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200ドルを手に上京…俳優・声優として成功への道のりって?津嘉山正種が語る

声優伝説

「野心を持ってアテる」津嘉山正種さん
「野心を持ってアテる」津嘉山正種さん

 俳優としてドラマや舞台などで渋い役柄を演じ、声優としてはハリウッドスターのケビン・コスナーロバート・デ・ニーロらの吹き替えでおなじみの津嘉山正種(つかやままさね)さん。出身地である沖縄県から上京後、現在の地位を築くまでには苦労があっただけに、確固たる哲学を持つ。声優の仕事では「野心を持ってアテる(吹き替える)」と意欲をあらわにする津嘉山さんが、俳優・声優として歩んだ道のりを明かした。(取材・文:岩崎郁子)

■本土復帰前の沖縄から200ドルを手に上京!

 津嘉山さんが上京したのは、まだ沖縄が本土復帰前だった1964年。地元のテレビ局で番組制作に携わっていたが、ドラマ作りなどの役に立てたいと芝居の勉強をするために退社した。パスポートと1年間で貯めた200ドル(1ドル360円計算で約7万円)を持って決意の上京も、「養成所などの願書の締め切りがどこも終わっていてね。何も調べず、ただ“思い”だけで上京して、浅はかだったと反省しました」。それでも、知人に教えられた劇団青年座を受験。「70人くらい候補者がいて、3日間テスト。リズム感、音感、体操、そしてパントマイム……」とその内容を振り返る。面接では、故・山岡久乃さんから経済的な面について「アルバイトをしないとダメなのね」と聞かれたともいうが、「何とかします」と言い切り、研究生として所属が決まったそう。その言葉通り、夜はバーテンダーのアルバイトをしながら毎日レッスンに打ち込み、7年かけて劇団員になった。「3年で沖縄に帰るつもりでしたが、俳優として何か1つでも身につけてから、と意地で頑張りました」。

■声優集結!“コジャック会”って?

 舞台などで活動する一方、30歳頃からはアニメや映画、海外ドラマなどの吹き替えでも頭角を現していった。自ら代表作と言い、思い入れが強いのが1975年から日本でも放送された米ドラマ「刑事コジャック」。津嘉山さんは、主人公・コジャック(声:森山周一郎さん)の部下・クロッカー役を務めた。「初のレギュラーでしたが、収録では毎回、私がNGを出していましたね。慣れていなく若くて……でも、ストーリーもさることながら、役者の個性、カメラワークや編集など、本当にすてきな作品でした。随分と鍛えられました」。同ドラマのレギュラー陣による“コジャック会”もあったのだとか。「『コジャック』は良いチームでした。僕が幹事でね。積み立てして年に1回旅行をしていました。ドラマが終わっても、会は続いて、旅行中にコジャック(を演じたテリー・サヴァラス)の死去があり、献杯をしたことも……」と述懐する。

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■声の演技を通じた疑似恋愛はやっぱりあった

 以後、40年以上にわたり俳優、声優として活躍。「舞台などの仕事とアテレコで、一番違うのは、アテレコは自分の呼吸じゃないこと。なおかつ(もとが)英語だから、翻訳台本の出来が一番影響してくる。ディレクターと声優が現場で、翻訳の作業をしながらアテレコしたり」と声優の仕事のおもしろさも知り尽くしている。小原乃梨子さんがかつてインタビューで、津嘉山さんと『ライアンの娘』で共演した際、演技で声のやり取りをするうちに疑似恋愛のような感情を抱いたと話していたことについては、「(そういうことは)ありますよ~。僕もありますね」と同意。その相手は池田昌子さんで、ラブストーリーに出演した時だった。「画面に向かって、原音を片方の耳で聞いて声を出し、片方の耳で池田さんの声を聞いていると、ひどく心に響くんです。恋しちゃうというのかな、とても愛おしくなるんですね。終わった後に、一緒に飲みませんか? って。作品は思い出せないのですが」とドキッとするエピソードを明かした。

■目指すはオリジナルより質の高い吹き替え

 数々の経験を重ねて得た声優としての持論も語る。洋画が日本公開される際に字幕版より、日本語吹き替え版の方がはるかに作品の質が上がったと思われるような吹き替えが目標だという津嘉山さん。「字幕では、限られた文字数で(セリフの)3分の1程の情報しか得られないけど、アテレコになって初めてよくわかったと理解度が深まると同時に作品が本来持っている品格や、出演者の大俳優たち、デ・ニーロやアル・パチーノ(の演技)を超えてやろうと野心を持って彼たちをアテる。アテレコで質が下がったと言われたくないという思いですね」。さらに、「(クリント・)イーストウッドをやってみたいですね。『マディソン郡の橋』とかね。『パーフェクト・ワールド』の時、コスナーをアテながら、山田康雄さんがアテていたイーストウッドをアテたいなと思いましたね。年齢的にも合うと思う。ぜひしてみたいです!」と意気はますます盛んだ。

津嘉山正種プロフィール

1944年生まれ。沖縄県出身。劇団青年座所属。舞台俳優として活躍すると共に大河ドラマや2時間ドラマなど出演し、声優業ではアニメキャラクターや映画の吹き替えを担当。持ち役のケビン・コスナー、ロバート・デ・ニーロのほか、リーアム・ニーソンリチャード・ギアなど、そうそうたる名優の声を吹き替える。ニヒルな低音ボイスで吹き替え全盛期時代、1年に99作出演したほど。時代劇ではナレーションも多数務める。出演作には舞台「NINAGAWA・マクベス」、映画『踊る大走査線』シリーズ、『男はつらいよ』シリーズ、アニメ「逆境無頼カイジ」シリーズなど。ラジオ「クロスオーバーイレブン」のレギュラー放送では、約20年間パーソナリティーを務めた。

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