シネマトゥデイ

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 敵から隠れることがゲームプレイの大部分を占めるという、斬新なシステムと壮大なストーリーでゲームファンの度肝を抜いた、KONAMIの小島秀夫監督作「METAL GEAR」。ハリウッドをはじめ世界中のクリエイターに影響を与える伝説的シリーズ最新作「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」(以下、MGSV:TPP、カナ表記:メタルギア ソリッド Vファントムペイン)が7年の歳月を経てついに完成。小島監督と公私共に交流があり、シリーズの大ファンでもある作家・万城目学(「鴨川ホルモー」「偉大なる、しゅららぼん」「とっぴんぱらりの風太郎」)が同作をプレイ。新作と共に、常に新たな挑戦を続ける小島監督の魅力を語った。(取材:シネマトゥデイ編集部・入倉功一)

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万城目学先生

■小島作品は常に新しい!

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© Konami Digital Entertainment

Q:ゲームと文学という違う世界で活躍するお二人ですが、出会われたきっかけは?

「METAL GEAR SOLID PEACE WALKER」が出る前に、ある雑誌の対談企画でお会いしたのが最初です。小説家デビューして10年くらいになるのですが、対談ってほとんどしていないんです。でもこのときは小島監督ということで、ぜひやりますと。

Q:「メタルギア」シリーズはずっとプレイされていたのですね。

初めてプレイしたのは「METAL GEAR SOLID 2 SUBSTANCE」なので、時系列ではないんですけどね。26歳のときに小説家になろうと思って会社を辞めて無職になったんですけど、実際は部屋にこもってゲームしまくりで(笑)。書かなくちゃいけないのだけれど、しんどいからついついゲームショップに行ってしまう。それまでもゲームは好きでアンテナは張っていたはずなのに、なぜか「メタルギア」はスコンと抜けていて。やってみたら、もう面白くて面白くて、会社を辞めた理由を見失い……そしたらデビュー前に「METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER」が出て、これがまた面白くて面白くて、会社を辞めた理由をまた見失い……という(笑)。無事、デビューできて、よかったです。

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© Konami Digital Entertainment

Q:まさに憧れの人との初対面だったわけですね。

小島さんは僕より10歳以上先輩なのに(万城目学39歳・小島監督52歳)なのに、本当に、不思議なくらい敬意を示してくれるんです。こっちなんて、まだペーペーですよって感じだったのに。ずっと好きだった人が、「万城目さんの小説おもろいで!」って言ってくれる。そんなのもう、コロっといっちゃいますよね(笑)。

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小島監督との初対面を振り返る万城目先生

Q:小島監督は、先生の作品をどのように評価されていらしたのですか?

世界で通じるって言ってくれましたね。いけるで! って(笑)。評論家のように言葉を尽くしたりしないで、もっと直感的というか。おもろいものはおもろい、つまらんものはつまらんと、厳しくも優しく評価してくれる感じです。「とっぴんぱらりの風太郎」という小説を出したときも、「普通、こんなタイトルだったら売れへんのやけど、売れるからすごい」という感じで、戦国時代を舞台にした忍者の話を書いても、ジャンルが“万城目”になるという表現で評価してくれました。

Q:万城目先生は小島作品の魅力はどこにあると思われますか?

ゲームの歴史において、完全に新しいものを経験しているという実感が得られるところですね。人って、それまでやったことがないもの、新しいものに触れたときが一番うれしくて、面白さを感じると思うんです。それって、一番ぜいたくなことで。しかも、ジャンルが成熟し、時間が経てばたつほど新しいものを生みだすのは難しくなるのに、小島さんは毎回新しい面白さをどんどん提供してくれる。普通はできないですよ。

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スネークといえばダンボール! 今回も大活躍!© Konami Digital Entertainment

初めて小島さんに会ったときは、ハードなストーリーで政治的なメッセージも含まれ、ときに暴力的な展開もあるけど、僕は「メタルギア」に含まれるユーモアの要素が一番好きだと伝えました。マッチョな性格の主人公が目的のためにずっと真面目に戦い続けるのを見るのって、僕はしんどいんです。でも「メタルギア」はところどころで主人公のスネークがダンボールに隠れたり、仲間から変な無線連絡が入ったり、そういう緩急があるから面白い。僕も小島さんも関西人なんですが、監督もそれは「関西人のDNAや」とおっしゃっていましたね。真面目とユーモアが常に両輪を形成している。意外とそのバランスを取るのって難しいんですが、絶妙なところで成り立っている。

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随所に仕込まれたユーモアも小島作品の魅力 © Konami Digital Entertainment

今回の「MGSV:TPP」でも、狼犬がスネークの相棒になるんですけど、その狼犬を子犬の状態で保護して、フルトン回収(回収対象とワイヤーでつながった気球を航空機のフックに引っ掛けて回収するシステム)するんです。そうすると、本部で待っているカズヒラ・ミラーが無線ですごく喜ぶんですよ。「ヤッホー!」みたいな。今までと違うテンションで不意打ちみたいに言ってくるから、くそ、笑ってもうた、くやしい! ってなるんです。

■壮大な物語と没入感!「メタルギア」最新作

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広大なマップで自由潜入が楽しめる! © Konami Digital Entertainment

Q:そんな小島監督の最新作「MGSV:TPP」をプレイしてみて、いかがでしたか?

10時間ほどプレイしたのですが、まだ何をやっているのか全くわかっていません。ゲーム的に迷子になっているという意味ではなくて、全体像が見えない。物語の見せ方が今までと全く違いますね。没入感もすごいので、熱中して忘れたころに次の展開がやってくる感じです。でも、ひそかに実はこういう超絶展開が待ち受けているのではないかと予想しているところもあります。これからの答え合わせが楽しみです。

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移動の一瞬一瞬が楽しい! © Konami Digital Entertainment

Q:オープンワールドの広大なマップも見どころですが、移動が大変だったりはしませんか?

1秒も退屈を感じることはないですよ。景色を見てきれいだな~と思ったり、たどり着くまでに兵士が配置されたりしているから、緊張感もあります。再プレイのときも、1度やられたから今度は慎重に行こうと、心に戒めている間に目的地に着いてしまいます。

Q:かなり長く楽しめそうですけど、時間が取られますね……。

歳をとって頭の柔軟性が失われているせいもあると思うのですが、最近ゲームを再開するときが苦痛なんですよ。1か月も時間が空くと(操作方法を)忘れちゃう。それをまた一から思い出すのがしんどくて。でも、実は今回、「MGSV:TPP」を1か月空けてから二度目をお試しプレイしたのに、全くストレスなく再開できるんです。これは、絶対にお客にストレスを感じさせないという、小島さんのこだわりだと思います。ほんの少しのやりにくさがやる気を損なうなんてこと、意識しない制作者は一生気付かないままと思うんです。でも、そこはさすが小島監督、繊細ですよね。持論ですが、メガネにこだわりを持つ人は、繊細です。

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ユーザーのやりやすさを追求したメニュー画面

小島さんのゲームで際立っているのが、メニュー画面なんかに出てくる情報の整理のされ方。行きたい項目にスッといけるあの流れるようなスムーズさが本当に好きで、やっていて気持ちがいいですね。整理された机を眺めるような感じで。以前、小島さんにゲーム以外でトライしてほしいこと、という話題になったとき、オフィス機器や文具を設計してほしいって伝えました。机の配置とか引き出しの中身とか、最高に仕事をしやすいデザインを考えてくれそうじゃないですか(笑)。

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英語版ではキーファー・サザーランドを声優に起用。しっかりと話します! © Konami Digital Entertainment

Q:主人公スネークの変化はいかがでしたか?

本当に序盤をプレイしただけなので、まだ全然しゃべらないんですよ。小島さんにあんまりスネークしゃべらないですねって聞いたら、(英語版声優の)キーファー(・サザーランド)にお金掛かるから、拘束時間少なめで済むようにしてんねんって、身もふたもないことをおっしゃられていました。本当かなのか、冗談なのか、わからないですけど(笑)。実際には、「MGSV:TPP」はリニアなゲームではない、オープンワールド=自由潜入なので、感情はあるものの、プレーヤーに寄り添いプレーヤー自身が感情移入をしやすいように、あえてしゃべらないんです。その分、周囲のキャラクターたちが話し、物語は進行するんだそうです。

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かなりイカした奴になっている? オセロット © Konami Digital Entertainment

Q:そのほかのキャラクターの変化も気になります。

本拠地のマザーベースにオセロットがいるんですが、何でスネークといるのかも、序盤ではわからないんですよ。しかも、3ではすごくねっとりした話し方をするヤツだったのが、あっさりした……イカした岩城滉一みたいになってて(笑)。犬をフルトン回収すると「俺が育ててやる……」とか言って同一人物とは思えない。だから、これからどう裏切られていくのか? が楽しみです。絶対に「え~!」の連続になると思うので。とにかく、とんでもなく際立ったゲームであることは間違いないですね。やりながら期待が膨らんでいく。楽しさがコントローラー越しに伝わってくる。PS4買ってからこんな楽しみを与えてくれるものは初めてです。あらためて小島さんのことを尊敬しますね。

■変態が作らないとダメ!面白さの秘訣とは?

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Q:小島監督との交流が先生の作品に影響を与えたりはされていますか?

初めて小島さんに対談でお会いしたとき、僕は、自分が小説を書くときに何をやっているのか、わかっていなかったんです。対談のなかで、小島さんが創作の作法というのでしょうか、まずルールを作ると。そうしたら、その中でできることできないことがはっきりするから、本編に取りかかっても、逸脱しないし、矛盾やおかしなことが出てこないみたいなことをおっしゃっていて。自分もそれまで同じ作業を、小説を書き始める前にやっていたのですが、「そうか、物語のルールを作っていたのか」と初めて言葉で理解したんです。ずっと、無意識にやっていたので。登場人物は最初に決めたルールの中で思考をするので、つじつまが合わないことが出てこない。このやり方だと、最初は「何の話?」と読み手は思っても、少しずつ確実に、全体像が伝わっていくと思うんです。

Q:とても論理的な思考に基づいて書いていらっしゃるんですね。

あいまいに「世界観」という言葉で表現されがちですが、こうして説明すると結構理詰めですね(笑)。最近、小島さんとお話をしていてなるほどなと思ったのが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が何で説明がないのにあれだけ面白いのかということに関する考察で、全部が考えぬかれているからだ、というものです。映画に登場するあらゆるものが細部に至るまで、その意味、その理由を、ルールももちろん、作り手の頭の中で事前に考えられ、用意されている。だから、映像を通して自然にこちらにも伝わると。もしいい加減な詰め方だと、あれは変だとか、何でこういうことするのかとか、観客側に疑問が生まれてしまう。

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小島監督は明るい変態? 自論を展開する万城目先生

まるで映画の観賞後のような感覚を人に与えるゲームが作れるのは、それこそ小島監督が考えぬいているからこそだと思います。自分の仕事について、ずっと考えている人なんですよね、小島さんは。小島さんと話すと、いつも自分の頭の中が整理されるお土産をもらえるような気がします。

Q:しかも映画と違って、ゲームは何十時間もの作品の細部を考えなくてはいけませんよね……。

これは何事もそうなんですけど、やっぱり変態が作らないとだめですよね。変態だけが、壁を突破する。普通の人や、そこそこできる人が作ったものでは満足できない。際立ったものは生まれないですよ。小島さんが変態って、何だか言いづらいですが(笑)。いや、言ってしまえ、変態! 変態! でもそういう人が作らないと。小島さんはどっちかというと明るい変態ですけどね。ユーモアを入れざるをえないところとか。ご本人は、僕は根暗ですとか、おっしゃいますけど。

■属する場所は関係ない小島監督に求めるもの…

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「TPP」を作り上げた小島監督が目指す先には何が? © Konami Digital Entertainment

Q:小島監督は映画好きで知られていますが、万城目先生がお好きな映画は?

1980年代の古きよき娯楽作ですね。(今日Tシャツを着てきた)『ゴーストバスターズ』は小学生のころ大好きでしたし、スティーヴン・スピルバーグ監督の作品も大好き。自分の作品にも80年代映画のテイストは入っていますね。主人公がある日、非日常な世界に迷いこんで、最後はまた日常に戻ってくるという王道パターンです。結局、人って小学校のときに好きだった物語に回帰していくんだと思います。『グーニーズ』とか『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』とか。『フィールド・オブ・ドリームス』『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』のような、少し変わっているけどロマンチックな作品もお気に入りです。

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この日は『ゴーストバスターズ』で登場した万城目先生

Q:小島監督から新作を薦められたりはしないんですか?

します。けど小島監督って、ちょっと浜村淳さん的なところがあるんですよ。いつも8割方内容を説明してくれるから、もうそれは観ないでええかなみたいになる(笑)。この前、最後の10分あたりまで丁寧に説明してもらった作品がおもしろそうなので、今度レンタルしにいこうかなと思っていたら、たった今シネマトゥデイさんに「それ公開前のものです」と知らされ、ひそかに衝撃を受けています(笑)。もちろん、小島さんに説明をしてもらったぜいたくさはあるんですけど……。

Q:小島監督、何でも観ていらっしゃいますからね……。

僕も好きな海外ドラマもよく観ていて。レンタルや配信じゃなくて、ちゃんとDVDボックスを買って観る、って言っていましたね。それは(作り手への)礼儀やみたいな。それに、どんな小説家より本も読んでいると思いますよ。対談とかでも、好きな本の名前がすらすらと出てきて、感心します。

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滅びゆくもののかなしみ、エモーショナルな感情に訴える「MGSV:TPP」 © Konami Digital Entertainment

Q:「メタルギア」もハリウッド映画化の話がありますけど。

どやろなぁ……。もちろん観たいですけど、多分、日本人特有の切なさとかは表現しきれない気がするなあ。滅びゆくもののかなしみとか、置いていかれるものの孤独とか。無常感といいますか、言わない中にあるものを表現するというのはね……。ただ、もともとゲームのほうこそ、繊細なものが表現できる場所とは、誰からも思われていなかったはずです。その固定観念を覆して、「メタルギア」は文学的な心情もゲーム内で表現でき、かつ、プレーヤーに伝播できるものだと教えてくれた。「メタルギア」が生まれて28年ですか? どうやったらこんな大河小説に匹敵するストーリーを作りあげられるのか、想像がつかないです。

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© Konami Digital Entertainment

Q:ここまでの物を作りあげた小島監督に、今後どんな道を歩んでいってほしいですか?

これだけの大きな絵を描ける人ですから、自分の描いた絵に一番忠実な表現ができる道を選んでほしいですね。どこに属するとかは関係なく。自分の絵をもっとも大きく表現できる場を選んで、そこに打ち込んでほしいですね。

Q:それはゲームに限らず?

いつか監督も、映画の世界に進むことがあるのかもしれませんが、すでに今の時点で、中島敦の「名人伝」のように、小島さんの中でゲームと映画の境界ってかなりあいまいになっているんじゃないですかね? ただ映画は、大コケしたらつらいですから。大借金ですから。二つのジャンルで成功するっていうのは奇跡のようなものですので、そこに関しては小島ファンの僕でもわからないです(笑)。

万城目学(まきめ・まなぶ) 小説家1976年大阪府生まれ。2006年に「鴨川ホルモー」でデビュー。代表作に「鹿男あをによし」「偉大なる、しゅららぼん」「とっぴんぱらりの風太郎」など。

「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」は9月2日発売(PlayStation 4 / PlayStation 3 / XboxOne / Xbox360 / PC)パッケージ版 / ダウンロード版あり 価格:8,400円(税抜き) PC版は9月16日発売
オフィシャルサイト

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