美由紀さん演じるイサが亡くなるシーンでは、カンヌの上映中にも渡辺(真起子)さんと一緒にグズグズ泣いてしまいましたよね。

松田:自分の亡くなった母の姿を思い出しながら演じたんです。出来上がった作品を観たとき、まるで自分の母の姿を見ているような感覚になって、ボロボロ泣いてしまいました。すごく不思議な気持ちになりましたね。でもその不思議な追体験こそが、今回の映画の大事な部分だったんだなって思いましたね。

Q:役者さんの体に役を染み込ませながらラストシーンまで運んでいく感じですね。

河瀬監督:そうですね。演出よりも、役者さんに感じてもらうことが大切なんです。美由紀さんの夫を演じてくださった杉本哲太さんにも、いきなり「大工仕事に行ってきてください」ってお願いしました。この映画の中で杉本さんは自分で建てたカフェを経営するという設定だったので、近所で家を建てているところがあると聞いて、そこに放り込ませて頂きました。1日終わった後に、杉本さんと話をしたんですけど、一日中、くぎを打つ作業をしていたらしくて「99パーセント何をさせられているのかわかりませんでした」って(笑)。でも2日目には屋根を拭く作業ができて楽しくなっていったみたいでしたね。

■いい作品を作る過程に闘いは必要

Q:お二人がこうして笑いながら話していることが衝撃的なんですが……(笑)。

松田:(笑)。結局、他人同士で一つの作品を作るわけなので、その上で闘うことは当然だと思うんです。別に個人的に嫌いでどうこう言い合っているわけではないから。だから言いたいことは全部言ったし、いい作品を作るためには当然の作業だと思うんです。

河瀬監督:確かに、あんまりぶつかった感じはしないですよね。それに美由紀さんが暴れるということは想定内でしたから(笑)。美由紀さん担当のスタッフの子には「抑えられるだけ抑えてね」って言ってありました。

Q:カンヌでは「女性監督」という言葉がずいぶんと挙がっていましたが、意識されたところはありましたか?

河瀬監督:そうですね。海外の取材を受けていても、ずいぶんと「女性監督」という言葉を聞きました。監督の数で考えると、女性と男性とのバランスは悪いですから。それでも、女性だからこそ撮れるものがあると思っています。わたしが撮っている映画は、母の視点が多いなって思っているんです。子供を産んでからの表現は明らかに変わりましたね。松田さんにも3人のお子さんを一人で育ててこられたからこその表現がある。映画を撮ることも、子育てもどちらも同じくらい大事なので、今はとにかくマイペースに撮り続けていけたらいいなと思っています。

「あのときは、本当に辛かったんだからね!」と大笑いをしながら河瀬監督に訴える松田と、それに対して「美由紀さんが暴れることはわかっていたから」とニヤリと笑う河瀬監督。撮影はもちろん過酷だったに違いないが、今では最高の経験となっていることは松田のすがすがしい笑顔から伝わってきた。二人の間に流れる空気には、共に闘いを経験した同志のような固い絆が感じられる。監督を信頼し、食らいついた俳優陣と、俳優の底力を信じ続けた監督が紡ぎ出した本作には、カンヌの観客を圧倒した強烈なエネルギーが流れている。

河瀬直美監督ヘアメイク:藤岡ちせ
松田美由紀ヘアメイク:須賀元子

映画『2つ目の窓』は7月26日より全国公開

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