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第5回-杉良太郎の呼び掛けで始まった少年院映像表現コンクールの取り組み 映画製作を通じて更生へと導く

映画で何ができるのか

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法務省から特別矯正監を任命された杉良太郎の呼びかけ

昨年のアジア国際子ども映画祭の授賞式の模様。歌手の杉良太郎(写真中央)が名誉会長・審査員を務めている。
昨年のアジア国際子ども映画祭の授賞式の模様。歌手の杉良太郎(写真中央)が名誉会長・審査員を務めている。

 11月29日(土)、兵庫県・南あわじ市文化体育館で第8回アジア国際子ども映画祭(主催:アジア国際子ども映画祭実行委員会)が開催される。審査対象は、日本とアジア15か国の小・中・高校生、そして少年院から選ばれた作品たち。法務省矯正局では自主・自立、共同の精神を養う目的でさまざまな特別活動を行なっているが、その一環として映像表現を取り入れている。実際にどんな効果があるのか。関係者に話を聞いた。【取材・文:中山治美】

 現在、少年院は全国に52庁ある。更生のための規律正しい生活の中には、生活指導や職業補導、教科教育、保健・体育の時間が設けられている。そしてもう一つが、ボランティアや芸術に取り組む特別活動だ。刑務所での取り組みの例として韓国映画『ハーモニー 心をつなぐ歌』(2010)では合唱団、伊映画『塀の中のジュリアス・シーザー』(2012)では演劇に挑む姿が取り上げられていたが、日本の少年院でも宮城・青葉女子学園のように創作オペレッタに挑み保護者や施設協力者を招いての公演会を行なっているところもある。

 矯正局によると、映像表現を取り入れたのは2007年から。アジア国際子ども映画祭名誉会長であり、法務省から民間人初となる特別矯正監を任命された歌手俳優の杉良太郎の呼びかけがきっかけだ。10年からは、52庁全てで3分間の短編映画製作を行ない、それを審査する少年院映像表現コンクールも実施。本年度は優秀作3本がアジア国際子ども映画祭へ出品されている。活動の目的を杉が語る。

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「子供たちが作った映画には、彼らの心が映し出されています。大人が干渉せず、テーマに沿って子供たちの感覚で自由に撮らせていますが、彼らがどこにカメラを向け、どのように表現するか。そこに普段の考え方や物の捉え方が顕著に表れてます。

 また映画を作るには、その過程で自分が何を訴え、どのようにしたら想いを相手に伝えることができるかなど、あらゆることを模索し、考える作業が必要不可欠です。その方法を一生懸命考える……その経験が子どもたちを成長させると思います」。

撮影場所は院内限定

特別活動
特別活動の一環

 各年、映画祭側が設定したテーマがある。2011年は「学ぶこと(まなび)・教育」、2012年は「あなたにとっての命」、2013年は「いじめ」、そして今年は「わたしの夢」。公的機関が携わっているため、お堅い印象は否めない。それでもネット上にアップされている少年院映像表現コンクールの入賞作品を観賞すると、表現力の豊かさに驚かされるだろう。なにせ撮影場所は院内限定、個人が特定出来るような顔出しはNGと条件が限られている。ゆえに彼らは、時に紙粘土やイラストを用いたり、バックショットや手足だけで表現したり、さらに大胆にも、顔に手ぬぐいを覆って出演するなど創意工夫を凝らす。プロの映画人も、大いに刺激を受けるに違いない。

 審査員の一人として、毎年作品を見続けてきた杉が語る。
「取り組み始めた頃は空を映し出す映像がよく使われていました。そこには“現在は塀の中で生活している”という自己認識と塀の外への期待、出院後の希望というものが見受けられました。また、ちぎり絵で表現するなど時間をかけて撮るものが多かったのに対し、最近ではアニメ形式の作品が増えました。子どもたちの視点として命に向き合っている作品が多く、そこから子供の頃の愛情不足や、家族や周囲とのコミュニケーションに欠けて育ってきたことが伝わってくる作品が多いです」。

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他人とコミュニケーションをとるきっかけ

活動
特別活動として宮城・青葉女子学園では創作オペレッタ、兵庫・播磨学園では登山・レガッタ訓練も行われている。

 実際に、どのように製作されているのか。

 今年、『夢をつかむ』で優秀作品賞を受賞し、アジア国際子ども映画祭へ出品された神奈川医療少年院の工藤弘人首席専門官が明かす。「『夢をつかむ』は手を主人公に、イジメや万引きなど悪事に使っていたその手が、まさに夢をつかむようになるまでの作品です。担当職員2人が15~20人の少年たちと一緒に約1か月かけてアイデアを出しあいながら製作しました。今は編集ソフトもあるので、機材さえあれば特別な技術を必要としなくても私たちだけで映画が作れます。最初は恥ずかしがっていた子もいましたが、関わっていくうちに積極性が出てくるんです。また当院は医療少年院なので障害のある子もいます。彼らにとっても、他の子供たちとコミュニケーションを取る良い機会になります」。

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 同様の効果は、通常の子供映画教室でも見受けられ、それが今、全国各地で盛んに行われているだけでなく、教育のカリキュラムとしても取り入れようという動きがあるゆえんでもある。さらに少年院で重要視しているのは「自己肯定」や「達成感」だ。引き続き、工藤首席専門官が語る。

自己評価の低い子供たちに伝えたいこと

 「学校生活に適応出来ず、学校行事に参加してこなかった子が多いので、集団で何かに取り組むんで達成感を味わうとか、『やれば出来る』という経験も味わっていないので自己評価も低いんです。さらに恵まれない家庭の子供たちも多く、彼らは幸福のイメージを抱くことが出来ません。なので非行を反省させるのではなく、健全な生活の方が楽しいんだよということを特別活動を通して伝える努力をしています」。
 ただし、心の変容は目に見えるものではないため、こうした活動が世間に理解してもらうのは難しいかもしれない。しかし杉は、「彼らのメッセージを今後の家庭内教育に反映させることで、少年犯罪防止に役立てることができます」と力強く語る。

2014年の入賞作品は近々、YouTubeなどで公表

表
標準的な少年院の生活。朝から夜まで規律正しい生活が続いており、特別活動の時間を楽しみにしている子供たちも多いという。(法務省矯正局制作のパンフレット「希望を胸に 少年院のしおり」より)

 映画評論家であり、世界の犯罪史にも詳しい柳下毅一郎も語る。

 「米映画監督のジョン・ウォーターズは刑務所で講演をして『この次人を殺したくなっても、絶対にやらないでくれ……その代わり、文章や絵にするんだ』と言う。それから自作映画を見せると誰もが納得するという。少年院映像コンクールの出品作は必ずしも代償行為として作られているわけではあるまい。ごくごく教育的なテーマが与えられて、内容にも被写体にも制限がある。あくまでもそれは教育的意図で作られるものである。だが、いかなる教育作品であろうと、どこかでその制限を破って表現が突出する瞬間があるだろう。たとえば体育館にたくさんの本を並べてドミノ倒しを試みる作品(2013年の茨城・水府学院の『HEART』)。2千枚もの絵を描いてアニメーション撮影をしてみせた作品(2012年の青森少年院『命はどこから来てどこへ行くのか?』)。キュートな天使と悪魔の絵を描いて、実写アニメを作ってしまうもの(2011年の青森少年院『new birth』)。妙なファンシーさに少年少女たちの心の裡を感じずにはいられないのである」。

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 アジア国際子ども映画祭ではこれまで、2011年に関東医療少年院の『僕のこと キライ ですか』が入賞、2012年には青森少年院の『命はどこから来てどこへ行くのか?』が最優秀賞にあたる杉良太郎特別賞、2013年も関東医療少年院の『きみといっしょ』が杉良太郎特別賞を受賞するなど高い評価を受けている。これがきっかけで映画界へ……。そんな夢があってもいい。少年院映像表現コンクール2014年の入賞作品は近々、YouTubeなどで公表される。

少年院映像表現コンクール2011年入賞作品
https://www.youtube.com/watch?v=OdgYSHjnPCk

少年院映像表現コンクール2012年入賞作品
https://www.youtube.com/watch?v=-m0eD5020Qw

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