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『レディ・ジョーカー』平山秀幸監督独占インタビュー

取材・文・:平野敦子/写真:FLiXムービーサイト

1997年に“グリコ・森永事件”を元に書かれた、高村薫原作の64万部のベストセラー小説「レディ・ジョーカー」を、『愛を乞うひと』や『OUT』などのベテラン、平山秀幸監督が映画化。当初映像化は不可能だとささやかれていただけに、主演を務めた渡哲也や、<21世紀の裕次郎を探せ>でグランプリに輝いた新星、徳重聡ら新旧の豪華キャストを迎えて完成した本作への期待はふくらむ。年代も職業も全く異なる5人の男たちが企業誘拐を企てるという、背景の複雑な物語をスクリーンに復活させた監督に話しを聞いた。

Q:映画化が難しいとされていた小説を映画化するにあたってのご感想は?

まず感じたのは手ごわい原作が相手だなということでしたね。そして実際に映画を撮ってみて思ったのは「いやぁ、やっぱり手ごわかったな」というのが正直なところです(笑)。

Q:原作は読まれましたか?

はい。本が出版された1997年当時に読ませていただきました。二段組の上下巻の長編ですからね。そのときは、まさか自分が監督するとは夢にも思っていなかったので、誰か映画化するのかなぁ、きっと大変だろうなぁ……ぐらいにしか考えていませんでした。

Q:では実際ご自分に監督のオファーが来たときはどう思われましたか?

オイオイオイ、ちょっと待ってくれよ……という感じでしたね(笑)。ただ去年すでにシナリオはできていて、スタートの時点で渡哲也さんと新人の徳重聡くんという配役は決まっていたので、じゃあ、その中でどうやるかというのが始まりでした。

Q:渡さんとのお仕事はこれが初めてですか?

ええ。渡さんは僕が映画監督をやる前からの大スターで、スクリーンの向こう側で見ていたヒーローですから、本当に僕が監督でいいのかいなぁ……とかね(笑)。徳重君に関しては、実際会うまではどういう人となりかというのは全くわかりませんでした。

Q:徳重さんにお会いになられていかがでしたか?

彼は本当に好青年だと思いました。ただ彼が演じた合田刑事というのは、原作の中では年齢も38歳ぐらいで、酸いも甘いも噛み分けて……という役柄なんですが、徳重君がふんする合田刑事というのは、きっと原作の中の人物とは違うんだろうなという予感はしていたんです。最終的には徳重聡の演じる“合田”という役が映画の中で見えればいいと思っていました。

Q:“レディ・ジョーカー”の5人のメンバーの中で一番思い入れが強いのは?

とくに誰というのはないですね。映画の中では渡さんが演じる“物井”という初老の男の過去も含めての物語が中心にありますが、原作の中では犯人の“レディ・ジョーカー”の5人のメンバーも、誘拐される側の城山社長も、それぞれが等しくその世界を作り上げる要員の一人で、誰か1人が欠けてもダメなんだと思います。ただ吉川晃司さんが演じた“半田刑事”というのは己の欲望が表に出ているし、言葉にもしているので、一番わかりやすいキャラクターだとは思います。

Q:年代も個性も異なる役者さんたちへの演技指導は?

いちいち現場で指導をしたりはしませんが、例えば渡さんが演じた“物井”という男性は誘拐の主犯ですが、自分の家に帰ればひとりぼっちなんですね。きっとメシも食うだろうし、洗濯もするだろうと思ったんです。そういう生活の営みのようなことを大事にしたいですねという話はしました。犯罪者だからといって、いかにもというような目つきや態度はやめましょうとは言いました。原作の“レディ・ジョーカー”は犯罪部分にだけ重点を置く作品じゃないなと僕自身が思っていたんです。

Q:映画の中で一番難しかったシーンはどこですか?

大変だったのは夜の雨のシーンですね。あれはクリスマスに4日ぐらい徹夜でやって、スタッフからもブーブー文句を言われましたよ(笑)。それよりも大変だったのは、どのようにして原作のテイストを残していくかということでした。本だと“行間を読む”ということができますよね。でも映画の場合は映像になった瞬間にもう“これですよ”というハンコを押されるわけですから。その中にほんの少しでも原作の匂いを残したいと思ったんです。映画が暴走しそうになったときは、常に原作に立ち戻ろうと肝に命じていました。

Q:あの身代金の20億円という大金の行方が非常に気になるところですが?

日本でバブルがはじけたときに何千億円という金がどこかに消えているんですよ。今回は20億円というそれよりも少なめの金額でしたが、そのような象徴としてとらえてもらえればいいなぁ……というような考えはありました。あれだけ大騒ぎして結局はその所在がわからないというのは、日本のここ十数年の混迷の時代を表現しているんです。

Q:原作者の高村さんのこの映画をご覧になってのご感想は?

高村さんはもともと映画と文学は違うものだと心得ていらっしゃいます。映画を撮る前に「高村さんは怖いよ」とさんざんまわりから脅されましたから「原作の持つ肌触りというものがちゃんと映画の中にもありましたね」と言われたときにはホッとしましたね(笑)。

Q:監督はどのような観客にこの映画を観てもらいたいと思いますか?

僕はお客様を選べるような立場ではないですから、とにかく色々な方に観ていただければと思います。今の映画を観に来るお客さんというのは、単純に笑って帰るとか、泣いて帰るとか、わかりやすい終わり方が好きだと思うんですよ。この映画はあえてその逆方向に行っているので、正直どうなんだろうという不安な部分はありますね。

Q:長年監督をなさってきて、培ってきた経験というのは役立っていますか?

一番大事なのは“覚悟”ですね。もし作品が良かったりヒットしたりすると、それはもちろん、うれしいですよね。ただ逆にダメな場合というのもあるわけですよ。悪評も含めてそのときにそれをどう自分で受け止めるかということです。当然落ち込むことも、ムカムカすることもありますけれどね。映画というのは監督ひとりだけのものではなくて、スタッフとキャストも含めての集団作業なんです。だからその全ての責任を、監督として引き受ける覚悟があるかどうかということだと思います。ストレスはめちゃくちゃたまりますが、好きな仕事ですからね。

Q:現実的な作品が多いですが、今後全く違ったタイプのものを撮る予定は?

もし次に何か企画があればわかりやすい映画を撮ってみたいとか、笑える映画を撮りたいという気持ちはあります。やはり監督としていろいろなことに挑戦してみたいですから。もし仕事がなければ僕は失業者ですよ(笑)。映画監督というのは仕事をしているときは“監督”と呼ばれますが、していないときはただのオッサンですからね。無職のときは家ではすっかり粗大ゴミ扱いです。いやぁ、せつないですねぇ……(苦笑)。

助監督時代の12年を含め、映画の仕事を始めてから20数年にもなるという監督。超のつくベテランだがその物腰は柔らかく、実際とても謙虚な方である。普段は“夫婦5割引”を利用して奥様と一緒に映画館にも足を運んだりするという庶民的なところにも親しみを覚える。だが一本の映画の責任を背負って立つ姿は勇ましく、社会情勢を見つめる瞳には強い力が宿っているのだ。自分はどちらかというと犯人側の心理がわかるとしみじみと語っていた監督。「渡哲也さんに似ていらっしゃいますね」と言うと大いに照れて、「いやそんなめっそうもない!」と必死にかぶりをふっていた姿が印象的だった。そんな照れ屋の監督に、今後も観客の側に立った良質の作品をどんどん撮ってもらいたいものだ。

『レディ・ジョーカー』は12月11日より全国東映邦画系にて公開中。

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