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市川由衣&池松壮亮
『海を感じる時』
男と女の体当たりの恋愛バトル
『海を感じる時』市川由衣&池松壮亮 単独インタビュー

取材・文:那須千里 写真:本房哲治

好奇心で交わしたキスから、体の関係でつながった男女の心の変化をえぐり出していく、異色の恋愛映画『海を感じる時』が公開される。1978年に発表された中沢けいの同名小説を、『共喰い』の荒井晴彦が脚本にし、実に30年以上の時を経て映画化が実現した。恋愛と性への目覚めから“女”へと鮮やかに変貌を遂げる恵美子を演じた市川由衣と、彼女と肉体関係を持ちながらも「女の人の体に興味があっただけ」と気持ちを曖昧にし続ける先輩の洋を演じた池松壮亮が、男女の複雑な心理と撮影秘話を語った。

■サイテーな男も、池松壮亮が演じると魅力的!?

Q:恵美子と洋の関係は、普通の恋愛とはちょっと違っていますが、お互いのどんなところに惹(ひ)かれていたのでしょうか。

市川由衣(以下、市川):恵美子は、はたから見ると“イタい”女だなという印象を受けたんですけど、そこが魅力でもあるなと思いました。いつだって孤独で、いつだって負けていない。一見負けているようでもそうじゃない恵美子の姿が、カッコいいなと思ったし、好きでした。

池松壮亮(以下、池松):大きく言うと、洋にとって恵美子は、自分の父性と少年性をどちらも受け止めてもらえる相手だったと思うんです。つまり洋は、彼女の母性と少女性に惹(ひ)かれたのではないかと。

市川:でも、洋みたいな男の人ってモテると思います。脚本を読んだときは、洋の魅力というものが、よくわからなかったんですよ。本当に最低な男だなと(笑)。でも池松さんが演じている洋を目の当たりにすると、ひどい男であることには変わりないんですけど、恵美子が好きになる……というか依存してしまう、追い掛けてしまう魅力というのは、確実に感じました。

Q:高校時代は学ランとブレザーの制服姿でしたが、舞台が1970年代ということもあって、現代の高校生よりは大人びて見えました。

市川:話し方とかが丁寧ですよね。

池松:文語のような口調でしゃべるところには、最初はやっぱり抵抗がありましたねえ。でも僕自身の抵抗よりもはるかに、その文言が映画になることが面白いという気持ちが勝ったんです。

■恋愛は男と女のバトルだ!

Q:体と体をぶつけ合って争うシーンもありますが、撮影もかなり激しいものだったのでしょうか?

市川:撮影前の衣装合わせのときに、安藤(尋)監督から「これはバトル映画だ」と言われたのが、印象に残っています。脚本を読んだときは、そのニュアンスはわからなかったんですけど、言われて「確かに!」と思ったんです。恵美子は自分とも闘っているし、孤独とも闘っているし、洋とも、母親とも、闘っている。そのことを心に留めて撮影に臨みました。でもケンカは痛かったですよねえ! わたしも本気でやりましたけど、池松さんも本気できてくださったので。

池松:もちろん、そのとき本気になれるレベルの本気でやりました。

Q:同棲(どうせい)を始めてからの、食事中のケンカがとても強烈でした。

池松:あそこは言葉で説明するのが難しいですよね……。安藤監督の表現としてああいうかたちに持っていったわけですけど……でも、男女の間ではよくあることなんじゃないですか? あのシーンは確か安藤監督が言いだしたところだったと思いますけど、僕はスッと腑(ふ)に落ちました。

市川:恵美子としては、あんなふうに洋と一緒に仲良くごはんを食べたりすることを求めていたはずなんだけど……ちょうど洋に対しての怒りがぶり返していたところで、二人の関係の何かを変えたいと思ったシーンなんじゃないかと思うんです。

Q:女性側が仕掛けて相手の反応をうかがうようなワンシーンでもありました。

市川:実はあのシーンの撮影は楽しかったんですよね(笑)。現場ではずっと笑っていたような気がします。

池松:仕掛けられた方は、たまったもんじゃないですけどね(笑)。

■濃厚な濡れ場の演出は、監督の実演!

Q:大胆なラブシーンというのも、この映画にとっては大事な意味を持っていますね。

市川:一番最初に撮ったのは、冒頭の恵美子の部屋のラブシーンです。池松さんと会うのも、そのときが“初めまして”でしたね。

池松:それが最初で逆に良かったんじゃないかと思いました。劇中と同じように、二人の心が通い合っていないまま……。

市川:ラブシーンに関しては、池松さんがいろんな映画で経験していらっしゃったので、もう安心して身を任せていました。

池松:慣れているといっても、役や相手が変われば、当然その都度違いますよ(笑)。

市川:安藤監督は現場でどんなふうに言っていたっけ?

池松:すごく感覚的な言葉だったので、それをキャッチしていったというか。

市川:自ら演じてみせてくれたりもしましたね(笑)、助監督さんを相手にオジサン同士で。かわいかったよね? 二人でスリスリするお芝居とか。

池松:うん。安藤さんはずっとそういうことを描いてきた監督ですからね、心と体の問題というか。それこそ『ココロとカラダ』というタイトルの映画も撮られているように。

Q:安藤監督の実演は役に立ちましたか?

市川:どうしても笑っちゃいましたね、せっかくやっていただいたのに申し訳なかったんですけど(笑)。わたしとしては、快楽のための行為というよりは、洋に触れていたいという恵美子の感覚を大事にしたいなと思っていました。

■相手と真っすぐに向き合う美しさ

Q:問題を抱えながらも、二人を結び付けていたものは、一体何だったのでしょうか。

市川:そこは男女でも意見が分かれると思いますね。恵美子は孤独だからこそ洋を求めたのかもしれないですけど、それによってますます孤独を感じることにもなってしまう。でも根っこにあるのは、ただ洋とずっと一緒にいたいという、シンプルな感情だったようにも思います。

池松:うーん……やっぱり難しいですね。もしそれを言葉ではっきり言えたなら、こういう映画は作っていないと思うんです。

市川:この映画は30年ほど前に書かれた原作と脚本が基になっていますけど、時代のズレみたいなものは、わたしはそんなに気にならなかったです。逆に、人を好きになるということは、時代が違ってもあまり変わらないものなのかなと思いました。

池松:僕は二人のことがちょっとうらやましくなりました。今だと情報がたくさんありますから、言っちゃいけないこと、言わない方がいいこと、これは言うのはやめておこうかなという、そういう思いの方が先に出てきちゃいますけど、恥ずかしげもなく、真っすぐに言いたいことを言い合っていて。彼らがどんなことを言っていてもその心はきれいだなと思って。そういうところには純粋に憧れますね。

映画の冒頭、高校の新聞部の後輩と先輩として登場する市川と池松。劇中では市川が後輩だが、二人で並ぶと市川がさりげなく池松をリードしつつ、そんな市川を池松が一歩引いて見守るような、心地よい関係がうかがえる。男と女が正面から向き合うだけに苦しくしんどい局面も描かれる作品で、撮影のスケジュールもキツいものだったそうだが、現場のムードは監督が冗談を飛ばすなど和気あいあいとしていたという。そうしたキャストやスタッフの信頼関係があったからこそ、お互いが本気でぶつかることのできた心と体のバトルの結末は圧巻だ。

映画『海を感じる時』は公開中

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