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人はなぜ老いを恐れる?『Arc アーク』原作者ケン・リュウも息をのむ映像化の完成度

『Arc アーク』はSF的な世界をどう描く?
『Arc アーク』はSF的な世界をどう描く? - (C) 2021映画『Arc』製作委員会

 SF作家ケン・リュウの短篇小説「円弧(アーク)」を原作に、女優・芳根京子が7年ぶりの単独映画主演を務めた『Arc アーク』が6月25日より公開。本作にエグゼクティブ・プロデューサーとして参加したケン・リュウが作品に込めた思いや完成した作品を目にした感想を明かした。

芳根京子が永遠の命を得る初めての女性に!『Arc アーク』予告編【動画】

 本作は、映画『愚行録』『蜜蜂と遠雷』などの石川慶が監督を務め、ストップエイジングが現実となった近未来で初めて永遠の命を得た女性の半生を描く物語。その年の最も優れたSF・ファンタジー作品に与えられる3大賞として知られるネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞を受賞するという史上初の快挙を成し遂げ、日本でも高い人気を誇る「紙の動物園」をはじめ、最近では是枝裕和監督の『真実』に劇中劇として「母の記憶に」が登場したことも記憶に新しい。

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 ケン・リュウはスタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』やクリストファー・ノーランの『メメント』を好きな映画に挙げ、「両者ともに映像メディアとしての映画の可能性を拡張し、映画の限界についての理解を広げていると思います」という。「しかし、私は創作において映画作品から直接的に影響を受けることはありません。(文学や映画など)それぞれのメディアの強みを生かしてこそ最良の作品となると思います。私は〈ボディワークス〉を描写するにあたり、読者の想像力を喚起するべく、実現不可能なビジョンを提示しました」とスタンスを明確にする。

 事実、不老化の施術や故人を在りし日の姿のまま永久に保存する〈ボディワークス〉など、SFの要素を多分に含んだ物語の映像化には高いハードルがありそうだが、石川監督の過去作から映像で語る力に感銘を受けていたというケン・リュウは「完成した映画を観るという体験はまさに息をのむもの」と称賛を惜しまない。「石川監督は映像メディアの強みを生かして、私の物語における描写に捉われることなく、自ら映像言語を獲得したのだと思います」

Arc アーク
(C) 2021映画『Arc』製作委員会

 「企画の開始当初、石川監督は『この物語に油彩画ではなく水墨画的な美しさを感じた』と説明してくれました。それはつまり、この映画作品における陰の空間、見せられてあるいは語られていない事柄こそが、目に見えて語られていること以上に意味を持つということだと解釈しています。私が脚本にコメントした際には、常にこの石川監督のビジョンをサポートできるよう意識していました」と語る。「石川監督は『人類の永遠の若さに対する恐れの物語として読み、映画ではそれに判断を下すのではなく、共感する姿勢をもって描く』という監督の意図は見事に成功したといえるでしょう」

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 主人公のリナを演じた芳根は、17歳から100歳以上にわたる人生を生き抜く、永遠の命を手に入れた世界初の女性を演じた。「芳根さんは難しい仕事を成し遂げたと思います。劇中に肉体的な加齢描写はほとんどなく、何十年も精神が年を取り続けるという演技は並外れた挑戦です。芳根さんは映画全編を通してリナに説得力をもたらしています。冒頭、リナは臆病で無軌道な10代として登場し、終盤直前には数十年ぶんの悲しみと愛情を背負った女性となっています。一人の女優によって演じられたとは思えない、芳根さんの演技力の賜物であり、芸術だと思います」という。

Arc アーク
(C) 2021映画『Arc』製作委員会

 とりわけケン・リュウは「リナのダンスによって〈ボディワークス〉が形作られていく場面は素晴らしい」と評価する。「生者と死者が目には見えない結びつきで繋がっているという、比喩に富んだ豊かな映像表現だと思いました。この動きのある表現のおかげで、死を見えないところに押しやり、生死を結び付けてきた伝統的な文化を否定しようとする現代性への対抗手段となるでしょう」

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 短篇小説「円弧(アーク)」が発表されてから、およそ10年の月日が経過している。若さとは何か? 老いと死を恐れるのはなぜか? と問う本作をめぐる状況も大きく変化するなかで、原作者の思いはどのようなものだろうか?

Arc アーク
ケン・リュウ - (C) Lisa Tang Liu

 「死を克服したいという人々の思いは決して衰えることはなく、永遠の若さを恐れながらも渇望するのは摂理です。人の寿命が引き延ばされると、考え方を問い直し始めるでしょう。人がどれだけ長く生き永らえたとしても普遍的で変わらないものとは何か? と。そんな時代が訪れることは少しも疑問に思っていません。ただ、これまでSFは未来を予測する存在であったことはありません。いつでもSFは、恒久的な人間性というものが、大きな変化に直面した際に何が起こるのかということを問い続けてきたのだと思っています。その意味で最もSFに近い伝統的な文学は叙事詩であると思っています。ともに、人間である英雄たちは神や神に類するテクノロジーと対峙することで、人が人たる道を我々に示しているのです」(編集部・大内啓輔)

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