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松雪泰子
『子宮の記憶 ここにあなたがいる』
“愛”が感じられるとき、人は劇的に変化すると思う
『子宮の記憶 ここにあなたがいる』松雪泰子 単独インタビュー

取材・文:平野敦子 写真:田中紀子

『子ぎつねヘレン』『フラガール』と話題作への出演が続き、『フラガール』では日刊スポーツ映画大賞主演女優賞に輝いた松雪泰子。今、女優として絶好調の彼女が、脚本ができるのを長い間待ち望んで出演した『子宮の記憶 ここにあなたがいる』が1月13日より公開される。過去に新生児誘拐という罪を犯し、現在はその過去を悔いるようにひっそりと暮らす女性を全身全霊で演じた彼女に主人公・愛子の魅力や、本作への熱い思いについて聞いた。

■潜在意識に訴える作品

Q:ここのところ難しい役が続いていますが、その切り替えはどのようにされているのでしょうか?

撮影は『フラガール』の後になりましたが、実は何年も前からこの作品のお話はいただいていたんです。前作の『フラガール』の撮影からもだいぶ間が空いていましたし、役柄のタイプも違っていたのでわりとすんなりと役に入っていくことができました。

Q:この役を演じたいと思った理由を聞かせてください。

全体的に分かりやすい話ではないのですが、その緩やかに流れていく時間軸の中で、“形にとらわれない愛の形”というものを表現できる、とてもやりがいのある役だと感じました。あらかじめ正解が用意されていないので、観る人がいろいろな視点でいろいろな見方をしてくださる映画だと思います。表面的な感情を理解するというのではなく、もっと潜在意識に訴えるというか……。そういう無意識の部分で起きる状況に反応していくと、人はどのように変化していくのかという部分も、観ていて共鳴できる作品だと思います。すごく深い話ですし、今の時代に合っていると感じました。

Q:最初は感情を押し殺していた愛子が、少しずつ感情をあらわにしていくのですが、その表現は難しくなかったのでしょうか?

愛子はガラスのように繊細(せんさい)な人で、わたしにもそれを表現する力が求められていましたし、その役の精神的な部分を現場でキャッチするのは本当に大変で、なんだか、かすみをつかむような感覚でしたね。ただ、監督もよくディスカッションをしてくださる方でしたので、すごくやりやすかったです。

■劇的な人生の変換期

Q:今回は素晴らしい出会いが重なったということですね。

人生で劇的な変化を及ぼす相手に出会って、無条件にお互いの存在を受け入れ合い、愛を感じられるときに人はすごく劇的な変化をすると思うんです。わたし自身、実生活でそのような出会いもありましたので、人が変化するときって本当に理屈ではないんだということを感じながら演じていました。思ってもみなかった出会いによって勝手に自分の魂や細胞が反応してしまい、感情が揺さぶられたりするんですよね。そういうところをうまく表現できたらいいと思いました。ある出会いによって真実の愛に触れた女性の心が、氷解(ひょうかい)していく様をイメージしました。

Q:愛子が良介と離れる選択をしますが、松雪さんならどうしますか?

恋人同士でも家族でも、形にとらわれがちだと思うんですよ。対象が近くにいると安心してしまうといのはあると思います。愛子はそれとは逆の選択をするわけですから、そこはものすごく深い愛の領域なんだと思います。一番それが集約されているのが「許してくれてありがとう」というセリフだと思います。それでお互いが浄化されていくというか……。わたしが愛子の立場でも同じようにしたかもしれませんね。彼女自身もあの瞬間に人生の出口を見つけて、その後、一人で生きていったと思います。その一瞬の温もりだけでも人は生きていけるのではないでしょうか。

Q:彼女はまだ30代なので、先はかなり長いと思うのですが。

長いですよね!(笑) でも究極の愛の形というのは、やはり依存や所有や、何か対象がなければ愛を傾けられないというのとは違う気がするんですね。すごく純粋に相手を思うときって深い部分でつながっているという感覚があれば、それだけで離れていても大丈夫なんじゃないかと思います。

■ほぼすっぴんで撮影できたのは、スタッフのおかげ

Q:今回嫉妬(しっと)深い夫役を演じられた寺島進さんとの共演はいかがでしたか?

彼はすごく面白くて愛情深い方で、いつも楽しませてくださいました。これまで何度も映画で共演する機会はあったのですが、一緒のシーンが少なかったので、今度は寺島さんとしっかり組んでやってみたいですね。

Q:柄本佑さんとの共演はいかがでしたか?

一見すごく淡々としているのですが、本当に面白くて、ユーモアがあって、いろいろな感性が彼の中にはたくさん詰まっているという感じがしました。

Q:今回いつも以上に松雪さんがとてもきれいでしたが、ほぼ、すっぴんで撮影したと聞いて驚いたのですが。

それは照明さんやほかスタッフの皆さんのおかげです(笑)。沖縄に1か月いたので、どんどん日焼けをしてしまって、最後にはすっかり真っ黒になってしまいました。

Q:映像もとてもきれいで感動したのですが、沖縄という場所の魅力もかなり影響しているのでしょうか?

食堂から見る景色もとてもきれいだったし、梅雨の前だったということもあって空気にも包み込むようなやわらかさがありました。いいシーンが撮れるときにふわりといい風が吹いてきたりして、自然に助けられた感じはすごくありますね。

■ただ生きるということの苦しさを表現した

Q:愛子と良介の別れのシーンはパーッと光が射して、神々しくさえ思えて強く印象に残っているのですが、松雪さんが印象に残っているシーンはありますか?

そうですね、わたしもあのシーンの抜けるような空と海の色は印象に残っています。あとは月の光りに照らされながら海に浮かんでいるシーンですね。愛子はあのとき良介が自分ではない誰かの所に行っているのを感じていて、メンタルなことも含めて、高ぶった感情を鎮めるシーンを入れたいと思い、「月の光を浴びて海に浮かんで浄化したい」と監督に提案したんです。

Q:愛子という人物はとてもかたくなで複雑な面を持っているけれど、一方では女神様のように美しく愛らしい女性のように感じたのですが。

とにかく母性愛を中心に演じたかったんです。今回は役のイメージをつかまえるのがすごく速くて、最初に脚本を読んだときにはすでにわたしの中で愛子のイメージが出来上がっていました。監督は当初もっと強い女性を希望していたのですが、わたしは繊細(せんさい)な愛子を演じたかったんです。生きる気力もなく、残された時間を生きた屍(しかばね)のように、ただ生きるということの苦しさを表現したいという思いがありました。

Q:最後にお気に入りのシーンを教えてください。

良介に本当は昔、愛子に誘拐された子どもだと告白されて涙を流すシーンですね。あそこはもともと「驚く」とか「驚がくする」とだけ台本に書かれていて、泣くとは書いていなかったんです。それまでずっと抱えていたものが開放されていくような感覚で涙が自然に流れてきました。そんなことはわたしにとっても初めてのことでしたので、印象的なシーンになったと思います。

やはり松雪泰子は完ぺきなまでに美しかった。彼女が演じた愛子という、愛情にあふれ、美しい心を隠し持つヒロインによって、さらに彼女自身の内面の美しさが引き出され、外見だけでなくより神々しい女神のような存在感を放っていたことに感動を覚える。難役に挑み、ほぼノーメークで沖縄の太陽にも耐え、あらためて女優に開眼した彼女の今後の活躍に大いに期待したい。

『子宮の記憶 ここにあなたがいる』は1月13日よりシネスイッチ銀座にて公開。

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