シネマトゥデイ

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広末涼子
『はなちゃんのみそ汁』
お母さんはやっぱり怖い
『はなちゃんのみそ汁』広末涼子 単独インタビュー

取材・文:高山亜紀 写真:奥山智明

幼い娘・はなちゃんを残し、がんのため33歳の若さで亡くなった安武千恵さん。彼女が家族との日々を前向きに綴ったブログはエッセイ「はなちゃんのみそ汁」となり、日本中で注目され社会現象を巻き起こした。わが子に料理を通して生きていくための術を伝える母と懸命に応えようとする娘。テレビではなちゃんの姿を観た瞬間、心を揺さぶられたという広末涼子が、余命を覚悟しながら最後まで明るく元気でいようとした母親を好演。役にかけた思いを語った。

■目指したのは怖い母親!?

Q:原作はどんな形で知りましたか?

ドキュメンタリーの一部か、もしくは番組の特集を観たのかが定かではないのですが、はなちゃんが台所に立っている映像を拝見したことがあったんです。その姿だけで、なんでこんなに心を揺さぶられるのだろうと思ったことを覚えていたので、映画化のお話をいただいた時は「ぜひ演じさせてください」とお返事しました。ドラマ化される前のことで、原作やドキュメンタリーなどに触れ、改めてストーリーを知りました。

Q:実在の人物を演じるプレッシャーはありましたか?

原作があると役者はみんな、ある程度のプレッシャーを感じると思います。活字から想像する世界は人それぞれ違いますし、好きであればあるほどイメージが強い。先入観のあるものにアプローチするのは難しく、プレッシャーもあります。それに加えて、実在する人物を演じさせていただくことは責任重大ですので、命がけで演じようと思いました。

Q:千恵さんの夫である原作者の安武信吾さんから、映画化にあたり何か要望はありましたか?

信吾さんもはなちゃんも、私が千恵さんを演じることをとても喜んでくださり、映画化も楽しみにしてくださっていたので、とにかく笑顔を大切に、生きることに誠実に、千恵さんを思いっきり演じることが一番だと思いました。当初は、できる限り二人のイメージ通りのママ・千恵さんを演じたいと思っていたので、はなちゃんにママのことを聞いたのはこの質問が最初で最後だったのですが、「どんなママだった?」と聞いたら、「怒ったらすっごい怖い」って(笑)。はなちゃんは「自分の心のなかにママは生きている」と言っているので、私も感傷的にならずに、彼女に対しても、演技にも、「辛い・苦しい・悲しい・かわいそう」というのは全くなくし、精一杯生きることに向き合うスタイルでいたいと思いました。

Q:確かに千恵がはなちゃんに怒るシーンは怖かったです(笑)。

母親って、やっぱり怖いですよね(笑)。父親と違って、毎日の生活で子どもの人生に関わっていく一番身近な存在。もしかしたら恋人や夫婦よりも正直にぶつかり合える関係なのかもしれません。今回は役と自分が同化していたので、感情を作ったり気持ちを積み上げたりするようなことはありませんでした。だからこそ、できる限り子どもとのフラットなやりとりを大切にしたいと思いました。子どもに媚びたり過剰にかわいがったりするのではなく、日常的な母親、当たり前の生活感のようなものが出るといいなと思いました。

■広末以上に泣き虫だった滝藤賢一

Q:はなちゃん役の赤松えみなちゃんから、自然な表情を引き出していましたね。

彼女は撮影当時、4歳でお芝居をするのがほぼ初めてだったんです。一か月もない撮影期間で、一日の撮影量も多く、寒い中での撮影も多かったので、彼女の体調やテンションが心配でした。「とにかく楽しく現場に来てくれれば」というのがみんなの願いだったんです。お芝居に慣れている子は、たくさんいたと思いますが、はなちゃん役に求めるのはそういうことではなく、彼女が生き生きといてくれるだけで幸せな気持ちになる、そういう子どものリアリティーが映画のエッセンスになってくれたらというのが監督の思いでしたし、周りのスタッフも同じ気持ちでした。

Q:滝藤さん演じる信吾との家族の相性もよかったです。

作品全体がシリアスになりすぎないよう、滝藤さんには笑いの部分を担ってもらっていたところがありました。感動作や泣ける映画とは違う、新しいジャンルの笑って泣ける作品だと私は思っているのですが、滝藤さんのお芝居はその要素を最大限に引き出してくださったのではないでしょうか。千恵さんの病気のことが心配で、はなのことが愛しくて仕方ないという気持ちがいつもあふれていて、だからこそキュンとさせられるシーンがいくつもありました。私も泣き虫ですが、滝藤さんはそれ以上。すぐ泣いてしまうので、とっても愛情深い方なんだなと思いました。特にクライマックスのコンサートのシーンはテストでもカメラに映ってないところでも号泣されてしまいました(笑)。

Q:あのシーンは誰もが泣いてしまうと思います。広末さんの歌声も素敵でした。

ありがとうございます。声楽を学ばれている方の立ち姿など、基礎は学びましたが、あの場面は病状などで声が出にくくなっている時期で、かつ感情を歌に乗せるというお芝居とのバランスが大切でした。なので、きれいに声を出すことよりも、どれくらい抑えてどの程度ちゃんと歌えていいのか、監督と何度も話し合いました。一青(窈)さんが作ってくださった歌が本当に素敵で、絶対にいいシーンになるとわかっていただけに難しかったです。

■家族ができて、食事への意識が変わった

Q:この作品で食の大切さを知る人も多いはず。広末さん自身、影響を受けたことはありますか。

私も食事は大事だと思います。特に自分が一人だった時と違い、家族ができたことで意識が変わりました。食事は内容だけでなく、リズム、季節感など、大切にしなくてはならないことが色々あります。それを感じさせてくれるのが家族。自分もそうやって、母親に育ててもらったんだなと気付かされました。いま、お仕事されている女性が多いですが、忙しいなかで何を家族と共有できて何で繋がれるのかと考えた時に、食事はとても大きいと思うんです。一緒に食卓を囲むことはもちろん大切ですが、一緒に食べられない時に料理に愛情を吹き込むことも大事。そうやって繋がっていけることは母親の仕事というだけでなく幸せだと私は思います。

Q:広末さんが一番、最初に作った料理って覚えていますか。

お料理ではありませんが、キュウリを切るのが好きでした。私の母は必ず食卓にサラダを出すのですが、母がキュウリを素早く切るのを見て、お料理上手に見えたのでしょう。それだけを練習していました。タタタタタ~ッとリズムよく切るのが憧れ。しかも二本、並べて切るのが難しくて。高校生になるまで、キュウリを切ることしかできませんでした(笑)。

Q:広末さんが伝えたい料理はなんでしょう?

ジャンルを限らず、何でも作りますが、子どもから大人まで好きな洋食が得意ですね。ハンバーグ、カレー、オムライス……。それからおみそ汁もそうですが、スープなど、体が温まるものは料理法もシンプル。切って、入れて、煮て、素材の味が活かせるので定番かなと思います。

Q:キュウリを切るだけから、すごい進歩ですね。

料理は場数です! あとは自分が食べることが好きということもそうですが、相手に食べてもらうことを想像して作るのも、料理好きになるポイントでしょうか。毎日のことだから、ローテーションが大変だと思いますが、それを楽しんで生活の一部にしていければ、きっとこの作品のようなあったかい家族に近づけると思います。

取材当日の装いはミニスカート。いつまでも変わらないキュートな姿で周囲を魅了していた広末涼子は、いつ取材しても明るく笑顔が素敵な女性だ。劇中でも「辛い・苦しい・悲しい・かわいそう」という感情を封印して、最後まで前向きだった千恵さんであり続けている。号泣コンビの夫役・滝藤賢一との息もぴったり。後味爽やかな仕上がりは、「泣ける映画」というより、広末のいう新しいジャンル「笑って泣ける」映画と呼ぶのがふさわしい。

(C) 2015「はなちゃんのみそ汁」フィルムパートナーズ

映画『はなちゃんのみそ汁』はテアトル新宿&福岡県内先行公開中 2016年1月9日より全国拡大公開

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