シネマトゥデイ

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チャン・イーモウ監督
『妻への家路』
高倉健さんは最も敬愛する人
『妻への家路』チャン・イーモウ監督 単独インタビュー

取材・文:くれい響 写真:金井尭子

20年ぶりに再会した夫婦の純愛を描き、あのスピルバーグも絶賛したという『妻への家路』を手掛けた中国の巨匠チャン・イーモウ監督。チャン監督のミューズともいえる存在で、今回8年ぶりのタッグとなる中国の名女優コン・リーの変わらぬ魅力や、『単騎、千里を走る。』でタッグを組み生前親交の深かった高倉健さんとのエピソードなどを熱く語った。

■世代的な視点、監督の視点から見た文革

Q:本作も『初恋のきた道』『サンザシの樹の下で』など同様の純愛ドラマといえますが、定期的に大作を撮った後にこういった恋愛物を手掛ける理由を教えてください。

そういった規則性には気付きませんでしたが、確かにそうですよね(笑)。きっと、バジェットの大きな商業的な映画を撮った後だと、どこかで「自分の心を鎮めて、感情のバランスを取りたい」といった欲求が生まれるんだと思います。視覚的にも刺激的な大作を監督することは大変な一方、そのぶん能力を証明することができます。でも、映画というのは、決してそれだけじゃないということ。それで、もっと小さな物語を撮りたい。それが純愛物語の制作につながるんだと思います。

Q:今回の物語のきっかけになる文化大革命は『活きる』などの過去作でも題材にしていますが、監督自身はどのように捉えているのでしょうか?

文革の時代、わたしは16歳から26歳でした。たくさんの忘れ難い記憶があります。生涯消し去ることのできない思いともいえるでしょう。とはいえ、今の若い世代はあまり理解できていない。だから、世代的な視点からいうと、彼らにそれを伝えたい思いがあります。その一方、そういう特殊な時代だったからこそ、映画の題材になるような、ドラマチックな物語が生まれています。映画監督としての視点からいうと、そこにとても強く惹(ひ)き付けられるのです。

■コン・リーの変わらぬ魅力と変化

Q:『王妃の紋章』以来、8年ぶりのタッグとなる妻役のコン・リーは監督が発掘した逸材ですが、以来変わらない彼女の魅力と変化した魅力は?

彼女が変わったところは、やはり成熟したところだと思います。私生活も含めていろんな経験をしたことが、女優としての成熟につながったと思います。反対に30年近くたっても変わらないところは、カメラの前に立っているときのたたずまいがとても魅力的だということ。また、感情が豊かな女性なので、演じるキャラクターの情感を引き出すことができるんです。だからこそ、誰もが認める中国映画界でトップの存在なのだと思います。

Q:ちなみに、1987年に『紅いコーリャン』のヒロインに彼女を抜てきした理由を覚えていますか。

最初は見るからに大柄で強そうな北方の女性のイメージを持った女優を選ぼうと思っていました。コン・リーはとても細く、わたしが求めていたイメージとは違ったのですが、カメラを通して彼女を見たとき、先ほど言ったカメラの前での美しさに惹(ひ)かれました。今回の『妻への家路』も、彼女がまだ脚本も読んでおらず、出演の契約もしていないときに髪を白く染めてもらって、ちょっとしたスチール撮影をしたんです。ただカメラの前に立っただけで、脚本家らスタッフ全員が「この役は彼女しかいない!」と思ったんです。

■最も敬愛する人物・高倉健

Q:『単騎、千里を走る。』でタッグを組んだ高倉健さんが昨年亡くなりました。チャン監督が2008年の北京五輪の開・閉会式でチーフディレクターを務めた際、高倉さんがチャン監督に日本刀を贈ったといわれていますが、それは事実でしょうか?

高倉さんは、わたしにとって最も敬愛する人であり、若い頃はアイドル的存在でもありました。おっしゃる通り、その話は事実です。日本では「刀は持ち主を守ってくれる」という意味合いがあるそうで、高倉さんは北京五輪の成功を祈って、わざわざ北京まで持ってきてくださったんです。高倉さん自ら磨き方を教えてくださり、箱に入れ、ひもで結んでくださいました。それは今もわたしのデスクの後ろに飾っていますが、刀というより高倉さんに守られている気がします。でも、その刀には高倉さんが磨かれたときの手の跡や息遣いが感じられて、それが消えてしまうかもしれないという思いから、いまだに箱は開けていません。

Q:中国では高倉さんのフィルモグラフィーの中で、特に文革後に初めて公開された外国映画という意味で『君よ憤怒の河を渉れ』(中国タイトル『追捕』)の人気が高いですが、監督が好きな作品は?

もちろん『君よ憤怒の河を渉れ』です。200本以上の映画に出演された高倉さんにとっては、あの作品が特別な作品というわけではないかもしれませんが、50代から60代の中国人にとっては非常に特別な作品なんです。文革後、10年ぶりに観る外国映画ということで、50~100回観ている人も多く、セリフを全部言える人も劇中歌を歌える人もいます。今、中国と日本は政治的に微妙な関係にありますが、高倉さんが亡くなったとき、ほとんどのメディアが追悼特集を組み、多くの著名人が追悼の意を述べました。その事実は日本の方にも知ってほしいです。

■日本未公開のクリスチャン・ベイル主演作

Q:日本と中国との関係性といえば、日中戦争をテーマに、クリスチャン・ベイルと渡部篤郎が共演した前作『金陵十三釵/The Flowers of War』が日本未公開のままです。この現状についてはどう思いますか。

わたしの希望としてはぜひ日本での公開も実現してほしい。中国と日本は、確かに過去において不幸な歴史がありましたが、それを今、映画を通して知ることが必要だと思うからです。わたしは今後、両国でああいう悲劇が二度と起こってほしくないですし、起こらないとも思っています。日本人の習慣や文化はわたしたちと近いと思いますし、わたし自身も日本や日本の人々に大変好意を持っています。もちろん、高倉さんによって築かれた両国の絆も大切にしたいです。

Q:『テラコッタ・ウォリア/秦桶』(1989)、『古井戸』(1987)など、以前はほかの監督の作品に俳優として出演し、唯一無二の存在感を放っていましたが、もう俳優業をされる予定はありませんか。

こればかりはわからないです(笑)。わたし自身はまた俳優業をやりたいとか、演技をしたいとは思っていませんが、周りにいる監督たちからは「また、あなたの演技が見たい!」とよく言われます。だから、チャンスやタイミングさえ合えば……ということでしょうか。

取材中も惹(ひ)き付けられてしまった鋭いまなざしで、コン・リーをはじめ『初恋のきた道』(1999)のチャン・ツィイーら、次々と新人女優を発掘してきたチャン監督は、本作でもキーパーソンとなる娘役にチャン・ホエウェンを抜てき。彼女のピュアで力強い演技にも注目したい。ハリウッド進出もうわさされるチャン監督の、静かで強い思いが込められた奥深いこの人間ドラマは、国籍や世代を超え、世界中の人々の胸に響くだろう。

(C) 2014, Le Vision Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

映画『妻への家路』は3月6日よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開

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