シネマトゥデイ

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私はこの暗殺シーンが身の毛のよだつ光景だと人々に認知されると確信していたので、ブッシュを一人の良識を持った人間としてとらえることが重要でした。彼のスピーチ・ライターや側近なども供述しているように、彼は友好的で親しみやすい一貫性のある性格を持ち、ある程度賞賛と敬意すべき要素を持ち合せた部分を描くことは必須でした。−ガブリエル・レンジ−~この人の話を聞きたい~その10:言論の自由に真っ向から立ち向かうガブリエル・レンジ
1994年に前妻と友人を殺害した罪に問われ、その後無罪になったフットボールの名選手O・J・シンプソンの告白本とFOX TVのインタビューが、不道徳な行為と世論の批判を浴びて、発売中止や放送禁止になり、その後、予想どおりお蔵入りになったことは記憶に新しい。
 
今回のインタビューは、上記で問題になっている言論の自由について触れてみたい。アメリカ憲法第一条で掲げられているこのFreedom of Speech(言論の自由)は、芸術と商業の狭間で、論争を繰り広げてきた。そして今アメリカでは、この問題に真っ向から立ち向かっている『Death of a President』が公開されている。『Death of a President』はトロントの映画祭で公開される前から、暗殺シーンを写した静止画があらゆるメディアで取り上げられ、物議を醸した。そのためか、この映画の公開を、国内6300館の劇場を経営しているリーガル・エンターテイメントと、国内2500館のシネマークUSAなどが劇場で公開しないと決断したほどである。
 
今回は、その話題の渦中にある監督のガブリエル・レンジに、彼の観点から主張したい事を語ってもらった。
Q:なぜこの題材に興味を抱き製作を始めたのでしょうか?
(ガブリエル・レンジ)まず、この映画は決して個人的な感情で大統領を非難したものではありません。私は、2004年末に、この「暗殺」という題材が浮かびました。アメリカの歴史上の大統領暗殺は、時代を反映する一つの尺度でもあり、私にとってこの大統領暗殺を持ち出す事が、説得力のあるやり方で9・11からこの5年間で何が起こっていたか突きとめられるきっかけと判断しました。特に現政府がテロの惨事下で、不当に人々に恐怖感を植え付けてきた事も含め、私はこの映画自体の持つ影響力で、政府に対して綿密な調査をさせるきっかけにしたかったのです。
 
Q:それでは、なぜ架空の大統領を描かなかったのでしょうか?
 
(ガブリエル・レンジ)私自身が作りたかった映画は、われわれが住んでいる環境と全く同じものと、世間が認識している政治風潮を描くことです。もし架空の大統領であったなら、人々の念頭から簡単に払いのけられてしまうと思ったからです。
Q:確かにあなたは、個人的な批判ではないと主張してますが、映画内ではかなり効果的なやり方で大統領暗殺が実行されています。現在、生きている人に対してこれほど批判的なことはありえるでしょうか?
(ガブリエル・レンジ)私自身、個人的にはこの映画が一線を越えたものだとは思っていません。もちろん、とてもに挑発的なものでありますが、ある人達が繊細かつ過敏に反応している事は理解できるし、それでいてこの映画を支援してくれてる人もいます。ただ私は、映画は時々突拍子もないくらい非道なものであってもいいと感じているのです。
 
Q:アメリカで公開されるものは、トロント映画祭で公開されたものと全く同じなのか、それとも編集されたものなのでしょうか?
 
(ガブリエル・レンジ)トロントで公開されたものと全く同じで、宣伝に使われた静止画(暗殺シーン)は、撮影中に写されたもので、静止画であるため映画に入っていません。これは、際立って人目を引くものであり、その瞬間のドラマを的確にとらえたものだと思ってます。
Q:テレビCNNとラジオのN.P.R(National Public Radio=アメリカラジオ国営放送)の二つが、この映画の宣伝を流さないと決定しましたが、その事について驚いていませんか?
(ガブリエル・レンジ)もちろん驚いていますし、視聴者をさし置いて、勝手に決定してしまっているわけですから、その決議が、伝達するメディアの役割として適した判断ではないものだと思います。
 
Q:映画内ではテーマに反して、かなり友好的かつ好感度の高いブッシュ大統領の映像があるのですが、なぜこの選択を取ったのでしょうか?
 
(ガブリエル・レンジ)私はこの暗殺シーンが身の毛もよだつと光景だと人々に認知されると確信していたので、ブッシュを一人の良識を持った人間としてとらえることも重要でした。彼のスピーチ・ライターや側近なども供述しているように、彼は友好的で親しみやすい一貫性のある性格を持ち、ある程度賞賛と敬意すべき要素を持ち合せた部分を描くことは必須でした。
 
Q:アーカイブ映像を使ったことで、映像の質を落とすことになったのではないですか?
 
(ガブリエル・レンジ)暗殺直前まで向かっていくシークエンスは、アーカイブの映像をつなぎ合わせながらストーリー構成をしていき、それをマスターショット(一般に、シーン全体を映すためにカメラが引いた状態で撮影したものを示すが、この場合は、状況説明に使われたショットと解釈して欲しい)として、そのほかのアングルのものを、後に肉付けしていきました。引き合いに出されたブッシュ大統領のアーカイブの映像は、画質の低いBeta Sp(ビデオのフォーマットでTVの大半は、これが使われている。)でした。映画の大半はHD(ハイデフ)で撮影されているため、画質の低いアーカイブとつなぎ合わせるときは、あなたの言っているように、映像の質を落とした部分もありました。
Q:どのような方法でデモの参加者を撮影したのですか?
(ガブリエル・レンジ)2006年の3月18日、シカゴであったデモを撮影したもので、参加者の多くは、過去にあったブッシュ大統領がポートランド(オレゴン州にある都市)を訪問した際に起きた出来事から発想がわき、反戦活動を試みたものでした。それは、走行する車の前に多勢で群がって進行を妨げたり、スピーチの行われるホテルを完全に人で包囲しまう事でした。ここで伝えたかったのは、不適当な数の警察を動員し、デモの参加者といがみ合うドラマを、今も無闇やたらとイラクに派遣される兵士と関連させ、それを暗示したものでした。
 
Q:最後に『死の脅迫』を受けたという事を話して頂けますか?
 
(ガブリエル・レンジ)製作発表後すぐ、トロント映画祭のディレクター宛にあったのですが、私が訴えたかったことと違う解釈した人が送ったものでしょう。この映画が繊細な題材であるのは痛感しています。議論をかき立てる映画であって欲しいでのす。


映画のタイトルと相反して紳士的な彼は、自分の主張したい事を的確に答えてくれた。われわれは、言論の自由という言葉を突きつけられた時、その言葉自体が持つ基準が、どの程度まで許され、どの程度が悪意に満ち統制、弾圧されるべきなのかは人それぞれの解釈がある。しかし民主主義社会の原動力である言論の自由を、読者、視聴者の目を無視して排除される行為は、問いただしてみる必要性はないのだろうか?
細木プロフィール
海外での映画製作を決意をする。渡米し、フィルム・スクールに通った後、テレビ東京ニューヨ−ク支社の番組モーニング・サテライトでアシスタントして働く。しかし夢を追い続ける今は、ニューヨークに住み続け、批評家をしながら映画製作をする。
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