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佐藤浩市&樋口可南子
『愛を積むひと』
夫婦の会話がしっかりとなじんでいた
『愛を積むひと』佐藤浩市&樋口可南子 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真: 高野広美

エドワード・ムーニー・Jr.のロングセラー小説「石を積むひと」の舞台を北海道美瑛町に置き換え、『釣りバカ日誌』シリーズの朝原雄三監督が撮った『愛を積むひと』。第二の人生を歩むために北海道を訪れた夫婦と、周囲の人々との交流をハートフルに描くヒューマンドラマだ。不器用な職人かたぎの夫・小林篤史を演じた佐藤浩市と、篤史を残して他界する妻・良子を演じた樋口可南子が、映画さながらの「あうんの呼吸」で作品について語った。

■希代の名優同士が初の夫婦役に!

Q:ご夫婦役での共演は初めてとのことですが、ご一緒されていかがでしたか?

樋口可南子(以下、樋口):お芝居に関するストレスが、まったくなかったんですよ。本当にシンプルなお話なので、「合わない人だったらどうしたんだろう?」って思ってしまいます。役者を長いことやっていると、技はいっぱい体の中に入っていると思うんですけど、こういう日常のお話って、技でどうにかできるものではないですよね。浩市さんが、現場で一度ゼロに戻してやっていらっしゃるような感じがして、すごくうれしかったんです。その横でお芝居のキャッチボールをしているだけで、とても自然にいられた気がします。

佐藤浩市(以下、佐藤):フラットでいたいな、という気持ちはありました。夫婦物で、しかも家の中にキャメラが入ってくる話なので、一番大切なのは空気感ですよね。「篤ちゃん」と声を掛けられて、「なあに」と返す。このやりとりだけうまくいけば、あとは大抵うまくいくんです。そこでノッキングしてしまったら、形態として夫婦を演じているようになってしまう。樋口さんの「篤ちゃん」の呼び掛けがしっくりとなじんだので、すごく安心できました。やはりベテランの女優さんなんでね、懐が深いですよ。

樋口:ベテランって言っても、わたしたち、キャリアはほとんど同じなんですけどね(笑)。

Q:現場でお芝居の打ち合わせなどをされることもなかったのですか?

佐藤:ほとんどなかったですね。

樋口:お互い、意外と照れ屋なんですよ。話し合って生まれるものでもないんですよね。浩市さんにも奥さまがいらして、わたしにも夫がいる。何となく、自分たちの生活の中での夫婦の距離感など、お互いが持っているものを交換したような感覚ですね。

佐藤:テストで1回だけ、「ここのセリフの出だし、早く言います」などと言ったことはありますが、「ここさ、俺、こんな感じでやるからさ、こうしてもらえる?  よろしく!」なんてことは一切ないですね。そんなこと言うのイヤだし(笑)。

樋口:それは気持ちが悪いですよね(笑)。

■映画では見せない感情を意識して演じた

Q:仕事一筋で不器用、家のことは妻に任せっきりだった夫・篤史。佐藤さんが演じる上で心掛けたこととは?

佐藤:台本に書いてある通りにやれば、役って移っちゃうものなんだけど、僕はひねくれているので、一度自分の中に通さないと気持ち悪くてできない。今回の役は、「蒲田の工場の2代目で、堅物で、不器用で」って台本に書いてあるんだけど、少し硬いような気がして、もっと人間っぽくならないかなと考えながらやりましたね。彼だって、女房にウソの一つや二つついただろうし。

樋口:あの二人、すっごいケンカしたと思いますよ、きっと。

佐藤:撮影の前に、そういう話だけは樋口さんとしたんですよ。この夫婦はすべてがうまくいって、工場を売ったお金で北海道に来たのではなくて、そこまでにはいろいろあったよね、と。篤史も、筋の通ったことを言っているようだけど、自分のやってきたことは案外ズレていて、背中を見せている人には弱く、人との付き合いもうまくない。それは裏設定であって、そういったことを芝居でやるわけではないけれども、整合性が取れていないところも含めて、この人をやりたかったんです。

Q:この世を去ることを覚悟し、手紙で夫を導く妻・良子。樋口さんはどのようなアプローチで役をつくられたのでしょうか。

樋口:こんな人いるのかなというくらい、立派な女性なんですよね。でも、台本には書かれていないことを想像していくと、夫に見えていないところで苦しかったり泣いていたりしたことは絶対あるはずなんです。画面では穏やかな表情が多いけど、実は、出ていない感情もたくさんある中での、穏やかなシーンの連続だと思って演じていました。

■地毛のロマンスグレーで芝居に挑戦

Q:佐藤さんは地毛の白髪で演じられたそうですが、ご自身のアイデアだったんですか?

佐藤:監督に「白くしようと思うんだけどどうですか?」って言ったら、「いいと思います」とおっしゃったんです。北海道の地に、頼りなげに白髪が風に吹かれているのがいいかなと思って。あんまりエネルギーが出ているようにはしたくなかったんですよ。普通にやると、どうしてもエネルギーばかり出てしまうので。

樋口:……浩市さん、そうでもないですよ(笑)。

佐藤:あ、そお? おっかしいなあ……(笑)。

樋口:でもね、あの白髪もステキなんですよ。それで、監督がわたしにも「白髪に伸ばしてください」っておっしゃったんですけど、もっと前に言ってくださらないと無理なんですよ。必死に伸ばしたんですけど間に合いませんでしたね。浩市さんがうらやましかったです。なかなかあんなにキレイに白髪にはならないですからね。

Q:染めていらっしゃるのかと思いました。本当にキレイな銀髪ですよね。

佐藤:今では死語だけど、“ロマンスグレー”ですよ。

樋口:え? 自分で言っちゃうんですか(笑)。

佐藤:うん(笑)。でも、コンサバティブな方々には、ただの白髪(しらが)だとしか思われないかもしれないけど。

樋口:いやいや、ステキでしたよ。最初に美瑛の現場でお会いしたとき、浩市さんだってまったく気が付かなかったんです。すごく土地になじんでいらして、本当に無防備で歩いていらっしゃるんですよ。地元の方なのかなと思ってしまいました(笑)。

■佐藤が亡き父・三國連太郎の芝居を再現!

Q:朝原監督といえば、三國連太郎さんの『釣りバカ日誌』。佐藤さんはどんなお気持ちで朝原組との作品に臨まれたのでしょう?

佐藤:朝原さんをはじめ、技術スタッフの方々も『釣りバカ日誌』に携わった人が多かったので、僕の後ろに三國を見たのでしょう。彼が生きているうちではなく、亡くなった後でご一緒させていただいたので、皆さん、何か感じるものがあったんじゃないですかね。だから、「次は三國風でやります」なんて冗談をよく言っていましたけど。

樋口:浩市さんが玄関前でコケるシーンがあるんですけど、そのコケ方がお父さまの三國さんとそっくりだって、現場で言われていたんです。

佐藤:まあ、スタッフの皆さんにはわかるだろうと思って、三國風にコケてみました。「……いくらでもできるんだよ(三國風の渋い言い方)」。

Q:いま、三國さんにそっくりな言い方をされましたよね!

樋口:そう、時々入りますよね(笑)。

佐藤:ふふふ(三國風に笑う)。

Q:ロケ地・美瑛町の美観も見どころ。土地から頂く力というものがあったんでしょうね?

樋口:それはありました。本当に、何もないところに家を建てていただいたんです。どこを撮っても美しい場所で、遠目に見たときにそこだけスポットライトが当たっているような感じがしました。周りの風景に助けられて、より深い気持ちで物語に入っていけましたね。この間、「家の石垣にハートの石を埋める」というセレモニーをやらせていただいたんです。映画の公開に合わせてこの場所も一般公開になるので、もし作品を観てここに行ってみたいなと思ってくださったら、ぜひ訪れてほしいです。

時折おちゃめな素顔をのぞかせる佐藤に、朗らかな笑顔でツッコむ樋口。その様子は長年連れ添った夫婦そのもので、小林夫妻がスクリーンの中から抜け出してきたようだった。「生前はうまくしゃべることができなかった」と公言する父・三國連太郎さんについて語り、形態模写まで披露した佐藤の様子から、三國さんを撮り続けてきた朝原組へのリスペクトと、家族の絆をテーマにした本作への強い思いが伝わってくる。そんな部分も含め、『愛を積むひと』は観る人の記憶に深く残る作品になりそうだ。

(C) 2015「愛を積むひと」製作委員会

映画『愛を積むひと』は公開中

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