シネマトゥデイ

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真田広之
『上海の伯爵夫人』
反日感情を目の当たりにしたからこそ、
あえてこの役に挑みたかった
『上海の伯爵夫人』真田広之 単独インタビュー

取材・文・写真 シネマトゥデイ

『ラスト サムライ』『PROMISE』など海外での活躍がめざましい真田広之が、巨匠ジェームズ・アイヴォリー監督がメガホンをとった『上海の伯爵夫人』で、“中国政府に恐れられる男”マツダを熱演した。クラシカルな英語のセリフをエレガントに話し、共演のレイフ・ファインズにも引けをとらない演技を見せた真田は、本作で海外の映画関係者やメディアからも注目を集めている。アイヴォリー監督も絶賛した真田広之が、現場でのエピソードから、今後の活動までを語ってくれた。

■反日感情が高ぶる中、危険を覚悟で演じた敵(かたき)役

Q:大変難しい役柄だったと思いますが、中国での反日運動を考えたときに躊躇(ちゅうちょ)することはなかったのでしょうか?

反日感情に対する不安というのは特にありませんでした。逆に反日とか、そういった問題が大きくなっているときだからこそ、日本人がこういう役を演じなければという気持ちが大きかったですね。また、こういう映画が日本で公開されるということは、とても大切なことだという思いもありました。自分の役は、中国の方にとっては敵(かたき)役ではありますが、役者としてあえてそれを演じたかったので、危険も覚悟で役に挑みました。

Q:この役のオファーがきたのは、いつごろだったのでしょうか?

ちょうど、北京で『PROMISE』を撮影している最中で、さまざまな反日活動や、反日感情を目の当たりにしていたときです。そんなことがあったから逆にこの役を演じたかったというのはあるかもしれませんね。いろいろなことを考えさせられていた時期だったので、とても運命的なものを感じたんです。日本側からだけの視点ではなく、客観性を持って演じようと心掛けました。

■映画の力を再確認した作品

Q:中国での会見にも出席されたそうですが、反応はいかがでしたか?

現在の反日感情の根源ともいえる役を演じたわけですから、記者会見で感情的な質問をぶつけられるだろうと覚悟していたんです。でも拍子抜けするほど、政治的な質問はなかったんです。『PROMISE』が先に公開されてヒットしていたので、「あの映画に出ていた役者が、あえて悪役を演じて、上海まで乗り込んできた」ということをくみ取ってくれたのか、中国ではとても歓迎されました。扱っている内容が複雑でも、役者、スタッフの気持ちが伝わる、映画の持つ力はすごいと改めて感じましたね。

Q:プロデューサーであるイスマイル・マーチャントが亡くなられたニュースが大変ショッキングでしたね。

撮影を終えて、編集も終わったころでしたね。ちょうど僕がロンドンで、彼とランチをした翌日に倒れられたので、本当に急でした。完成を観ずに逝ってしまったことが、本当に残念でなりません。とにかく、アイヴォリー監督が心配でした。45年間一緒に作品を作ってきたパートナーがいなくなってしまうなんて、自分の体を半分失ってしまった感じだったでしょう。その中で、彼にはこの作品を完成させなくてはいけないという使命があったからこそ、気丈に乗り越えられたんだと思います。ですから完成した作品を初めて観たときは、やっぱり誰もが涙なくしてはエンドロールを観られませんでした。

■全編英語でいっぱいいっぱい

Q:セリフは全編英語という大変難しい挑戦だったと思いますが、いかがでしたか?

古めかしいブリティッシュイングリッシュなので、アクセントも言い回しもとても独特で、英国人であるレイフのアドバイスにかなり助けられました。役柄についても、ステレオタイプ的な“悪い男”にはしたくなかったし、監督もそれを望んでいなかったので、とにかく自然に……といってもそれが一番難しいんですが(笑)。アイヴォリー監督は、本当に制約をされない方で、自分たちでどんどん決めて……という演出をされるんです。自分としては「ぜんぶ決めてよ(笑)」って、撮影が始まったばかりのころはパニックでしたね。だんだん慣れてきてからは、とにかく楽しくなりました。

Q:真田さんの完ぺきな英語力はどこで培われたものなのでしょうか?

その都度、現場でいっぱいいっぱいになりながら覚えていきます。レッスンを続けてはいるんですが、役によってアクセントも違うので……。英語って本当に難しくて、出身地や、階級によってアクセントがまったく違うから、向こうの俳優さんでも役柄によってコーチが付くこともあるんです。日本で言う方言指導みたいな感じかな。これがずっと続いていくわけですからぞっとしますよね。それでもなんとか、自分の理想に近づけるように、「日本人だから、しょうがない」っていうところには絶対逃げ込まない覚悟でやっています。

■レイフ・ファインズと白熱の演技合戦

Q:レイフ・ファインズとの共演はいかがでしたか?

アイヴォリー監督は6ページほどの場面も長回しで撮るんですが、レイフは毎回アプローチを変えてくるんです。セリフのタイミングも、ニュアンスもすべてが違うんです。中にはアドリブもあるし(笑)。まるで毎日がライブセッションをしているようで、楽しんで芝居をしていました。ラストのレイフとの別れのシーンは最たるものでしたね。カメラは引きっぱなしで、僕とレイフが立って「さあどうぞ」って感じでした。まるで、レイフと2人で舞台に立っているような気持ちになりました。

Q:例えば、どんなアドリブがあったんでしょうか?

おそばを食べているシーンがあったんですけど、僕が「辛いのいるか?」とわさびを出して、レイフが「ああ」と言ってそれを受け取る。でも、次のテイクでは「辛いのいるか?」って聞いたら「いらない」って……。そんな細かいところでも、毎回アプローチが違うんで「いじめかよ!」って感じでしたね(笑)。

Q:英語でアドリブなんてとても難しそうですね。

もちろん、すごく大変です! 「アドリブの返しが『オーケイ』だとアメリカンぽいから、ブリティッシュイングリッシュで『オールライト』にして」みたいな……。「台本にないじゃ~んっ!」ってぼやきました(笑)。

Q:そこまで細かく指示をされると、パニック状態になりませんでした?

プレッシャーで「ウワー」っとはならないですね。そういうことがうれしいんです。アメリカンイングリッシュと、ブリティッシュイングリッシュとの違いで演技を止められる……、そこまで求めてもらえる環境にいることがうれしくて……。もちろん悔しい思いは常にありますが、アドリブの返しもそのキャラクターが使うべき言葉で返さなければ現場にいちゃいけないんだな、と毎回たくさん宿題をもらって帰りましたね。

■アクション映画への出演を解禁!

Q:『PROMISE』では素晴らしいアクションを披露されていた真田さんですが、アクション映画への出演はこれからも予定されていますか?

むしろ20代半ばのころには、アクション映画への出演を制限していたんです。そういう役しかできなくなってしまうのでは……、という怖さもあったので。意図的に控えた時期を越えて、『ラスト サムライ』『PROMISE』と今さらですがアクション解禁です(笑)。そういう意味では人が卒業していくころに「まだやるか、あいつ!」と言われるのが20代の目標のひとつだったんです(笑)。もちろん役者ですから、お芝居は基本ですが、それを支えるのは肉体。そのバランスをうまくとって、体にむち打ちながら(笑)動く限りは暴れようかなと思います。

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーへの出演で、高い評価を得た真田広之にとって、同じシェイクスピア俳優であるレイフ・ファインズとの共演は、鳥肌が立つほど楽しかったものに違いない。難関だったであろうブリティッシュイングリッシュのセリフに関しても、現場でのアドリブ合戦にしても、苦労話をとにかくうれしそうに話す真田の姿がとても印象的だった。『PROMISE』での吹替え一切なしの北京語、そして『上海の伯爵夫人』での全編英語による迫真の演技。乗り越える壁が高ければ高いほど、嬉々として挑戦していく真田広之の魅力は、これからも国境を越えて伝わっていくのではないだろうか。

ヘアメーク:高村義彦(SOLO.FULLAHEAD.INC)
スタイリスト:勝見宜人(Koa Hole)

『上海の伯爵夫人』は10月28日よりBunkemuraル・シネマほかにて全国公開。

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