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ぐるっと!世界の映画祭

世界4大アニメーション映画祭の日本の地位って!?オタワ国際アニメーション映画祭

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【第89回】(カナダ)

 アヌシー 、ザグレブ、広島と並んで世界4大アニメーション映画祭と称されるカナダのオタワ国際アニメーション映画祭(以下、OIAF)。設立43周年を迎えた2019年(現地時間9月25日~29日開催)の長編コンペティション部門でグランプリを獲得したのは岩井澤健治監督『音楽』(2020年1月11日より新宿武蔵野館ほか順次全国公開)。2017年に湯浅政明監督が、『夜は短し歩けよ乙女』(2017)で日本人初の同部門グランプリに輝いたのに続いて2人目の快挙です。受賞の興奮を味わった岩井澤監督と松江哲明プロデューサーが現地の模様をリポートします。(取材・文:中山治美、写真:大橋裕之/ロックンロール・マウンテン/Tip Top)

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ByTowne Cinema
上映会場の一つByTowne Cinemaは、1947年開業の老舗映画館。

オタワ国際アニメーション映画祭公式サイトはこちら>>

北米最大級のアニメ映画祭

『音楽』
映画『音楽』より - (C) 大橋裕之/ロックンロール・マウンテン/Tip Top

 OIAFは1976年スタートで、主催は首都オタワ にあるカナディアン・フィルム・インスティチュート。当初は隔年開催(1984年、1986年を除く)で、1997年からはオタワ国際学生アニメーション映画祭と交互に行っていたが、2005年に合併。以降は毎年開催となった。2019年の応募本数は世界93か国から2,424本で、うち117本を長短編のコンペティション部門に選出。例年約2万5,000人が参加する。

岩井澤健治監督
上映会場であいさつをする岩井澤健治監督。

 過去の主な日本人監督の受賞は、2007年のネルバナ・グランプリ(最優秀インディペンデント・短編アニメーション)に山村浩二監督『カフカ 田舎医者』(2007)、2015年の最優秀インディペンデント・短編アニメーション賞と最優秀音響賞の2冠に二瓶紗吏奈監督『帽子をかぶった小さな人々』(2014)、2016年の最優秀実験・抽象アニメーション賞に折笠良監督『水準原点』(2015)、2017年のグランプリ(最優秀長編アニメーション)に湯浅政明監督が『夜は短し歩けよ乙女』(2017)、2018年の子供向け最優秀アニメーション賞(未就学児童部門)に宮澤真理監督『こにぎりくん オルゴール』(2017)が栄冠を得ている。

トロフィー
オタワ国際アニメーション映画祭のグランプリのトロフィーは、アニメーションの原点であるフェナキスティスコープをデザインしたもの。

 「今まで実写やドキュメンタリー映画祭に参加してきたので、アニメーション映画祭はまた全く雰囲気が違うので新鮮でした。メインは短編コンペティション部門で、学生や自主制作している人たちが中心。そういう人たちがこうした映画祭で出会い、刺激を受け合う。成長の場としての意義を感じました」(松江P)

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映画祭に作品を育ててもらう

岩井澤健治監督
観客と一緒に上映を見守った岩井澤健治監督。

 岩井澤監督の『音楽』は、大橋裕之の漫画が原作。楽器を触ったことのない不良学生たちが思いつきでバンドを組み、音楽に目覚めていく姿をシュールな笑いを散りばめながら描いた青春物語だ。原作に魅了された岩井澤監督が、個人で制作を始めたのが2012年。実写の動きをトレースする「ロトスコープ」という手法を使った。当初は2013年以内の完成を目指していたという。

記念撮影
オタワ国際アニメーション映画祭に参加していた皆さんと一緒に記念撮影。

 「『音楽』の前に制作した大橋裕之さん原作の短編アニメーション『山』が上映時間9分で1か月半かかったので、その8倍とみて1年ぐらいかかるかなと」(岩井澤監督)

劇場内
上映会場ByTowne Cinemaの劇場内の様子。

 作画数は4万枚超え。岩井澤監督はアルバイトで製作費を捻出しつつ制作に勤しみ、気づけば完成まで7年の歳月が経っていた。当初から国際映画祭に出品することを考慮に入れていたが、完成時期が流動的だったので目指す場所は揺れた。

映画祭グッズ
ByTowne Cinemaのロビーでは、映画祭グッズなどが売られていた。

 「宣伝効果を考えて映画祭出品を、できれば著名なアニメーション映画祭を考慮しました。初夏に開催されるザグレブ国際アニメーション映画祭(クロアチア)やアヌシー国際アニメーション映画祭(フランス)は時期的に無理。広島国際アニメーションフェスティバルは長編部門がないので、OIAFには絶対出そうと思いました」(岩井澤監督)

海獣の子
日本ではなかなか見られない並びですが…同じ長編コンペティション部門に選出されていた渡辺歩監督『海獣の子供』と同じポスターに。

 「僕自身、自分の映画(山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門特別賞受賞の『あんにょんキムチ』、東京国際映画祭観客賞受賞の『フラッシュバックメモリーズ 3D』)は映画祭に育ててもらったと思っています。そういう育て方をしないとインディペンデント映画はなかなか世に広まらない。秋の映画祭に出していけば、公開前の良い宣伝につながるのではないかと考えました」(松江P)

 作品は、映画祭応募サイトなどを通してではなく、OIAFに直接申請した。実はその時点では一部、未完成の部分があったという。それでも長編コンペティション部門作7本の中に選ばれた。

 「上映する時は、さらにバージョンが上がりますと(笑)。そうした情報を付け加えるのも大事かと思います」(松江P)

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力作ぞろいのコンペ

オタワの国会議事堂
オタワのシンボル国会議事堂をバックに。

 長編コンペティション部門には、話題作がそろった。アヌシーで最高賞を手にしたジェレミー・クラパン監督『失くした体』をはじめ、同じくアヌシー参加組のギンツ・ジルバロディス監督『アウェイ』、アンカ・ダミアン監督『マローナの素晴らしき旅』、渡辺歩監督『海獣の子供』、カンヌ国際映画祭ある視点部門に選ばれたザブー・ブライトマンエレア・ゴべ=メヴェレック監督『カブールのツバメ』。伏兵はアメリカのメリーランド映画祭で上映されたアルバート・バーニー監督『タックス・アンド・ファニー(原題) / Tux and Fanny』で、ここがワールドプレミアとなるのは『音楽』だった。

 「バラエティー豊かにセレクションしたなという印象を受けました。ただ『アウェイ』も『失くした体』も抽象的な作品ですが、エンタメ性や映画性という点で選ばれたのだなと思いました」(松江P)

巨大クモ「ママン」
オタワにもいた!六本木ヒルズ、スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館にもある彫刻家ルイーズ・ブルジョワの巨大クモ「ママン」。

 上映は2回。会場には、日本のアニメ好きや学生など若い観客が多かったという。

カタログを手に岩井澤監督
カタログを手にする岩井澤健治監督。

 「上映中の反応がすごく良かった」(岩井澤監督)

 「手をたたきながら笑いが起こるんです。音楽リテラシーの高い人たちが、劇中の、音楽へオマージュを捧げたシーンにいち早く気づいて、喜びを共有し合う。そんな雰囲気がありました」(松江P)

 上映後のQ&Aはなかったが、参加ディレクターが交流する場があったという。

 「『なぜロトスコープを使ったのか?』とか、『どんな作品に影響を受けたのか?』など聞かれました。アキ・カウリスマキ監督作品の名前を挙げると『あぁ、なるほどね』という反応が返ってきました。僕自身、『音楽』を作り始めてからアニメーションを観はじめたばかりで、まだ掘り下げるまでには至っていないんです。実写の方が観ていますね」(岩井澤監督)

 「北野武、小津安二郎など日本映画の引き算のスタイルを感じ取ってくれたのがうれしかったです。岩井澤さんは元々、石井輝男監督に師事するなど実写からスタートしています。そもそも大橋(裕之)さんの原作をアニメ化しようとした時、商業ではムリだと思っていました。アニメを製作する際、原作が何万部売れているだとか、ボイスキャストが誰とか、物作りが数字で捉えられている傾向があります。そのアニメーションに対する先入観が邪魔になると思っていたので、そうした影響を受けずに製作できたのが良かったなと思っています。ただ(スタッフを大量動員しての手描きか、CG使用が主流の)アニメーションの作り方としては相当無謀と言われましたけどね(苦笑)」(松江P)

 そしてアニメーターなど6人の審査員によって、グランプリに選ばれた。受賞理由は「登場人物の多彩な魅力を損なうことがない、そぎ落とされたストーリーテリングの勝利。カットの完璧なタイミング、デザインの簡潔性、アニメーションというメディアに対する喜びに満ちた祝辞であることに特に感銘を受けた」というもの。副賞はないが、トロフィーが贈られた。その時は作品名と監督名が入ったプレートが付いておらず、後送されるそうだが「まだですね」と岩井澤監督。せめて映画公開日までには届いてほしいものだが、間に合うか!?

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オタワ決定で海外から連絡が

トクマルシューゴ、岩井澤健治監督、大橋裕之
新千歳空港国際アニメーション映画祭長編コンペティション部門での上映は爆音上映+ミニライブ付きで行われた。写真左からライブを行った音楽家トクマルシューゴ、岩井澤健治監督、原作者の大橋裕之。

 OIAF参加後、『音楽』は新千歳空港国際アニメーション映画祭(11月1日~4日)、英国・ロンドン国際アニメーション映画祭(11月29日~12月8日)を始め、すでに国内外の映画祭での一人歩きを始めた。中でも台湾の台中国際アニメーション映画祭(10月11日~20日)からは、OIAFのラインナップが発表になったすぐ後に出品要請の連絡が入ったという。OIAFの影響力の大きさを感じるエピソードだ。ただし台風19号の影響を受けて岩井澤監督が渡航できず、松江Pのみで参加した。

台湾の上映会場
台湾の上映会場の様子。

 「まだ2019年が5回目の開催だったのですが、質疑応答も記者のインタビューの内容も非常に質が高くて、この映画祭が今後、成長していくことを感じました。お土産はすごく多くて、バイクのヘルメットまで。スポンサー企業による提供で、原付バイク利用者の多い台湾ならでは。ただ持ち帰るにはかさばるので、他の方に譲りました(苦笑)」(松江P)

 また新千歳空港国際アニメーション映画祭では、思わぬ歓待を受けたという。

 「僕が長年制作していることを知っている方が多かったので、これは応援しようと、(こちら側に)乗っかってくれている感じがしました」(岩井澤監督)

 「岩井澤さん、やっとできたね! という感じがありました。岩井澤さん一人だけじゃない、同じようにアニメーションの現場で戦っている方たちの夢を背負っていたのだなと実感しました」(松江P)

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グランプリだけど助成受けられず

ランチ
オタワのおしゃれスポット、バイワード・マーケットでランチ。

 OIAFは、長編コンペティション部門での参加だが宿泊のみ招待で、渡航費は自費。これがなかなかインディペンデントの監督が遠方の映画祭に参加しにくい理由でもあるのだが、そのサポートをしてくれるのが文化庁の委託事業として公益財団法人ユニジャパンが行っている海外映画祭出品支援事業。海外映画祭出品に伴う外国語字幕制作や、参加時の海外渡航費を支援するものだ。これまではどの映画祭でも申請できたが、2019年度(平成31年度)から支援対象映画祭が指定され、なぜかそこにOIAFはない。つまり『音楽』はグランプリを受賞したものの、申請すら受け付けてもらえなくなってしまった。

地球温暖化対策を訴える学生デモ
映画祭会期中、地球温暖化対策を訴える学生デモが行われていた。世界中の子供たちが怒りの声を上げている!

 「海外では、ディズニー作品のように商業映画の冒頭に短編映画が上映されるような環境があるが、日本はない。短編を制作している若いクリエーターにとってOIAFのような映画祭に参加するのは良い機会のはずだが、支援がないのは残念」(松江P)

 何より岩井澤監督と松江Pは、『音楽』で完成だとは思っていない。この経験を生かして、次回作も考えているという。

 「今回は7年かかったけれど、次はもっと短期間で製作できると思う。これが始まりの1本。そうしないといけない」(松江P)

 「実写の制作会社が、アニメーションを手がけるような動きが出てきても良いと思います」(岩井澤監督)

 少数精鋭チームで作り上げた映画が、一つの作品の枠を超えて、アニメーション業界と映画業界の両方に大きな刺激を与えるかもしれない。

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