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松田龍平&前田敦子
『モヒカン故郷に帰る』
カッコ悪さの中にある魅力を見つけたい
『モヒカン故郷に帰る』松田龍平&前田敦子 単独インタビュー

取材・文:須永貴子 写真:金井尭子

『南極料理人』や『横道世之介』などの原作ものでも、『キツツキと雨』や『滝を見にいく』といったオリジナル脚本でも、一貫した独自のユーモアと人に対するあたたかな視点を刻印する映画作家、沖田修一監督。彼の最新作『モヒカン故郷に帰る』は、モヒカン頭のバンドマン・永吉が、妊娠した恋人の由佳を連れて7年ぶりに実家に帰ったところ、矢沢永吉を敬愛する父親のガンが発覚し……という家族の物語。永吉を演じた松田龍平と由佳を演じた前田敦子に、沖田組での映画づくりについて話を聞いた。

■主演俳優が現場のいい空気を作った

Q:初共演ですが、お互いに対してはどんな印象を持っていましたか?

松田龍平(以下、松田):なんとなくの雰囲気ですけど、楽しそうな人、元気がいっぱいありそうな人だなと(笑)。

前田敦子(以下、前田):私は、静かで寡黙で、真面目な方なんだろうなと思っていました。

Q:実際はいかがでした?

前田:楽しくて、すごく優しくて、いい人でした。意外と笑ってくれるので、イメージとのギャップにみんなやられちゃうんだと思います。役者ともスタッフとも分け隔てなくコミュニケーションをとってくれて、周りに気を遣わせないんです。主役の龍平さんが自然といい空気を作ってくれたから、みんながリラックスできる現場でした。

Q:松田さん、前田さんは実際に元気な人でした?

松田:予想以上でしたね(笑)。

前田:アハハ(笑)!

松田:明るくて、人に対して妙な壁を作らないから、以前から知っていたような感覚になりました。ロケ地の島の人とも楽しそうに話していましたね。あと、なんか、やたらみかんを食べてたよね?

前田:ずーっと食べてた(笑)。「はるか」っていう新種のみかんがすごくおいしくて、島のお母さんたちからいただいて、ひたすら食べてました。

■バンドマンと妊婦の役づくり

Q:それぞれの役づくりや、役の解釈について教えてください。松田さん演じる永吉は、緑色のモヒカン頭のインパクトが強烈です。

松田:モヒカンにはまったく抵抗はなかったです。内面的には、永吉は実は究極のバカなんじゃないか? と思って演じました。7年ぶりに実家に帰ったら、いきなり親父が余命宣告をされる。そこで父親に「じゃ、死ぬまでに何やりたい?」って聞けちゃうのは、達観しているわけじゃなく、バカなんだと思います(笑)。でも、親父に対して何か恩返しをしたいという強さや男らしさもある。そこが魅力的だなと思いましたし、カッコ悪さの中にあるその人の魅力を見つけたいという気持ちは以前よりも強くなりました。

前田:私が演じた由佳ちゃんには、監督の奥さんが妊娠しているときの面白い行動がたくさん盛り込まれているらしく、監督からリアルな話を聞きながら取り組むことができました。私、「妊婦さんはこういうものだ」という思い込みにとらわれないでやろうと思っていたんです。例えば、由佳ちゃんは前向きな性格なので、子供がお腹の中にいても走っちゃってもいいかな、とか。でも後日、本当の妊婦さんを見て「やりすぎたかも」と反省しました(笑)。

■好きなシーンは家族とのシーン

Q:好きなシーンをあげるならば?

松田:由佳とお母さん(もたいまさこ)の、2人だけのシーンがすごく好きです。

Q:ネイリストの由佳が、夜、ソファーで春子にマニキュアを塗るシーンですね。

松田:もたいさんが心配して「あんな息子でいいの?」って聞いて、それを受けた由佳の「ダイジョブダイジョブ!」っていう異様に高いテンションが面白くて(笑)。あのとき、お母さん(もたい)と、映画を観ているお客さんは同時に、「永吉と由佳はお似合いだな」と感じると思うんです。それって不思議だし、すごくいいシーンだなと思いますね。

前田:あのシーンは、たくさんカットを割って撮る予定だったんですけど、直前に「カメラ1台で、一発で撮りましょう」ということになったんです。ソファーの上に私ともたいさんがくっついて座って、カメラマンさんと監督と少人数のスタッフが囲むという、シンプルでこぢんまりとした撮り方がすごく好きでした。こういう親密な雰囲気になることが撮影中に何回かあって、楽しかったです。

Q:前田さんの好きなシーンというと?

前田:やっぱり家族げんかかなー(笑)。家族の前だと永吉がへらへらしちゃうのが可愛くて。あの永吉を見るときの、家族と観客の気持ちは同じだと思います。

Q:家族げんかにも、いろいろなバリエーションがありましたね。

松田:そうですね。もたいさんに思いっきり髪の毛を引っ張られたときは「アブね!」と思いました(笑)。あと、親父役の柄本明さんとちゃぶ台越しに種をぶつけ合うシーンでは、弟(千葉雄大)が途中で枝切りバサミを持って乱入してきて、やっぱり「アブね!」って。監督は常に、わちゃわちゃしてる感じを狙っていたと思います。

■沖田組に参加して得たもの

Q:松田さんは、沖田監督とすごく相性が良いと感じました。間や余白、何もしない時間をおそれない感覚がフィットしているというか。

松田:撮影現場はとにかく楽しかったです。監督は「自分の想像を超える何かが起きたらいいな、と思うことって当たり前だよな」と改めて感じさせてくれる人でした。起きるかどうかなんてわからないんだけど、ちゃんとそこを目指している人と一緒に映画をつくるのは楽しいし、ドキドキしましたね。家族の話だからそんなにすごい大事件が起きるわけじゃないんだけど、見る角度を変えたらだいぶ大事件だよなってところをちゃんと取り上げようとしていたと思います。見逃しても仕方のない繊細で微妙なニュアンスを、ちゃんと撮りたいと思っている監督の要求に応えるプレッシャーが心地よかったです。

Q:例えば、父親のために離島まで宅配ピザを取り寄せた後、永吉が3人の配達人にお礼を言うシーン。1人目、2人目とは力強くハグするのに、3人目のちょっと太った人とはやや距離をとる。ああいう笑いのさじ加減は、監督と相談したんですか?

松田:あれはなんとなくやりました。島の人がエキストラでたくさん参加してくれたんですけど、みんなすごく面白かったし、監督がそういう島の皆さんををどう撮りたいのかもわかったし。沖田組の人たちがみんな、監督のためにいろいろな提案や仕込みをする現場も居心地がすごく良かったです。

前田:監督も、いろいろなヒントをくれるんです。「こうやってください」じゃなくて「こういうの、面白いですよね」とか。由佳ちゃんは眉間にしわを寄せる癖があるんですけど、「ずっと寄せてたら面白いよね」って本当に楽しそうに言うんです。そういうキャッチボールがすごく楽しかったです。

Q:前田さんは、念願の沖田組だったそうですね。

前田:はい。監督の作品を初めて観たとき、おじさまがとにかく可愛いくて衝撃を受けたんです。今回も柄本明さん、おじさまじゃないけれど龍平さん、そして島の人たちがすごく魅力的。でも、誰よりも沖田監督が可愛すぎます! 私たち、役者陣から出てくるものを100%楽しんで、心から笑ってくれる。すごく温かくて幸せな現場でした。

広島県の瀬戸内海で行われた約1か月間のロケを振り返る2人からは、沖田監督への信頼と愛情、そして親密なコミュニケーションを重ねて「いい映画が完成した!」という確かな手応えが伝わってくる。ガンで死にゆく父親との別れを描く作品ながら、通り一遍のお涙頂戴ものでは終わらない。沖田映画らしいユーモアは健在どころかますます磨きがかかっている。そして、松田が「わちゃわちゃ感」と表現したエネルギッシュな祝祭感が、ある家族に訪れた生と死を描き出す。

映画『モヒカン故郷に帰る』は広島先行公開中、4月9日全国拡大公開

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