シネマトゥデイ

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『レス・ザン・ゼロ』『アメリカン・サイコ』などで知られるアメリカ文学界の雄ブレット・イーストン・エリスの同名小説を映画化した『ルールズ・オブ・アトラクション』。青春時代特有の虚無感と何かを切望する気持ちの矛盾なまでの共存、それに翻弄される若者たちの愚かだけれども切ない姿を綴った本作で、若者の1人であるビクターを演じたキップ・パルデューが来日を果たした。彼が演じるビクターは大学在学中にヨーロッパ旅行へ出掛けてしまうお金持ちの青年で、旅先ではひたすら女の子をナンパし続ける。しかも、その撮影方法は、キップがビクターを名乗り、実際にヨーロッパに赴いてナンパをしている“ドキュメント”だというのだから、何とも気になるところ。これまでの“爽やかキップ”とは異なるチャレンジングな経験について語ってもらった。

――この作品のビクターという役は、あなたにとって非常にチャレンジングなものですね。

君の言うとおり、まさに役者としてチャレンジングな役で、怖いという気持ちさえあったよ。でも、僕の中にはチャンスをつかんでいきたいという気持ちが常にあるし、ビクター役は僕にとってチャンスだと確信したんだ。

それに、もともとブレット・イーストン・エリスの大ファンだったし、学生時代に原作を読んで感銘を受けていたからね。実は、エリスの著作で『ルールズ・オブ・アトラクション』の続編にあたる『グラモラマ』という作品があるんだけれど、最初は『グラモラマ』の方の映画化に参加することが決まっていたんだ。『グラモラマ』はビクターが主人公の物語で、僕は彼を演じることになっているんだけれど、その後に『ルールズ~』も作られることを知ったんだよ。それで、どうせなら「どちらの作品にも出演したい!」と思って、ロジャー・エイヴァリー監督に頼んだら出演できることになった。しかも、その後『グラモラマ』もロジャーが監督することになったんだから、まさにラッキーな流れだよね。


――ビクター役を演じることを周りの人たちに反対されたりしませんでしたか?


ビクターの役柄というよりも、撮影方法に危惧を抱いた人が多かったね。というのも、ビクターがヨーロッパを旅行するシーンを撮影する時、ロジャーは「24時間常にカメラを回して君を撮りたい」と言ったんだ。だから、その撮影方法に関して周囲はすごくナーバスになっていたよ。いわゆるキップ・パルデューという役者のイメージからかけ離れたことをして、それをカメラに撮られてしまうかもしれない、と。でも、僕は演技のためならリスクも負いたいし、この仕事をすごく誇りに思っているから全く問題はなかった。それどころか、ロジャーが今までとは違うイメージの役を演じさせてくれたこと、僕にそれができると信じてくれたことを誇りに思っているんだ。


――ヨーロッパ旅行のシーンは、あなたがビクターを名乗り、実際にヨーロッパで女の子たちに声をかけまくる“ドキュメント”ですが、キップ・パルデューだと気づかれてしまうのでは?


そうだね。でも、結構気づかれなかったよ。髪が短かったし、態度からしてビクターになりきっていたから。自己紹介をする時にも「ビクターです!」と言い切っていたからね。


――日本だったら大変ですよ。


そうかな? フフ、ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。


――ビクターはモテモテのキャラクターですし、演じるあなたもすごくカッコいいんですから、そんな2人が合体してなびかなかった女の子なんていないでしょう?


そんなことないよ!(照) 最初は全くなびいてくれなかった。映画の中で使われているシーンほど上手くはいかなかったね。もともと僕は女の子に声をかけたりするのは苦手なんだ。だから、撮影はすごく苦労したよ。何度も失敗を重ねながら学びつつ声をかけてみたんだけれど、旅が終わった頃には少しは上手になったかなぁ。どうやら、ビクターのキャラクターの通り、傲慢な態度でアピールした方がいいみたい(笑)。それがわかるまでのプロセスは面白かったね。


――その撮影で学んだことをプライベートで活かしたりは……。


ノー、ノー。そんなことしないよ!(慌) ビクターは最低ヤロウだし、彼の傲慢なところは全然好きじゃないんだ。だから、ヨーロッパ旅行のシーンで24時間彼になりきらなきゃいけなかったのは、やりがいがあるけれどもすごくつらいことだったんだよ。僕自身は人のことを大切にしたいし、彼みたいな人間にはなりたくないな。


――わかりました(笑)。では、ビクターや彼以外の主人公たちをどう捉えましたか?


エリスの小説に惹かれる理由は、社会的な風刺が効いている内容で、アメリカの80年代以降のカルチャーを冷静に見つめているからなんだけれど、そこには人間というものが如何に外見ばかりを気にしていて中味がカラッポになってしまっているかが描かれている。でも、彼の描く主人公たちは嫌悪感を覚える人物ばかりだけれど、読むのを止めさせるような嫌悪感ではないんだ。ロジャーも映画の中ではその部分をすごく慎重に描いていると思う。好ましいとは決して言えないけれども、映画の主人公として見て、一緒についていけるような若者たち――僕もそういったキャラクターを目指して演じたよ。ビクターはまぎれもなく最低ヤロウだけれど、それでも彼の言うことを聞きたい、彼のやっていることを見たいと思わせるようにね。


――あなた自身は彼らの青春に共感できますか?


彼らの心情はすごく理解できるけれども、彼らは自分たちが求めている感情――たとえば愛情などを間違ったところで探していると思うんだ。でも、どうして間違ってしまうのかが僕にはよく理解できないな。ドラッグやセックスに没頭する前に、まずは人間として成長すべきだよね。彼らは自分が人間として成長することとドラッグやセックスを切り離して考えられないんだ。自己発見をしようとしている姿勢には共感できるけれども、その方法はおかしいよね。


――あなたの大学生活はどんな感じだったんですか?


この映画に出てくるような大学生活とは全然違っていたよ。友達もそんなに多くなくて、(眉間にシワを寄せるポーズを取りながら)顔をしかめて読書に没頭していた。もしかしたら、僕は楽しいことをやりそこなったのかもしれない。でも、全く後悔はしていないし、そういった大学生活を送ることができてよかったと思っているよ(微笑)。


――さて、気になる『グラモラマ』の映画化についても伺いたいんですが、企画はどのくらい進んでいるんですか?


1週間程前にロジャーが脚本を書き終えたところだよ。その脚本をこれからいろいろな人に見せるんだ。まだまだ初期の段階で、来年中に撮影をスタートさせられればいいなって感じかな。


――『グラモラマ』は、日本では翻訳版がまだ出版されていないんですよ。


オゥ! そうなんだ。


――映画化の企画が勢いよく進んだら、日本でも慌てて出版されることになると思うので、頑張って早く完成させてくださいね。


うん! オーケー、オーケー、任せて(笑)。


――なので、『グラモラマ』はどんなお話なのかを少し教えていただけますか?


オーケー! ビクターの7年後を描いた物語なんだけれど、彼はファッションモデルになっているんだ。それで、あるナイトクラブがオープンする晩に、ビクターは彼の古い友人を探してほしいという依頼をすごく謎めいた形で受ける。それから、ヨーロッパに友人を探しに行くんだけれど、その道程で彼はだんだんおかしくなってしまい、テロリストになる……そんなお話だよ。


――すっごく楽しみにしています!


うん、期待していてね。(日本語で)アリガトウ!こちらの目をじーっと見つめながら、どんな質問に対しても熱心に答えてくれるキップ。時折照れたり、焦ったりする様も実に明るく爽やかで、その誠実で知的な姿は、やはりビクターとは別物。あらためて、彼の役者としての幅を認識させられたインタビューでもあった。『ルールズ・オブ・アトラクション』は11月15日よりシネクイントほかにて公開される。

(取材・文:渡邉ひかる)

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